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2026.05.18
日本経済
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経済財政諮問会議(2026年5月11日)解説
~「マクロ経済運営」と「財政状況の多角的分析」について~
永濱 利廣
- 要旨
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当面のマクロ経済運営として、緩やかな景気回復と5%程度の賃上げモメンタムを維持・強化するため、プラス・マイナス両面からのアプローチとして、地方・中小企業や公的分野への賃上げ波及を促す環境整備を進め、「毎月勤労統計」に見られるサンプル替えの断層を補正した利用者に配慮した情報発信を求めた。また、地政学リスクへの対応として、中東情勢の緊迫化による物価上昇やサプライチェーンの目詰まりに対し、事業者の資金繰り支援やエネルギー安全保障関連の投資を前倒しし、政府と日本銀行が密に政策連携を確認していく重要性が示された。
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財政の信認確保と市場との対話強化として、多角的指標を公表し、財政持続可能性の評価にあたり、「総債務」だけでなく、政府保有資産を踏まえた「純債務」、フローを把握する「PB・財政収支・利払い費」など、複数の指標を相互補完的に公表すべきとされた。また、検証体制の具体化として、金利や成長率のシミュレーションにおいて、マクロ経済の不確実性を織り込んだ「SDSA(確率的債務持続可能性分析)」を定着させ、透明性と客観性を担保する第三者的レビュー(独立的検証機能)の制度設計を急ぐべきとされた。
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筆者提言として、まず2022年との比較をし、負担軽減策の剥落や中東情勢の影響から、インフレ率が一時的に3%を超える可能性があると指摘。ただし、当時は賃金の伸びが1%台前半だったのに対し、現在は3%台まで加速しているため、「当時ほど実質賃金は悪化しにくい」と分析した。一方で消費者マインドは当時と同水準まで低下しており警戒を促した。また、毎月勤労統計の断層問題を受け、内閣府が独自に作成・活用している「断層調整後の賃金データ」を正式な統計として公表すべきと提言した。さらに、一般メディアによる過度な危機煽りを防ぐため、政府は原油や重要物資の供給状況に関する詳細な情報をより積極的にアナウンスすべきと求めた。
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財政状況の多角的分析と市場とのコミュニケーション面では、単一指標依存への警鐘として、 NBERの最新論文を引用し、「純債務」や「純利払い費」を相互補完的に示す重要性を強調した。また、IMFの最新「財政モニター」が示した「日本は名目GDPの拡大により2031年までに債務残高対GDP比が14%ポイント低下する」との予測に基づき、「増税による緊縮ではなく、成長によって財政を健全化させる」という現内閣の方針の正しさが証明されたと強調した。
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1.はじめに
2026年5月11日に開催された経済財政諮問会議では、足元の景気認識を踏まえた「当面のマクロ経済運営」と、4月13日の会議で示された5原則の「原則5」を具体化する「財政の信認確保と市場とのコミュニケーション強化」の2つの重要テーマについて、民間議員から提言がなされた。そこで本稿では、提出された民間議員ペーパーを基に、諮問会議で議論された内容を紹介する。
2. 当面のマクロ経済運営についての提言
我が国の景気は緩やかに回復しており、今年の春季労使交渉で3年連続となる5%程度の賃上げが実現すれば、この基調はさらに底堅さを増すと分析している。このモメンタムを維持・強化し「強い経済」を構築するため、2つの方向性が示された。
まずは、プラス要因の確実な定着として、賃上げ環境の整備が提言された。具体的には、 地方や中小企業への賃上げ波及に向け、政府は引き続き環境整備に注力すべきとされた。また、公的分野の賃金や人件費単価についても適切な改定が求められた。
また、毎月勤労統計の質的改善も提案された。具体的には、実質賃金は今年に入りプラス推移しているものの、「毎月勤労統計」には従来からサンプル替えに伴う下方修正の断層が存在するため、厚生労働省による改善検討を歓迎しつつ、断層を補正した計数の作成など、利用者に配慮した情報発信が求められた。
一方、マイナス要因として、中東情勢リスクの緩和が提言された。具体的には、中東情勢の緊迫化による原油・物資の上昇リスクを注視し、経済財政運営に万全を期す必要があると指摘された。具体的には、事業者への資金繰り支援と投資の前倒しとして、価格上昇やサプライチェーンの目詰まりに直面している事業者の取引円滑化や資金繰りを適切に支援することを求めた。また、日本が特定の地域や海外に調達の大部分を依存してきたリスクが改めて浮き彫りになったとし、エネルギー安全保障などの危機管理投資について、可能なものは前倒しで推進し、サプライチェーンの強靭化を図るべきだと主張された。さらに、政府・日銀の政策連携面から、市場における各種の資金需給動向にも配慮した日本銀行による適切な金融政策の実施に期待を寄せ、今後も諮問会議の場で政府・日銀の政策連携の状況を継続して確認していくことが重要であると指摘された。
3. 財政の信認確保と市場とのコミュニケーション強化
4月13日の諮問会議で共有された「責任ある積極財政」の具体化に向けた5原則のうち、「原則5(市場の信認確保)」の核心である「不確実性を織り込んだ分析・検証の制度化」と「透明で一貫した対話」について、二つの側面から具体的な手法が提案された。
まずは、指標の公表における多角的アプローチとして、財政の持続可能性を評価する際、単一の指標に依拠するのではなく、複数の指標を相互補完的に継続公表すべきであると提言された。
具体的には、総債務を中核目標とすることで政府の契約上の債務、借換え需要、資金調達リスクを把握するだけでなく、純債務を活用することによる政府保有資産を踏まえたネットの財政ポジションの補足的把握や、PB・財政収支・利払い費等を用いた財政運営のフローや、金利上昇への感応度の把握をし、諸外国の財政ルールや指標の運用を参考にしつつ、日本の経済・財政構造や市場環境に合わせて継続的な改善を行うべきとされた。
また、検証の手法と体制の具体化として、不確実性の「見える化」を進めるべく、金利や成長率のシミュレーションにおいて、単一のメインシナリオだけでなく、マクロ経済の不確実性を織り込んだ「SDSA(確率的債務持続可能性分析)」などの手法を定着させるべきとされた。
さらに、誰がどのように検証するかという面から、透明性と客観性を担保するため、どのような体制(第三者的レビューや独立的な検証機能など)でこれを運用していくか、具体的な制度設計の具体化を急ぐ必要があると主張された。
4. 筆者の提言
以上を踏まえ、本会議において筆者は、「マクロ経済運営」および「財政の信認確保に向けた不確実性の見える化と市場とのコミュニケーション強化」の2つのセッションにわたり、足元のインフレ局面の構造分析、統計の信頼性向上、そして国際的な学術研究を踏まえた多角的な財政評価の必要性について具体的な提言を行った。
まずセッション1では、物価・賃金動向の構造分析とマクロ経済運営への提言をした。筆者は、足元の物価上昇と賃金動向を2022年のウクライナ侵攻時と比較し、現在の日本経済が持つ耐久性とリスク要因を多角的に分析した。具体的には、2022年との比較分析として、直近(4月)の東京都区部消費者物価(総合)は前年比1.5%と一見落ち着いているものの、今後は電気・ガス負担軽減策の剥落や、中東情勢に伴う重油不足による生鮮業界への影響が反映されるため、インフレ率が不可避的に加速し、瞬間風速的に3%を超える可能性に注意すべきだと指摘した。その上で、2022年当時との実質賃金の耐久力の違いを解説した。というのも、2022年のウクライナ侵攻時は賃金の伸びが1%台前半にとどまっていたため実質賃金が顕著に悪化したが、現在は足元の賃金の伸びが直近で3%台まで加速しており、今年の春闘も堅調なため、「2022年のときほど実質賃金は悪化しにくい環境にある」と評価した。ただ一方で、消費者マインドへの警戒も示した。というのも、直近4月の消費者態度指数は2022年4月とほぼ同水準まで低下しており、2022年当時はそこから11月まで低下トレンドが続いた経緯があるため、今後の消費マインドの動向には引き続き強い注意が必要であると促した。
続いて、賃金統計の情報発信改善として内閣府独自データの公表を促した。というのも、厚生労働省の「毎月勤労統計」にはサンプルの入れ替えに伴う下方修正の断層という課題があり、現在改善が検討されている。ただ筆者は、内閣府がすでに独自にこの断層を調整したデータを作成し、月例経済報告の関係閣僚会議資料などで活用している実績に着目し、政策運営において重要性の高まる賃金動向をより正確に世の中に発信するため、「内閣府が独自に作成している断層調整後の賃金データ」を、独自の統計として正式に公表すべきと提言した。
また、サプライショックへの具体的対応策として、中東情勢の混乱長期化によるサプライチェーンへの悪影響を緩和するため、政府による情報発信の強化を求めた。というのも、内閣官房のホームページや各省庁のポータルサイトでは極めて詳細な情報が提供されているものの、一般メディアに十分認知されておらず、過度に危機を煽る報道が見られるため、政府は原油や重要物資の総量確保・安定供給に関する具体的な情報を、より積極的に世の中へ発信すべきだと求めた。
続いてセッション2の「財政状況の多角的分析と市場とのコミュニケーション」では、4月13日の諮問会議で提示された「予算編成5原則」の「原則5(市場の信認確保)」を具体化するため、特定の指標に偏らない、グローバル基準に即した情報発信のあり方を提案した。
まずは、単一指標への過度な依存からの脱却である。筆者は、「債務残高対GDP比」を財政運営の中核目標に据えることは伝統的な世界標準として望ましい姿としつつも、海外の学術界では近年「債務残高対GDP比を唯一の判断基準とする理論的根拠は不十分である」と指摘されている点に注意すべきと警鐘を鳴らした。
具体的には、2026年年明けに公表されたNBERのワーキングペーパーでは、各国の財政を「債務残高対GDP比」「利払い費対GDP比」「債務残高対株式時価総額比」の3軸で評価しており、用いる指標によって各国の財政状況の評価が全く異なることが指摘されていることから、この知見を踏まえ、目標には掲げなくても、保有資産を勘案した「純債務」や「純利払い費」、さらには「財政収支」など、複数の指標の状況を相互補完的に示すことが、市場の信認を確保する上で非常に重要であると提言した。
また、IMFが先月公表した最新の「財政モニター」の予測に言及した。具体的に、IMFによる予測によれば、日本は名目GDPの拡大によって、2031年までに債務残高対GDP比が14%ポイントも低下するという予測が示されており、筆者は、この予測こそが「増税による緊縮ではなく、成長によって財政を健全化させる」という高市内閣の方針の正しさを証明していると強調した。
(参考)第6回会議資料:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/index.html#tab0511
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

