インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、景気重視に向けてハト派姿勢を強めている模様

~景気下支えへ追加利下げ余地に言及、政府との政策協調を一段と強める可能性も~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は18~19日の定例会合で、政策金利を2会合連続で4.75%に据え置いた。同行は昨年以降に断続的に150bpの利下げによる景気下支えに動いてきた。その背景には、インフレの落ち着きに加え、政府が景気下支えを重視する姿勢を強めていることへの忖度も影響した可能性がある。

  • 足元のインドネシア経済は、トランプ関税の本格発動を前にした駆け込み輸出に一服感が出る一方、インフレ鈍化や断続利下げも追い風に個人消費は堅調に推移している。政府は矢継ぎ早に景気対策を公表しているが、財政への警戒感が通貨ルピア安を招くなかで小出しの対応が続いている。

  • 中銀は先月の定例会合に続き、過去の利下げ効果を見極めるべく金利を据え置いた。世界経済の減速や金融市場の不確実性を指摘する一方、財政支援も追い風に今年通年の成長率見通しをわずかに上方修正した。また、ルピア相場は管理可能とした上で、今後も為替介入を通じた安定を図る考えをみせている。

  • 同行のペリー総裁は、市中金利の高止まりに不満を示し、追加利下げや政策支援の強化の可能性に言及した。その一方、外貨準備高の減少を警戒して為替介入にNDF市場を活用している。足元では民主化の後退が懸念されるなか、短期的な景気を重視する一方で中長期的な経済の不透明感が高まる懸念がある。

インドネシア銀行(中銀)は、18~19日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合連続で4.75%に据え置くことを決定した。同行は昨年から計6回、累計150bpの断続的な利下げを実施してきた。中銀が断続的な利下げに動く背景には、一昨年半ば以降のインフレが鈍化しており、足元では加速に転じているものの、依然として中銀の定める目標の域内で推移していることがある。また、プラボウォ政権は先月に発足から丸1年を迎えたが、ここ数ヶ月はいわゆる「Z世代」と称される若年層や労働者層などを中心に政権に対する反発が強まる動きがみられた(注1)。こうしたなか、政府は景気下支えに向けた政策の総動員を図る姿勢を強めており、中銀が利下げを進める一因になっているとみられる。ただし、こうした事情から中銀の独立性に対する疑念が生まれる動きもみられる。

図表1
図表1

今年前半のインドネシア景気を巡っては、政府と中銀による政策協調の動きに加え、インフレ鈍化も追い風に個人消費は堅調に推移するとともに、トランプ関税の本格発動を前にした輸出の駆け込みの動きにも下支えされてきた。足元では輸出駆け込みの動きが一巡する兆しがみられるが、個人消費は引き続き底堅い動きをみせており、7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+5.04%と前期(同+5.12%)から鈍化するも比較的堅調な推移が続いている(注2)。こうしたなか、政府は9月に反政府デモへの対応の一環として食糧支援や緊急雇用措置などをはじめとする総額16.23兆ルピア(GDP比0.07%)の総合経済対策を発表した。具体的には、1,830万世帯を対象とするコメの配布、観光産業従事者に対する所得税免除、インフラ整備に加え、新卒者に対する有給のインターンシップ、運送業従事者に対する公的傷害保険の保険料減免、零細企業に対する売上税の据え置きなどを行うとした。さらに、先月にも追加経済対策を講じるとして、3,500万世帯を対象とする総額30兆ルピア(GDP比0.13%)の現金給付、有給インターンシップの拡充、年末年始の航空運賃へのVAT(付加価値税)を減免するとしている。政府がこのように小出しに景気対策を実施する背景には、金融市場において財政運営に対する警戒感が根強く、通貨ルピアの対ドル相場が下落していることも影響していると考えられる。その一方、一連の景気下支え策の発表を受けて消費者信頼感指数は上昇するなど家計マインドの改善がうかがえ、景気を下支えすることが期待される。

図表2
図表2

このような状況において、中銀は過去の利下げによる効果を見定めるべく、先月の定例会合では事前の市場予想に反して金利据え置きを決定したが、今回も同様の対応をみせたと捉えられる。さらに、前述したように足元のルピアの対ドル相場が下落していることも、そうした姿勢を後押ししたと考えられる。会合後に公表した声明文では、世界経済は「トランプ関税や米国の政府機関閉鎖も影響して減速している」とした上で、金融市場は「FRB(米連邦準備制度理事会)のハト派姿勢の後退が不確実性を高めている」、「金や米国資産に逃避資金が流入しているが、新興国への資金流入動向への影響は限定的」との見方を示している。その上で、同国経済について「良好だが、潜在成長率を上回る成長の実現には政策支援が必要」との見方を繰り返した上で、「財政支援を追い風に10-12月の景気は改善が見込まれる」として「今年通年の経済成長率は+4.7~5.5%、来年には加速が見込まれる」と今年の見通し(従来は+4.6~5.4%)をわずかに上方修正した。また、対外収支も「今年通年の経常収支はGDP比▲0.7~+0.1%になる」とした上で、ルピア相場は「金融市場の不確実性にもかかわらず管理可能な水準にある」、「足元のルピア安は周辺国通貨と同様であり、安定に向けてスポット市場とノンデリバラブル・フォワード市場での為替介入を行うなど努力を継続する」との考えを示している。物価動向も「インフレ率は今年も来年も目標域内で推移し、コアインフレ率も低水準が続く」との見通しを示している。

図表3
図表3

会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、足元の金融市場環境について、中銀による断続的な利下げ実施にもかかわらず市中金利が高止まりしていることに苛立ちを隠さない姿勢をみせたほか、さらなる政策支援が必要になるとの考えをみせている。その上で、先行きの政策運営について、物価動向を考慮しつつ、景気下支えに向けた追加利下げ余地に言及するとともに、市場の流動性拡大や市中金利の低下に向けてマクロプルーデンス政策を強化する考えを示している。なお、中銀は外貨準備高を温存する観点から、為替介入に際してノンデリバラブル・フォワード市場を積極的に活用しているが、足元の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算される。このところのプラボウォ政権は民主化に逆行する動きをみせるなか(注3)、短期的な景気下支えに重点を置く一方、中長期的な観点でみたインドネシア経済の行方に不透明感が高まる可能性には注意が必要である。

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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