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2025.10.16
アジア経済
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インド、ロシア産原油輸入停止で米国との関係改善は進むか
~トランプ氏の発言の真偽は不明も、仮に関係改善が進めばインドを取り巻く環境改善が期待される~
西濵 徹
- 要旨
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ここ数ヶ月悪化していた米印関係に改善の兆しがみられる。トランプ米大統領は15日、モディ首相がロシア産原油の輸入停止を約束したと明らかにし、インドが米国の要求に応じる姿勢を示したとみられる。これを受けて、金融市場においては両国関係の改善を期待して通貨ルピー相場は反発する動きをみせている。
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両国は通商協議を続けてきたものの、インドの高関税や非関税障壁、米国産農産品の輸入拡大の困難などを理由に協議は難航した。さらに、トランプ氏のパキスタン寄りの姿勢などを背景に関係は悪化、8月にはロシア産原油の輸入を理由に米国が2次関税を発動するなど対立が深まった。
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今後関係が修復すれば関税引き下げや投資拡大が見込まれ、ルピー相場や株式市場の追い風となる可能性がある。ただし、トランプ氏の発言の真偽は確認されておらず、慎重な見極めが必要である。米中摩擦が再燃するなか、インドが「バランサー」としての役割を果たせるか、米印関係の行方が注目される。
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ここ数ヶ月にわたって急速に悪化してきたインドと米国の関係に変化の兆しが出ている。トランプ米大統領は15日、インドのモディ首相がロシア産原油の輸入を停止することを保証したと明らかにした。その上で、インドは直ちに輸入を停止することはできないとしながらも、少々時間は掛かるものの、プロセスは速やかに完了するだろうと述べた。これは、インドがトランプ氏の要求に応じる姿勢をみせたと捉えられる。なお、在米インド大使館はトランプ氏の発言に対する反応を示しておらず、モディ氏がこうした確約を行ったか否かは現時点では不透明である。しかし、仮にインドがここ数年輸入を急拡大させてきたロシア産原油の輸入停止に踏み切れば、両国関係の雪解けに繋がる可能性は高い。金融市場では、米国との関係悪化をきっかけに通貨ルピー相場は調整の動きを強めるとともに、先月半ば以降は最安値圏で推移したため、RBI(インド準備銀行)は為替介入による相場安定を迫られてきた。しかし、今回の動きをきっかけに両国関係の改善が期待されたことを受け、ルピー相場は大きく上昇しており、ルピー相場を取り巻く環境改善が見込まれる。

米印関係を巡っては、両首脳が個人的に良好な関係を築いてきたこともあり、比較的良好とみなされてきた。トランプ米政権は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に関税政策を駆使し、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境を醸成しようとしてきた。こうしたなか、米印両国は早い段階から協議を行うとともに、米国もインドに対する相互関税をアジア新興国のなかでも低水準とするなど『優遇』する対応をみせた(注1)。しかし、インドはアジア新興国のなかでも平均関税率が高く、非関税障壁も多いため、その後の通商協議は難航して進展がみられなかった。米国とアジア新興国の通商合意では、米国産農産物や畜産物の輸入拡大が盛り込まれる動きがみられたものの、農村部を支持基盤とするモディ政権にとっては交渉の高いハードルとなってきた。さらに、インドは今年5月に隣国パキスタンと一時的に軍事衝突するも、両国の直接協議を経て停戦合意に至ったが、トランプ氏が停戦合意を自身の成果と誇示し、パキスタンに肩入れする姿勢をみせたため、インドの対米姿勢を硬化させたとみられる。また、インドはウクライナ戦争以降、割安なロシア産原油の輸入を拡大させており、足元では原油輸入の約4割をロシア産が占めるとともに、物価安定に寄与してきた。ただし、トランプ氏はウクライナ戦争の早期収束を目指すなか、ロシアへの圧力を強める一環としてロシア産原油を輸入する国に2次関税を課す方針を示し、8月末にインドに対してこれを発動した(注2)。結果、インドに対する関税は50%とブラジルと同じ最高水準となり、インド国内における対米感情も悪化するとともに、両国関係は急速に冷え込んだ。そして、インドは米国との関係が悪化したことも後押しして中国との関係改善に動くなど、全方位外交(戦略的自立)を国是とする外交の行方に影響を与えることも考えられた。

仮に、今回の動きをきっかけに米印関係が改善すれば、インド経済を取り巻く環境が大きく改善することが期待される。トランプ氏は2次関税の扱いに言及していないものの、これが取り下げられれば、インドに対する相互関税は25%とASEAN主要国に次ぐ水準に引き下げられる。また、関係改善も追い風に海外からの直接投資の受け入れが進むことも見込まれるほか、金融市場においてもルピー相場や主要株式指数(ムンバイSENSEX)の追い風となることも考えられる。なお、モディ政権はトランプ関税による実体経済への悪影響を緩和すべく、9月22日付でGST(財・サービス税)を引き下げる景気下支えに動いている。こうした動きも重なり、直近9月のインフレ率は前年同月比+1.54%とRBIによるインフレ目標(4±2%)の下限を下回るなど落ち着いた動きをみせている。先行きはロシア産原油の輸入停止の影響を考慮する必要があるものの、ルピー相場が安定して輸入物価の上昇圧力が後退すれば、その影響を相殺することが期待される。RBIは今月1日の定例会合で政策金利を据え置いたものの、追加緩和に含みを持たせる考えをみせており(注3)、追加利下げによる景気下支えを後押しすることも見込まれる。

現時点においては、トランプ氏の発言に対するインド側の反応が示されていないことに鑑みれば、これらを鵜吞みにすることの危険性は少なくない。しかし、足元では米中摩擦の再燃が懸念されるとともに、一段と悪化するリスクが高まるなか、インドの対応は米中関係の悪化による悪影響を軽減するなど『バランサー』として寄与することが期待される。そして、米印関係の改善が進めば、年明け以降の主要株式指数は度々上昇する動きをみせてきたものの、昨年9月末に記録した最高値が意識されるなかで上値が抑えられてきた展開が大きく変化することも考えられる。インド金融市場を取り巻く環境、さらにはインド経済を巡る状況が変化できるか、当面は米印関係の行方を注視する必要性が高まっている。

注1 4月21日付レポート「インドは本当にトランプ関税の「勝者」となれるのか?」
注2 8月27日付レポート「米国、インドへの追加関税発動、トランプ関税はブラジルと同じ50%へ」
注3 10月1日付レポート「インド準備銀、政策効果見極めへ現状維持も、追加緩和余地を残す」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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