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2025.11.12
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トルコ検察当局、イマモール氏に最大2352年の禁固刑を求刑
~司法を通じた野党への圧力を一段と強化、金融市場は政治リスクを警戒する展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコではインフレが常態化するなか、通貨リラは対ドルで下落基調が止まらない。今年3月には最大野党CHPの有力政治家イマモール・イスタンブール市長が汚職容疑で拘束され、相場が急落した。逮捕はエルドアン大統領の政敵排除を目的とした政治的介入とみられ、司法の独立性が疑問視されている。検察は11日に提出した起訴状で同氏を大規模汚職組織の首謀者と断定し、最長2352年の禁固刑を求刑するなど、CHPへの圧力を強めている。イマモール氏が有罪となればCHPは次期大統領選の候補の再選定を迫られる。一方、エルドアン政権の金融政策への介入懸念や中銀の利下げ継続でリラは最安値を更新する展開が続き、株式市場も調整している。インフレ目標の達成は困難ななか、政治や外交を巡るリスクも重なり、トルコ経済や金融市場を取り巻く環境は先行きも不透明な展開が続くことは避けられないであろう。
トルコではここ数年、インフレが常態化するなかで通貨リラの対ドル相場は一貫して下落する展開が続いてきた。さらに、今年3月には検察当局が最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職やテロ組織への資金提供などの容疑で拘束し、リラの対ドル相場は大きく下落した(注1)。この逮捕劇をきっかけにリラ相場が下落した背景には、イマモール氏が最大野党CHP(共和人民党)の有力政治家であり、エルドアン大統領にとって最大の政敵とみられていることが影響している。トルコでは2028年5月までに次期大統領選が行われるが、逮捕前にはイスタンブール大学が同氏の学位を抹消する決定を行い、現行憲法の出馬要件(大学の学位(学士)取得)を満たさない可能性が出た。さらに、逮捕直後にCHPは党大会を開催して、同氏を次期大統領選の候補に選出する予定であったため、政権が司法手段を駆使してその芽を摘んだとみられる。また、金融市場では、エルドアン大統領が再び財政や金融政策への介入を強めるとの警戒感を反映してリラ相場は急落するも、当局の為替介入や事実上の金融引き締めなど防衛策を受けて一時的に落ち着きを取り戻した。しかし、中銀はインフレ鈍化を理由に利下げに動き、10月の定例会合ではインフレが加速に転じたにもかかわらず追加利下げに動いたため(注2)、その後もリラ相場は下落して最安値を更新している。

このようにリラ相場は底がみえない展開が続くなか、検察当局は11日にイマモール氏に関する起訴状を提出した。起訴状は4000ページを上回るとともに、イマモール氏を計402名の容疑者が関わる大規模な汚職ネットワークの「組織犯罪の創始者かつ首謀者」と断罪した上で、同氏に対して828年から最大2352年の禁固刑を求刑した。具体的には、同氏は贈賄、詐欺、恐喝、入札捜査など計143の容疑が掛けられており、過去10年間でトルコ政府に対して1600億リラを上回る損失をもたらしたとしている。その上で、検察当局は最高裁判所に対して、同氏が所属するCHPが不当利得から便益を得ている可能性について調査するよう要求するなど、同党への圧力を強めている。なお、トルコの司法を巡っては、過去にもエルドアン大統領の『意向』を忖度する判断を示すなど、三権分立が事実上形骸化する動きがみられた。今年9月には、イスタンブールの裁判所がCHPの幹部人事に介入する判断を下す動きもみられた。こうしたことから、イマモール氏やCHPは当初から一貫して不正容疑を否定するとともに、一連の逮捕劇を同氏の大統領選挙への出馬を阻止する政治的動機によるものと主張してきた。現時点において裁判の行方には不透明なところが多いものの、仮に長期の禁固刑を認める有罪判決が下されれば、イマモール氏は事実上政治から遠ざけられるとともに、CHPも同氏に代わる次期大統領選の候補者の選定を迫られるなど打撃は少なくない。一方で、トルコ金融市場ではこのニュースを受けて主要株式指数(イスタンブール100指数)は急落するなど、エルドアン政権への警戒感を強めている様子がうかがえる。

なお、上述したように中銀は先月の定例会合において、鈍化基調が続いたインフレが加速に転じたにもかかわらず利下げに動いたものの、10月のインフレ率は前年同月比+32.9%と前月(同+33.3%)からわずかに鈍化している。よって、中銀は先行きも追加利下げに動く可能性は高まっているものの、足元のインフレ動向は昨年後半以降の鈍化基調が収束しつつある様子がうかがえるとともに、中銀が最新のインフレ見通しで示す今年末時点のインフレ率(+25~29%)の実現のハードルは高まっている。さらに、中銀と政府はともに、来年以降のインフレが一段と鈍化するとの目標を掲げているものの、その実現性は後退していると捉えられる。こうした状況にもかかわらず、中銀がさらなる利下げに動いた場合、政治リスクが懸念される状況も相俟って、リラ相場の底が見通せない状況が続くとともに、インフレ収束の道筋も立てられない展開となることが予想される。トルコの検察当局は今月、イスラエルのネタニヤフ首相をはじめとする計37人の政府高官に対して、人道に対する罪とジェノサイド(大量虐殺)の罪で逮捕状を発行しており、不安定な状況が続くトランプ米政権との関係に不確実性が高まる可能性もある。その意味では、トルコ市場を巡る状況は厳しい展開が続くことは避けられないであろう。

注1 3月21日付レポート「「トルコ・ショック」ふたたび、政治不信による動揺の向かう先は」
注2 10月24日付レポート「トルコ中銀、インフレ加速も3会合連続の利下げ、リラ相場の行方は?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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