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2025.10.01
アジア経済
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インド準備銀、政策効果見極めへ現状維持も、追加緩和余地を残す
~成長率とインフレ見通しを修正も、格付機関の評価は分かれるなかで慎重な政策運営が求められる~
西濵 徹
- 要旨
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インド準備銀行(RBI)は、10月の定例会合で政策金利を5.50%に据え置くことを決定した。この背景には、インフレ率が目標域内で落ち着いている上、景気が堅調な推移をみせる一方、ルピー安に直面するなど資金流出懸念が影響している。RBIは今年2月以降、連続利下げや現金準備率の引き下げなど金融緩和に動いてきたが、今回は8月の前回会合同様に様子見姿勢を維持した。
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一方、足元のインド金融市場は弱含んでおり、トランプ米政権による関税政策に加え、H1-Bビザに対する手数料引き上げがインド経済に悪影響を及ぼすことが警戒されている。特に、インド人労働者に依存するITサービス企業の収益を圧迫することが懸念される。こうした事情も影響して、足元ではルピー安や株式市場の不安定化が進んでおり、RBIはルピー相場の安定に向けた為替介入を余儀なくされている。
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BIは声明において、世界経済の不透明感を指摘する一方、インド国内の消費や投資など内需の堅調さを評価している。また、モンスーンの雨量やモディ政権が実施するGST引き下げが需要や物価抑制に寄与するとし、今年度の成長率見通しを+6.8%に上方修正、インフレ率見通しを+2.6%に下方修正している。
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ただし、足元では一部地域での多雨の影響で生鮮食品や穀物価格が上昇する動きがみられる。GST引き下げの影響を考慮する必要はあるが、インフレ見通しの過小評価には要注意である。また、政策スタンスは「中立」を維持したが、一部委員は「緩和」への変更を主張するなど、追加緩和の可能性は残されている。
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BIのマルホトラ総裁は、インフレ見通しの緩やかや景気の底堅さを強調し、政策効果を見極める姿勢をみせた。ただし、格付機関によるインドに対する評価は分かれており、その一因にGST引き下げなどに伴う財政規律への懸念があるなか、先行きの政策運営にはより慎重な対応が求められる状況が続くであろう。
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インド準備銀行(RBI)は、先月29日から今月1日にかけて開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるレポ金利を5.50%に据え置くことを決定した。RBIは今年2月に約5年ぶりの利下げを実施し、その後も3会合連続の利下げを行ったほか、6月会合では利下げ幅を50bpに拡大させるとともに、現金準備率(預金準備率)も段階的に計4回引き下げるなど金融緩和を前進させてきた。ただし、RBIは8月の前回会合に続いて今回も政策金利を据え置くなど様子見姿勢を維持している。なお、RBIが金融緩和を進めた背景には、昨年後半以降にインフレ率が鈍化しており、RBIが定めるインフレ目標(4±2%)の域内で推移するなど落ち着きを取り戻していることがある。インフレ鈍化やRBIによる利下げを追い風に、4-6月の実質GDP成長率は前年比+7.8%と伸びが加速しているほか(注1)、その後の企業マインドも堅調に推移しており、足元の景気は引き続き堅調な動きをみせている様子がうかがえる。
その一方、トランプ米政権はインドに対する相互関税を25%とした上で、ロシア産原油や兵器を輸入していることに対するペナルティーとしての2次関税(25%)を追加し、合わせて50%と極めて高い関税を課している(注2)。なお、トランプ関税によるインド経済への直接的な影響は限定的なものに留まると試算されるものの、その後もトランプ米政権はインドにとって主力の輸出財である医薬品などに追加関税を課す方針を示しており、その影響が広がる可能性がある。さらに、トランプ氏は先月末に外国人の高度専門職を対象とするビザ(H1-B)に関する手数料を大幅に引き上げる大統領令に署名している。H1-Bを巡っては、その大宗をインド人が占めるとされており、トランプ関税の影響が及びにくいIT関連をはじめとするサービス企業の収益を圧迫することが懸念される。よって、金融市場においてはドル安が意識されやすい状況にもかかわらず、通貨ルピーの対ドル相場は最安値を更新しており、RBIは為替の安定を目的とする為替介入を迫られている。また、上述したように足元の景気は堅調な動きをみせているものの、主要株式指数(ムンバイSENSEX)は米国でのビザを巡る懸念が相場の重石となっている。このように資金流出に直面していることも、RBIが慎重姿勢を維持する一因になった可能性がある。
なお、会合後に公表された声明文では、今回の金利据え置きの決定は全会一致であるとともに、政策スタンスも「中立」で維持している。その上で、世界経済について「米国や中国が想定以上に堅調な動きをみせている」としつつ、「政策の不確実性が高まるなかで見通しは依然として不透明」との見方を示している。その一方、足元のインド経済について「好調な個人消費と設備投資が景気のけん引役になっている」ほか、「製造業とサービス業の生産が着実に拡大している」と評価している。その上で、先行きについて「平年を上回るモンスーン(雨季)の雨量やカリフ(雨季作)の堅調さ」などに加え、「サービス部門を中心とする堅調な雇用、GST(財・サービス税)合理化策も需要を押し上げる」との見通しを示している。これを受けて、今年度の経済成長率見通しを「+6.8%(7-9月+7.0%、10-12月+6.4%、1-3月+6.2%)」と8月時点(+6.5%)から上方修正するとともに、リスクについて「バランスが取れている」としている。また、物価動向について「今年度前半はモンスーンの雨量やカリフの堅調さを追い風に食料インフレが抑えられる」とした上で、「GST合理化策も物価抑制に資する」として「8月時点に比べて緩やかな上昇となる可能性が高い」との見方を示した。そして、今年度のインフレ率見通しを「+2.6%(7-9月+1.8%、10-12月+1.8%、1-3月+4.0%)」と8月時点(+3.1%)から下方修正した上で、リスクについて「バランスが取れている」としている。なお、足元のインフレ率はRBIが定める目標の下限近傍で推移しているものの、一部地域でモンスーンの多雨を理由にトマトなど生鮮食料品や穀物などの卸売物価が上振れする動きが確認されている。したがって、今回RBIはインフレ見通しを大幅に下方修正しており、今月からのGST引き下げの影響を考慮する必要があるものの、10-12月の想定を低くし過ぎている可能性には注意が必要である。しかし、今回の決定に際して「政策スタンスについてクマール委員(産業開発研究所(ISID)所長)とシン委員(デリー大学教授)の2名が『緩和』に変更すべきと主張した」ことを明らかにしており、追加緩和に動く可能性を残したものと捉えられる。
また、会合後にオンライン会見に臨んだRBIのマルホトラ総裁は、「食料インフレの鈍化とGST引き下げによりインフレ見通しは緩やかになっている」としたほか、「景気の見通しは依然として底堅い」と強調している。その上で、今回の決定について「政策委員会は次回会合までにこれまでの政策変更の効果を待つことが適切と判断した」としており、6月会合で決定された現金準備率の4回の引き下げのうち3回(10月4日、11月1日、11月29日)が今後予定されており、それらの効果を待ちたいとの見方がうかがえる。インドを巡っては、8月に主要格付機関のS&Pグローバルが18年半ぶりの格上げを決定したが(注3)、他の2社(フィッチ・レーティングス、ムーディーズ)は格付を据え置くなど追随する動きはみられない。フィッチとムーディーズは格付を据え置いた理由について、モディ政権がトランプ関税の悪影響を相殺すべく打ち出したGST引き下げのほか、今年度予算で実施される所得税の課税最低限引き上げなどによる歳入減が見込まれるなど、財政運営に対する規律の緩みを警戒する考えをみせている。こうした見方は、RBIによる連続利下げ実施にもかかわらず、足元の長期金利が高止まりするなど財政運営に対する警戒感がくすぶることにも現れている。RBIは追加利下げの可能性を模索している可能性があるものの、足元のルピー安など資金流出懸念がくすぶることを勘案すれば、当面は慎重な政策運営が求められる局面が続くことに留意する必要がある。
注1 9月1日付レポート「インドの4-6月景気は堅調確認も、トランプ関税など外部環境に注意」
注2 8月13日付レポート「トランプ関税の矛先がインドへ、本当の狙いはBRICSか?」
注3 8月15日付レポート「S&Pが18年半ぶりにインドを格上げ、トランプ関税の逆風を越えるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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