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2026.05.29
日本経済
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経済財政諮問会議(2026年5月22日)解説
〜「強い経済」の実現に向けた成長投資の加速と社会保障改革の断行〜
永濱 利廣
- 要旨
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- 生産性の向上と潜在成長率の引き上げを目指す「成長力強化策」と、少子高齢化・人手不足の中で持続可能な制度を構築する「社会保障改革」について、民間議員から提言された。
- 1点目に関して、国内投資の低迷打破やAI等の技術革新に対応するため、政府のリーダーシップによる「投資主導の成長経路への転換」を目指し、①「新たな投資枠」の創設、②複数年度予算による投資促進、③戦略的管理と総合施策の3つの側面から提言。
- 2点目の強い経済を作るための社会保障改革では、経済成長・税・社会保障を三位一体で捉え、現役世代の可処分所得を守りつつ持続可能な制度への転換を図るため、①「給付と負担」の一体的改革(現役世代の負担軽減)、②医療・介護の持続可能性の確保と生産性向上、③「攻めの予防医療」と手取り改善(給付付き税額控除)の検討の3つの側面から提言。
- 筆者はマクロ経済、財政規律、社会保障の各観点から、①「新たな投資枠」の具体化とKPI設定、②プライマリーバランス(PB)外の資金調達手段における原則確立、③インフレ局面における歳出目安の見直しと効率化、④労働供給制約の解消と持続可能な社会保障改革の4点について提言。
1.はじめに
2026年5月22日に開催された経済財政諮問会議では、生産性の向上と潜在成長率の引き上げを目指す「成長力強化策」と、少子高齢化・人手不足の中で持続可能な制度を構築する「社会保障改革」を一体のものとして捉え、高市政権が掲げるマクロ経済目標を具体化するための革新的な提言がなされた。
そこで本稿では、提出された民間議員ペーパーを基に、諮問会議で議論された内容を紹介する。
2. 強い経済を実現する成長力の強化についての提言
長年の国内投資低迷を打破し、人口減少や地政学リスク、AI等の技術革新に対応するため、政府の強いリーダーシップのもとで「投資主導の成長経路への転換」を図る必要性が3つの側面から示された。
一つ目が、危機管理投資・成長投資に関する「新たな投資枠」の創設として、民間企業の中長期的な投資判断を後押しするため、政府支援の一過性を排した実効性ある枠組みとして3点の提言があった。1点目が、通常の歳出と区別した投資枠であり、これまでの予算措置額にとらわれず、必要な投資額を確保するため、通常の歳出とは別枠で「新たな投資枠」を設けるべきとされた。2点目が、概算要求基準の見直しとして、単なる要望枠ではなく、予算編成過程で実効的に予算化される仕組みへと改め、成長戦略の実行に必要な予算要求を可能にすることが示された。そして3点目が、スタートアップ・中小企業への重点投資として、17の戦略分野に加え、波及(スピルオーバー)効果の大きいスタートアップ支援や、中堅・中小企業の稼ぐ力の強化を成長投資として位置づけた。
二つ目が、複数年度予算と柔軟な資金管理による投資促進として2点の提言があった。一点目が、基金の「原則3年以内」ルールの廃止であり、半導体、エネルギー、GX、宇宙、量子、バイオ、AIといった、投資回収や成果発現に長期を要する分野については、予見可能性を高める観点から「原則3年以内」の基金ルールを廃止すべきとの提言である。そして二点目が、 国庫債務負担行為の活用と年限延長についてであり、金利のある世界に対応し、支出時期や進捗に応じた柔軟な資金管理を行うため、最長5年とされている国庫債務負担行為の年限を、官民投資ロードマップの実行に必要な範囲で延長することを検討すべきとされた。
三つ目が、ポートフォリオによる戦略的管理と総合施策戦略として2つの提言があった。一点目が分野全体の評価として、技術や市場の不確実性を前提に、進捗管理は個別事業の短期的な成否ではなく、戦略分野全体を「ポートフォリオ」として捉えて成果を評価すべきとされた。そして二点目が成長分野への円滑な移動として、規制・制度改革、人材育成、労働市場改革を総合的に組み合わせ、急速に進化するAIの社会実装を前提に、企業・資金・人材が成長分野へ円滑に移動できる環境を整えるべきとされた。
3. 強い経済を作るための社会保障改革
社会保障改革では、経済成長、税、社会保障を三位一体で捉え、必要な医療・介護を確保しつつ、現役世代の可処分所得を守り、持続可能な制度設計への転換を進めるべく3つの側面から提言がなされた。
一つ目が、現役世代の負担軽減と「給付と負担」の一体的改革であり、高市政権の「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」との方針に基づき、令和8年度中に具体的な改革工程を明確化すべきとして、以下の3点が求められた。1点目が見える化の推進であり、人口構造や物価・賃金、医療技術の高度化が、給付費や現役世代の可処分所得に与える影響を中長期的な見通しとして定期的に更新・可視化すべきとされた。続いて2点目が年齢によらない真に公平な応能負担であり、高齢者の実態を踏まえた医療費窓口負担や介護利用者負担の見直し、年齢に関わらず働き続けられる社会を目指した「高齢者」の定義の見直しを検討すべきとされた。そして3点目が低リスク医療への対応であり、制度の持続可能性を確保するため、軽微で日常的に利用する医薬品・医療(低いリスク)に対する必要な方策を検討すべきとされた。
二つ目が、医療・介護提供体制の持続可能性確保と生産性向上として、限られた人材・財源の中でも必要なサービスを確保するため、効率的な利用とDXを推進すべく3点の提言があった。1点目が、都道府県の役割強化と効率化であり、地域医療構想に基づく病床適正化、かかりつけ医機能、リフィル・長期処方の活用、遠隔医療の推進などにより、サービスの効率的な利用を進めるべきとされた。2点目が、AI・ロボティクスによる現場の負担軽減であり、画像診断、音声入力、ケアプラン作成支援、フィジカルAIによる介護支援などを最大限活用し、省力化とサービスの質の向上を同時に進めるべきとされた。そして3点目が、医療情報基盤の整備、電子カルテ・電子処方箋の普及であり、医療情報の二次利用、国際水準の治験体制整備を通じて、新技術の開発・実装を促進すべきとされた。
そして三つ目が、「攻めの予防医療」と手取り改善策の検討として2点提言された。1点目が健康寿命の延伸と社会の支え手化であり、健康増進、疾病予防、重症化予防を一体的に進める「攻めの予防医療」を推進し、医療・介護需要を抑制しつつ、皆が元気に活躍できる活力ある社会を目指すべきとされた。 そして2点目が、給付付き税額控除の検討であり、税・社会保障を一体として捉える観点から、就労促進や現役世代の手取り改善・支援に資する選択肢として、「給付付き税額控除」についての検討を深めるべきと提言された。
4.筆者提言
以上を踏まえ、本会議において筆者は、高市政権が掲げる「強い経済」と「財政の持続可能性」の両立に向け、マクロ経済、財政規律、社会保障の各観点から提言を行った。
まずは、成長力強化に向けた「新たな投資枠」の具体化とKPIの設定について、民間企業が国内投資や研究開発、人材投資を本格的に拡大するための絶対条件として、「中長期にわたる予見可能性の向上」を挙げ、4点の具体策を提案した。1点目が十分な規模の複数年度明示であり、新たに創設される「新たな投資枠」は、政府が策定した「官民投資ロードマップ」と整合する十分な規模を、単年度ではなく複数年度にわたって明示することが重要であると指摘した。2点目が戦略分野のターゲット明確化であり、17の戦略分野において、「どの市場を取りにいくか」「どの技術を社会実装するか」「国内にどの程度の供給力を確保するか」という具体的な目標を定めるべきであると主張した。3点目が、事前KPIの設定であり、投資の成果を測るため、民間投資の誘発額、GDPへの影響、さらには税収への効果をあらかじめKPI(重要業績評価指標)として設定することを提言した。そして4点目が制度・規制改革の一体化であり、予算措置だけでなく、制度改革や規制改革を一体で講じることにより、民間企業が自らリスクを取って投資判断を行える健全な市場環境が整うと強調した。
続いて、プライマリーバランス(PB)外の手段における原則確立として、財政マネジメントの観点から、プライマリーバランス(PB)の対象外となる資金調達手段(財投債など)の乱用を戒め、厳格な運用ルールを設けるべきとして3点主張した。一点目が財政規律回避の抜け穴防止であり、PB外の手段を、単に財政規律を回避するための抜け穴として使うべきではないという前提を強く示した。2点目が財投債活用の合理性と条件であり、将来の収益・利用料収入、政策金融における回収、民間資金との協調が確実に見込まれる事業への財投債活用は「極めて合理的」としつつも、①対象事業の厳選、②償還の可能性、③官民のリスク分担、④マクロ財政への影響、の4点をあらかじめ明確にすることを条件とした。3点目が資金調達手段の選択原則であり、投資の性格やリターンの構造に応じて、最も適切な資金調達手段を選択するという原則を確立することが重要であると提言した。
また、インフレ局面における歳出目安の見直しと効率化として、物価・賃金が上昇する新たな経済局面における歳出管理のあり方について、3つの側面からメリハリのある運用の重要性を指摘した。一つ目は、必要な行政機能・投資の死守であり、インフレによって、必要な行政機能や未来への成長投資が実質的に目減り(削減)してしまわないよう、十分な配慮を求めた。二つ目が、歳出の峻別と厳格な運用であり、歳入の見直しや政策効果、財政目標との整合性を踏まえ、「伸ばすべき歳出」と「見直すべき歳出」を峻別すべきであるとした。具体的には、政策ごとにPDCAやEBPM(証拠に基づく政策立案)、明確なKPI、期限や出口(サンセット)を厳格に組み込み、効果の乏しい事業は果敢に見直す運用を求めた。そして3つ目が、財政目標との整合性であり、これらの取り組みを通じて、内閣が掲げる「債務残高対GDP比の安定的な低下」という目標と整合する、真に実効的な歳出管理体制へと移行していくべきと主張した。
一方、労働供給制約の解消と持続可能な社会保障改革の議論においては、ミクロな給付費抑制にとどまらず、日本経済最大のボトルネックである「深刻な労働供給制約」を打破するというマクロ経済の視点から3つの提言を行った。一点目が、医療・介護効率化による「リソース解放」であり、 医療・介護DX、AI・ロボティクスの最大活用、病床適正化、医療機関の集約といった効率化(省力化)の断行は、社会保障分野に過度に割かれていた貴重な人的資源を解放し、経済を牽引する成長産業へと円滑にシフト(労働移動)させる契機になると位置づけた。二点目が、経済成長による税収増の活用(ブラケットクリープの処理)であり、現在は家計の購買力が厳しい状況にあるため、安易な家計内での再分配(負担増)に拘泥すべきではないと警鐘を鳴らした。そして、持続可能な制度には恒久財源が必要だが、インフレ下で実質的な増税となっている「ブラケットクリープ(名目賃金上昇による所得税等の自然増収分)」が年間2兆円近くに達しているとの試算を示し、この増収分を社会保障制度の原資として充当することを検討するなど、将来的な調整のあり方を整理すべきと提案した。そして三点目がテクノロジーと正しいインセンティブによる予防医療の側面から、現行の健康保険制度が「病気になった人への支援」に偏り、日頃から健康維持に努めている人への恩恵が乏しい点を指摘した。具体的には、市民に活動量計を配り歩数に応じて現金相当のバウチャーを付与するシンガポールの国家プロジェクト(National Steps Challenge)を例に挙げ、国民の健康行動を可視化し、テクノロジーとインセンティブによって予防医療を強力に後押しする仕組みの構築を求めた。
(参考)第7回会議資料:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/index.html#tab0522
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

