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2025.09.19
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国際的課題・国際問題
新興国リーダーで進む高齢化、あるいは終身化
~「ポスト〇〇」が存在しない事情も影響か、世界の在り様を見据えた対応がこれまで以上に重要に~
西濵 徹
- 要旨
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- インドのモディ首相は今月75歳を迎え、与党BJPの定年規定に抵触する年齢となった。しかし、党内外の支持や地政学的課題への対応力を理由に、2029年までの任期を全うする可能性が高まっている。また、党内には「ポスト・モディ」が育っておらず、次期総選挙以降もモディ氏による政権長期化が予想される。
- 中国では、習近平政権の下で党や国家の要職に対する任期制限が撤廃されてきた。さらに、反腐敗・反汚職運動を通じて政敵の駆逐を図るとともに、権力の集中が進み「習1強」体制が築かれてきた。習氏は後継者を育てない戦略を取っている可能性があるほか、終身化を目指しているとの観測が常に付きまとう。
- ロシアでも、プーチン大統領の下で憲法改正が行われて昨年の大統領選への出馬が可能となり、再選を果たして5期目に突入している。今月の地方選でも与党が圧勝するなど政権の安定性を維持する一方、選挙監視体制は弱体化しており、制度と実態の乖離が進んでいる可能性がある。
- 一方、日本では自民党総裁選を控え、民主主義の健全性が問われる局面にある。世界的にリーダーの高齢化と権力集中が進み、民主主義国家が制度的な煩雑さを理由に専制国家に劣勢になる場面がみられる。こうしたなか、日本では健全な選挙を通じて冷静な議論と対策の重要性が認識されることを期待する。
インドのモディ首相は、今月17日に75歳の誕生日を迎えた。モディ氏が所属するBJP(インド人民党)の内規では、選挙における党公認のほか、党や政府の役職について『75歳定年制』を設けている。BJPは2014年の総選挙において、西部グジャラート州首相として国民人気が高いモディ氏を首相候補に立てることにより、党史上最多の議席を獲得して政権を奪還した。その後のBJPは、モディ氏個人の国民人気の高さを求心力として党勢を拡大し、2019年の総選挙を前には、モディ氏の意向を反映する形で定年制を導入し、党内重鎮の引退を促したとされる。一方、2019年の総選挙でBJPは地滑り的な大勝利を収めるとともに、党内にいわゆる『モディ・チルドレン』が急拡大したことも追い風に、党内でモディ氏の存在感は一段と高まった。なお、昨年の総選挙でBJPは大幅に議席を減らす大惨敗と喫したことで、モディ氏の求心力に陰りが出ることが懸念された。しかし、その後に実施された北部ハリヤナ州や西部マハラシュトラ州議会選で勝利したほか、年明け以降も首都デリー準州で27年ぶりの与党奪還を果たすなど、重要州での勝利を追い風に求心力を回復する様子がうかがえる。さらに、足元ではトランプ米政権がインドに高関税を課すなど圧力を強めており、米国との関係悪化が懸念されるなか、モディ氏が毅然とした対応をみせていることも人気を後押ししている。
今年7月には、BJPの支持母体のヒンドゥー至上主義団体RSS(民族義勇団)のバグワット総裁が「75歳になるということは、立ち止まって他者に道を譲るようにということ」と述べたことをきっかけに、BJP内でも規定をモディ氏に適用するか否かの議論が活発化した。バグワット氏の発言は、ナッダ現BJP総裁(科学・肥料相)の任期満了が近付くなか、次期総裁人事を巡ってモディ氏とRSSの見解に乖離が生じており、モディ氏に暗に引退を迫ったとの見方が広がりをみせた。しかし、バグワット氏自身も今月11日に75歳の誕生日を迎えるとともに、その直前に発言を翻したほか、75歳になった後も総裁職を継続しており、結果的にモディ氏にとっての障壁は無くなったと捉えられる。また、憲法規定上も首相に定年などは設けられておらず、法律上もモディ氏の首相継続を阻む要因は存在しない。さらに、上述したように足元のインドには対米関係の悪化など地政学的な課題が山積している。その一方、BJP内は『モディ1強』とも呼べる状況が10年以上に及ぶなか、いわゆる『ポスト・モディ』が育っておらず、仮にモディ氏が退陣すれば、その後のBJPが派閥争いなどで不安定化するとともに、政局の混乱が懸念されることも影響している可能性がある。なお、一部では有力なポスト・モディとして、モディ氏の『懐刀』であるシャー内相(前BJP総裁)、北部ウッタルプラデシュ州首相のアディティヤナート氏の名前が挙がるが、いずれも決め手を欠くとされる。こうしたなか、BJP内では2029年の次期総選挙後におけるモディ氏の首相続投を推す声も出ており、政権のさらなる長期化も予想される。
新興国のリーダーの間で高齢化が進んでいる動きはインドに限らない。中国では、2012年の共産党大会(中国共産党第18回全国代表大会)で習近平氏が党総書記と党中央軍事委員会主席に選出され、翌13年の全人代(第12期全国人民代表大会第1回全体会議)で国家主席と国家中央軍事委員会主席に選出され、習政権が発足した。習氏の下、共産党においては、党内人事を巡って慣例とされてきた『七上八下(68歳で引退を意味する)』や2期10年とする党要職任期をことごとく破られてきた。さらに、習政権下では『反腐敗・反汚職』を旗印に多数の有力政治家が逮捕、党籍はく奪といった処分が下されるとともに、その後に習氏の側近が登用される動きがみられた。その結果、共産党や政府は『習1強』とも呼べる体制が築かれてきた。さらに、政権の2期目入りを果たした2018年の全人代(第13期全国人民代表大会第1回全体会議)では憲法が改正され、2期10年とされた国家主席、及び国家副主席の任期制限が撤廃されており、習政権の「終身化」が事実上可能となった経緯がある。そして、2022年の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)、翌23年の全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)をへて習政権は異例の3期目入りを果たすとともに、習氏の同世代(第5世代)は指導部人事からすべて外れた。また、習氏は自身の影響力を維持する観点から、明確な形で『ポスト習』を育てない戦略を取っているとみられていることも、習氏の終身化観測を高める一因となっている。そして、今月3日に北京で実施された抗日戦争勝利80年記念行事において、習氏はロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党書記との雑談で「予想では今世紀中には150歳まで生きられる可能性がある」、「70歳は小僧」と語った模様が報道され(その後に映像は使用不許可)、あらためて終身化が意識されていることは記憶に新しいところであろう。
また、習氏がリーダーの終身化の可能性を語ったロシアのプーチン氏も同様に、大統領の終身化が可能になっている。ロシアでは、2000年の大統領選でプーチン氏が勝利して大統領に就任し、2004年の大統領選でも再選を果たした。しかし、当時の憲法では大統領任期は「連続2期まで」と定められていたため、2008年の大統領選ではプーチン第2次政権で第1副首相を務め、プーチン氏の腹心であるメドベージェフ氏を大統領候補に据える一方、同氏の当選後は首相(連邦政府議長)を務めた。さらに、メドベージェフ政権下で行われた憲法改正により、大統領任期が4年から6年に延長されたことで、連続2期規定も8年から12年に延長された。その後、プーチン氏は2012年の大統領選に再び出馬して当選を果たし、2018年の大統領選でも再選を果たした。そして、プーチン第4次政権下の2000年に行われた憲法改正により、大統領任期について「連続2期まで」とする規定を維持する一方、新憲法の下で実施される大統領選への立候補を巡って、現行憲法の下での大統領任期が解除される旨の規定が盛り込まれた結果、プーチン氏は2024年に実施される大統領選に出馬することが可能となった。結果、2024年の大統領選にプーチン氏は出馬して再選を果たすとともに、同氏の得票率は88.48%と圧勝したことにより、盤石な政権基盤を維持しつつ政権は5期目に突入している。今月12~14日にかけて実施された統一地方選挙においても、計20の州知事・首長選でプーチン政権を支える与党・統一ロシアの推薦候補が全勝している。それ以外にも、州議会選などにウクライナへの「特別軍事作戦」に参加した多数の候補者が当選しており、プーチン政権が信任を得るとともに、ウクライナ侵攻の手綱を緩める可能性が低下していると見込まれる。今回の選挙を巡っては、昨年に独立系選挙監視団体が活動停止に追い込まれたこともあり、選挙を巡る不正に関する情報が表立ってないなかで実施されたが、制度と実態の間の乖離は極めて大きいことは想像に難くない。
折しも、日本では与党・自由民主党の総裁選挙を控え、『ポスト石破』に向けて各候補による動きが活発化している。世界においては、トランプ米政権は内向き姿勢を強めているほか、上述したように主要新興国である中国、ロシア、そして、インドにおいてリーダーが事実上の終身化に向けた動きをみせる。さらに、このところの世界を取り巻く環境に様々な不透明要因が山積するなか、手続き面における煩雑さなどを理由に、専制国家が民主主義国家に対して優位性を発揮する場面が少なからず散見されている。しかし、歴史を振り返れば、権力の長期化は様々な弊害をもたらしてきた。健全な選挙戦を通じて国家像や社会の在り様を戦わせることの意義は、今なお極めて大きい。その一方、世界に目を転じれば、世界における存在感を高めている新興国において専制色の強い政治体制の構築の動きが広がっていることを念頭に、日本においては民主主義を守りつつ、こうした国に対峙する外交戦略の構築に向け、地に足の着いた議論、そして対策を講じることの重要性が認識されることを期待する。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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