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2025.11.07
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汚職問題がフィリピン景気の重しに、3年連続で成長率は目標未達か
~中銀のハト派姿勢がペソ安を招くなか、マルコス政権を巡る状況は一段と厳しさを増す可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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フィリピンでは、政府の公共事業で予算が支出されたにもかかわらず進捗しない「幽霊事業」が多数発覚するなど、汚職疑惑が政権を揺るがしている。調査の過程で大統領の親族や側近にも疑惑が及び、全国で抗議集会が発生した。一方、政界ではマルコス家とドゥテルテ家の対立が激化している。さらに、汚職調査により公共投資が停滞して景気の下押し圧力が強まるなか、台風や地震被害も追い打ちをかけている。
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経済面では、インフレが落ち着く一方、公共事業停滞や外需の不透明感から7-9月期のGDP成長率は前期比年率+1.43%と5年ぶりの低水準となるなど大幅に鈍化した。中銀は景気下支えを優先して断続的な利下げを進めているが、ハト派姿勢が通貨ペソの下落を招くなど副作用が顕在化している。中銀はハト派姿勢を強めるが、ペソ安は経常赤字の拡大やインフレ圧力を招くなど、選択肢を狭める可能性もある。
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今年の成長率は政府目標(5.5~6.5%)を下回る見通しが高まっている。外需の不透明感が強まるなか、汚職対策と景気維持の両立が難航も予想されるなど、マルコス政権は厳しい局面に直面すると見込まれる。
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フィリピンでは、政府が実施する公共事業において、予算支出が行われたにもかかわらず事業が進捗しない「幽霊事業」が多数に上る事態が明らかになったことをきっかけに政治が混乱している。マルコス大統領は、7月末に行った施政方針演説で幽霊事業に言及し、汚職の摘発を進める方針を明らかにした。その後の調査で公共事業の手抜きや着工遅延といった問題が次々と発覚するとともに、請負企業による多数の政治家への資金還流といった汚職の横行も明らかになった。一連の問題をきっかけにエスクデロ前上院議長が解任されたほか、マルコス大統領の従弟であるロムアルデス前下院議長も辞任する事態に発展した。さらに、疑惑の対象にはマルコス大統領の身内や側近も含まれており、同氏としてはインフラ整備の遅延や洪水による実害が国民の不満を招くなか、調査実施により早期の事態収拾を図る思惑がうかがえたものの、身内にまでスキャンダルが及ぶこととなった。そして、9月21日には全土で政府に対する抗議集会が行われる事態に発展した(注1)。このところのフィリピン政界では、マルコス家とドゥテルテ家の対立が激化しており、5月の中間選挙では『代理戦争』の様相を呈して両陣営が互角の戦いをみせるなど(注2)、2028年の次期大統領選に向けて両家の争いが一段と激化する懸念が高まっている。また、公共投資を巡る疑惑をきっかけにマルコス大統領が調査を指示したことで、公共投資の進捗が幅広く停止する事態を招き、景気の足を引っ張る懸念が高まっている。さらに、今月4日前後に同国中部セブ州を通過した台風25号(カルマエギ)による大雨と強風では、洪水被害に加えて多数の死者が発生するなど深刻な悪影響が出たが、同州では9月末に大地震が発生して復興の途上であったうえ、洪水対策事業における手抜き工事も被害を深刻化させた可能性がある。マルコス大統領は「国家災害事態」を宣言して早期の事態収拾を目指すが、対応如何では政権を取り巻く状況が一段と厳しさを増すことも考えられる。
フィリピンをはじめとするアジア新興国においては、いわゆる『トランプ関税』の影響が懸念されたものの、米国との協議を経て、相互関税は19%と周辺国と同水準に抑えられている。ただし、年前半の輸出はトランプ関税の本格発動を前にした駆け込みの動きに下支えされたものの、足元ではそうした動きに一服感が出ている。その一方、足元のインフレ率は中銀目標の下限を下回る伸びに留まるなど落ち着いた推移が続いているほか、中銀は昨年以降、断続的な利下げに動くなど、先行きの外需に不透明感がくすぶるなかで内需喚起により景気下支えを図る動きを強めている。ただし、上述したように公共投資の進捗停止の動きは景気の足かせとなることが懸念されるなか、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+1.43%と前期(同+6.27%)から鈍化して5年ぶりの低水準となった。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+4.0%と前期(同+5.5%)から鈍化して4年半ぶりの伸びとなるなど、足元の景気は頭打ちの様相を強めている。分野ごとの生産動向を巡っても、個人消費の底堅い動きを反映し、サービス業の生産は拡大基調が続いているものの、外需の不透明感が強まっていることが製造業や鉱業部門の生産の重しとなっているほか、異常気象の頻発などを理由に農林漁業関連の生産が大きく下振れしており、景気の足を引っ張っている。


年明け以降のインフレが落ち着いた推移をみせるなか、中銀は内需喚起による景気下支えを目指して断続的な利下げに動いており、先月の定例会合でも4会合連続の利下げを決定し、昨年来の累計利下げ幅は175bpとなるなど、一段の金融緩和に動いている(注3)。ただし、足元のインフレが落ち着いた推移をみせる背景には、マルコス政権が実施したコメ輸入関税引き下げ策の効果に加え、国際原油価格の低迷などを受けてエネルギー価格も下落するなど、生活必需品を中心にインフレ圧力が抑えられていることが影響している。その一方、このところの国際金融市場においては、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測の後退を受けて米ドル高の動きが再燃している。こうしたなか、同国の通貨ペソの対ドル相場は調整の動きを強め、一時年初来安値を更新する動きをみせている。金融市場では先月の定例会合での金利据え置きが予想されていたにもかかわらず利下げに動いたほか、先行きの政策運営を巡っては、年内にもう1回の利下げに加え、年明け以降のさらなる利下げ余地に言及するなど『ハト派』姿勢を強めていることが影響している。こうした動きを受けて、フィリピン中銀は他のアジア新興国中銀と比較してとりわけハト派色が強いと見做されており、結果的にペソ相場は他のアジア新興国通貨と比べても弱含む一因になっている。なお、フィリピンは食料品やエネルギーなど生活必需品のみならず、幅広い財を輸入に依存しており、そのため慢性的な経常赤字を抱えるとともに、足元では赤字幅が拡大しており、ペソ安は輸入物価を通じてインフレ圧力を増幅させることが懸念される。こうした状況にもかかわらず、中銀はペソ安を意に介することなく景気下支えを重視する観点からハト派姿勢を強めており、当面は米ドル高が意識されやすい状況も重なり、ペソ安が強まることで中銀の選択肢を狭めることも考えられる。

今年の経済成長率は9月までの累計で5.0%となり、政府目標(5.5~6.5%)の下限を下回る水準に留まる。先行きはインフレ鈍化や中銀による利下げが引き続き個人消費を下支えすることが期待されるものの、汚職疑惑が公共投資の足かせとなる展開が続くと見込まれるとともに、トランプ関税の本格発動も外需の重しとなるなか、政府目標の実現に向けたハードルは極めて高い。フィリピンの経済成長率は一昨年、昨年と2年連続で政府目標を達成できていないが、足元の状況は3年連続で達成が困難になる可能性を示唆しており、マルコス政権にとっては2022年の発足以降すべての年で目標未達となることを意味する。マルコス政権を巡っては、公共事業に関連した汚職疑惑が足元を揺るがす事態に直面しているが、景気を重視してこの問題への対応をおざなりにすれば状況を一段と厳しいものとする一方、調査の継続は事業進捗の停滞を通じて景気の足かせとなる可能性がある。その意味では、先行きのマルコス政権にとってはいずれにせよ厳しい状況が待ち受けていると捉えられる。
注1 9月22日付レポート「フィリピンでも反政府デモが激化、政治動向に変化をもたらすか」
注2 5月13日付レポート「フィリピン中間選、マルコス家とドゥテルテ家の「代理戦争」は互角か」
注3 10月9日付レポート「フィリピン中銀、予想に反して4会合連続の利下げ、追加利下げも言及」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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