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- ガソリン暫定税率廃止の再検討
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筆者は、ガソリンの暫定税率の廃止には懐疑的である。2022年1月に始まったガソリン支援は、調べてみるとそれほど価格高騰していない品目に多くの支援をつぎ込み、さらに暫定税率を引き下げて、2022年1月以前よりも価格を安くしようとしている。これはやり過ぎだろう。また、東京都などはその恩恵が乏しく、地域的なバラツキが大きいことも気になる。
化石燃料消費の拡大を助長
与野党は、物価高対策としてガソリン税の暫定税率を2025年12月31日で廃止することを決めている。リットル当たり25.1円の税率分をなくしていく格好になる。現時点では、1L10円の補助が入っているのを、11月13日、11月27日、12月11日と5円ずつ増やして行き、最終的に残り15.1円の暫定税率分の廃止にスイッチしていく予定である。軽油取引税の方は、2026年4月1日から暫定税率が下がる。ともに、野党からの要求を与党が長く拒否し続けていたのを11月に合意したことで、負担軽減が実行される運びになった。
しかし、よく調べてみると、長く自民・公明党がこれに反対してきた理由がよくわかる。まず、なぜ、ガソリン価格の引き下げなのかという根拠の曖昧さである。このガソリン価格の支援自体が始まったのが、2022年1月のことである。当時は、ウクライナ侵攻(2022年2月~)の直前で、それから原油市況も上がったため、一時的には合理性があった。原油市況は、2022年3月にはWTIで1バレル130ドル台まで急上昇していた。最近は60ドル前後まで下がっている。経済産業省もこの価格支援については、「激変緩和補助金」と称していた。それから4年近くが経過しようとしているが、この補助金は政治的に止めるに止められなくなっている印象が強い。ガソリン価格を支援することは、CO2排出削減に逆行する。地球温暖化は、ここ2・3年の異常気象を世界的に深刻化させて、穀物など世界的な食料高騰の引き金にもなっている。日本でも生鮮食料品を含めて食料品の高騰は、消費者物価の前年比で4~8%になっている。長い視点に立って、地球温暖化を助長する化石燃料の消費を抑制しようという方針は、物価安定にも資するものだ。つまり、化石燃料の消費拡大は長く続けてはいけないという認識が、経済産業省にはあったと理解できる。
これは、ガソリンに限ったことではなく、東日本大震災以降に停止している原発の再稼働を進めて、火力発電を抑制していくことにもなっている。世界的なデータセンター建設とその電力需要の高まりは、CO2排出増につながりかねないので、原発の新増設で対応しようという各国の動きもある。それに原発再稼働は、電気代を大きく引き下げる効果もある。電力会社の中には原発再稼働で料金を▲11%も引き下げることを表明しているところもある。高市政権は、2026年1~3月に補助金再開による電気ガス代の引き下げを表明しているが、これも暫定的な措置で、出口戦略の一つは原発再稼働になっていると筆者は理解している。
ガソリン価格は上がっていない
政府は、数ある品目の中からガソリン・軽油を選んでその価格を引き下げることを決めたのであるが、「なぜガソリンなのか?」という疑問が残る。ガソリンが必需品だという人も居れば、自分は直接ガソリンを使わないという人も居る。さらに、物価高対策として考えると、「ガソリン価格は高騰しているのか?」という視点も重要になる。2022年1月のレギュラーガソリン価格は1L170.9円であった。それが直近の2025年11月4日は173.6円である。つまり、▲10円の価格補助がなければ183.6円になり、2022年1月末から7.4%の価格上昇ということになる。筆者が消費者物価について、2022年1月~2025年9月までの変化率を調べると、消費者物価・総合は11.7%も上昇していた。これに比べると、レギュラーガソリンは価格支援のない状態でも、他の物価より価格が高騰していないことがわかる。これに▲10円の価格支援をすると、7.4%の価格上昇率は1.6%(=173.6円÷170.9円)とさらに小幅になる。仮に、ガソリンの暫定税率を廃止すると、173.6円は▲15.1円も下がって、158.5円になる。これは価格支援の前よりも下がってしまうことになる(▲7.3%=158.5円÷170.9円)。これでは、ガソリンを優遇しすぎではないか。
上記の議論を総務省「消費者物価指数」を使っても行ってみた(図表1)。消費者物価・総合の指数が、2022年1月~2025年9月までに11.7%の上昇だったのに対して、ガソリン価格(消費者物価指数)は9月時点で5.2%の上昇に止まっている。仮に、ここから暫定税率が廃止されると、▲3.9%の減少という試算値になってしまう。2つの試算で計算結果が若干違うが含意は同じで、暫定税率の引き下げは過剰な価格支援ということになる。ここから自民・公明党が長く反対していた理由も何となくうなずける。足元で価格支援をするのならば、価格高騰があまり起こっていないガソリンではなく、食料品の方が妥当であろう。これは円安対策を優先すべきということだろう。

地域格差の問題
もう1つの問題は、地域によってガソリン消費量が異なるので、暫定税率の廃止によって、恩恵のある地域と恩恵の乏しい地域にバラツキが生じることになる。
総務省「家計調査」(2人以上世帯、2024年)では、1世帯のガソリン消費量は、年間430.631Lになる。暫定税率の廃止で単価が▲15.1円ほど下がるから、家計への恩恵は1世帯当たり▲6,500円(年間)になる。430.631L×▲15.1円=▲6,503円という計算根拠になるからだ。
しかし、この年間430Lのガソリン消費量は地域によって大きなバラツキがある。例えば、東京都区部では年間消費量は、131.8Lと全国の中で少ない。年間の恩恵は▲1,990円と限られる(図表2)。47都道府県の県庁所在地別の恩恵ランキングをつくると、東京都区部、大阪市、神戸市、京都市など関西での恩恵が相対的に少ないことがわかる。
逆に、鳥取市は▲1万円以上の恩恵で全国1位。津市、前橋市、山口市、松江市、富山市などがそれに続いている。政治的に考えると、これは非常に興味深い結果に思える。
高市政権は、日本維新の会と連立を組み直すに当たって、この暫定税率の廃止に舵を切った。今のところ、物価高対策として速効的な効果が表れるのは、このガソリンの値下げに限られる。そのガソリンの値下げについて調べてみると、東京都と関西地区には恩恵が小さく、全国の家計へのあまねく影響が及ぶ格好ではないことがわかった。この物価高対策には、財源確保という大問題もある。どこからか財源を見つけ出して、暫定税率の廃止という減税政策を推進するのだから、基本に戻って「なぜ、ガソリンだけを率先しなくてはいけないのか?」を改めて考えてみる必要がある。

熊野 英生
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