インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

2026年の新興国経済はどうなる(アジア、中南米、中東・アフリカ)

~2025年に続いて米国の動向に左右される展開が見込まれるうえ、金融市場環境にも要注意~

西濵 徹

要旨
  • 2025年の世界経済はトランプ関税を巡る不確実性に左右された。関税は完全に撤廃されておらず、駆け込み輸出による一時的な景気押し上げの反動が2026年に現れる可能性が高い。特に、経済構造面で外需依存度が相対的に高い新興国経済には影響が大きく出ると見込まれる。

  • 米中摩擦は一時的に沈静化し、関税水準はASEAN主要国とほぼ同水準まで低下しており、今後は米中貿易の底入れが期待される。中国景気は供給サイド主導で拡大が続くが、不動産不況や雇用回復の遅れにより内需は低迷している。内需喚起の重要性は認識されるも、具体策に乏しく、当面は外需依存が続く可能性が高い。過剰生産能力を背景に、輸出は他国との競合を強めている。国内の過当競争を勝ち抜いた企業は技術力も高めており、中国による「デフレの輸出」が世界経済に広く影響するリスクは高まっている。

  • ASEANは米中摩擦を背景に生産拠点として存在感を増したが、優位性は後退しつつある。外需のハードルが高まるなか、各国は内需喚起に注力しているものの、財政制約、政治不安、公共投資の停滞などが足かせとなっている。内需依存度が比較的高い国でも、成長の持続性に不透明感が残る。米ドル安を背景に金融緩和が進んだが、政策余地が狭まる可能性もある。外部環境の変化に引き続き注意が必要である。

  • インドは内需主導型経済であり、マクロ的な影響は限定的だが、高関税による対米輸出産業への影響は無視できない。政府はGST引き下げや金融緩和により内需を刺激しており、消費は持ち直すが、一時的なものに留まる可能性はある。トランプ関税を契機にした構造改革を金融市場は好感する一方、GST減税による財政悪化懸念から長期金利は高止まりしている。内需拡大は輸入増を通じて経常赤字を拡大させる懸念があり、ルピー安とインフレ再燃のリスクを高めている。金融市場の不安定化が成長の制約となり得る可能性には引き続き注意が必要と考えられる。

  • メキシコでは、USMCAにより深刻な打撃は回避されているが、対米輸出環境や投資流入は悪化している。2026年に行われる再協議次第ではリスクが高まる可能性は残る。ブラジルでは、高関税の影響は限定的だが、高インフレと高金利の共存による内需低迷が成長を抑制する展開が続いている。政治動向や米国との関係が市場の不安材料となる可能性もある。中南米では左派政権優位の流れに変化の兆しがみられ、対米姿勢の変化が今後の資源政策や米中対立の新たな焦点となる可能性にも要注意である。

  • 中東では地政学リスクがくすぶる。トルコではインフレ再燃の兆しがみられ、通貨安も続くなど、金融市場の不安定さがくすぶる。米国はアフリカ諸国に高関税を課す一方、中国は関係強化を進めるなど、アフリカ経済は中国景気への依存度を高めている。資源価格に左右されやすい金融市場にも注意が必要である。

  • 米中摩擦の一時的緩和は追い風となるが、グローバル化の変質やトランプ関税の反動は、2026年の新興国経済の重しとなりやすい。各国は内需喚起を進めるが、財政負担の増大、金利動向、食料品価格を中心としたインフレリスクが政策運営の制約となる。経済構造、財政、物価の動向が今後の景気の鍵を握る。

目次

1.はじめに

2025年の世界経済を巡っては、文字通り「トランプ関税」を巡る不確実性に翻弄される展開が続いてきた。トランプ米政権は、安全保障上の脅威に対する対抗策のほか、貿易赤字の圧縮を目的に関税政策を用いるとともに、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境の構築を目指した。こうした米国の関税政策は、グローバル化の動きを追い風に全世界的にサプライチェーンが複雑化してきた流れに大きな影響を与えるとともに、貿易の萎縮を通じて世界経済の足かせとなることが懸念された。なお、その後の米国と各国との協議を経て、トランプ関税を巡る状況は変化しているものの、根幹となる関税が撤廃されているわけではない。足元では、本格発動を前にした輸出の『駆け込み』が各国景気を下支えしているものの、先行きはその反動が懸念される。このため、2026年については、経済構造面で外需依存度が相対的に高い新興国経済にトランプ関税の影響がより色濃く現れることが見込まれる。

2.中国

米中摩擦を巡っては、当初は双方が報復合戦に動いて互いに高関税を課し合う貿易戦争に発展した。しかし、その後の両国による協議に加え、2025年10月末に開催された米中首脳会談を経て、事態は沈静化しつつある。具体的には、米中双方は報復措置を撤廃し、レアアースの輸出管理強化策を2026年11月まで1年延期するとともに、関税の上乗せ分も同様に延期し、米国はフェンタニル問題を理由に課す追加関税を引き下げている。結果、トランプ2次政権以降に米国が中国に課している関税は20%と、ASEAN(東南アジア諸国連合)主要国とほぼ同水準に低下しており、税率の差が米国への輸出競争力を左右する状況は回避されている。また、中国当局は、2025年の全人代(全国人民代表大会)において、対米関係の悪化を念頭に、米国以外の国や地域向けの輸出を活発化させる方針をみせた。足元の中国の輸出は、米国向け輸出が米中摩擦の激化を受けて下振れするも、米国以外の国や地域向け輸出が拡大して対米輸出の減少の影響を相殺している。前述のように、表面的であれ米中関係が改善に向かっていることは、先行きの米中貿易の底入れを促すことが期待される。

足元の中国景気は引き続き供給サイドをけん引役に底入れの動きが続く。一方、習近平指導部は「新質生産力」を旗印に、あらゆる分野で生産性向上を目指している。中国は様々な分野で過剰生産能力を抱えるなか、ここ数年はこうした分野を中心に生産能力の抑制が図られてきた。しかし、新質生産力に向けた投資活発化を受けて、中国国内の生産能力は一向に低下しておらず、先行きも供給サイドをけん引役にした景気拡大が続く可能性は高い。一方、足元の中国経済は不動産不況の長期化に加え、雇用回復の遅れが幅広い内需の足かせとなっている。中国当局は2024年後半以降、内需喚起に向けた取り組みを強化したが、足元では一連の対策による内需押し上げ効果に息切れ感が出ており、根強いディスインフレ圧力を招く一因となっている。中国当局は、2026年から始まる第15次5ヵ年計画で、内需喚起の重要性を謳うなど取り組みを強化する方針を示すが、具体的な方策などは一向に示されていない。不動産不況の行方も含め、内需を巡る環境の大幅な改善は見通しにくく、当面の中国経済は外需への依存を強める展開が続く可能性は高い。

このように、先行きの中国経済は外需への依存を強める展開が見込まれ、中国による輸出が他国の輸出との『カニバリゼーション(共喰い)』の様相を強めることが懸念される。中国国内では、過剰生産能力を背景とする過剰競争(いわゆる『内巻(ネイジュン)』)が企業収益の足を引っ張ることが社会問題化する一方、内巻の勝者は価格のみならず、技術面でも競争力を高めている。特に、製造業を中心に世界的に中国企業との競争の激化が見込まれ、アジアをはじめとする新興国のみならず、多くの国にとってこれまで以上に中国による『デフレの輸出』に直面することは避けられないであろう。

3.ASEAN

中国によるデフレの輸出を巡っては、中国との距離の近さに加え、近年の米中摩擦における『漁夫の利』を最も得てきたASEANをはじめとするアジア新興国がその脅威に最も晒されやすい。第一次トランプ政権以降の米中摩擦の激化、中国国内における人件費高騰、サプライチェーンにおける『チャイナ・リスク』の意識も重なり、全世界的なサプライチェーンの見直しが進んだ。こうしたなか、ASEAN諸国は中国に代わる生産拠点として存在感を高めた。さらに、関税の影響を回避したい中国企業も同様の動きをみせるなか、中国による『迂回輸出』も活発化してきた。こうした動きはアジア新興国にとって景気の追い風となる一方、トランプ関税はこうした動きへの警戒を反映している。前述したように、米中首脳会談を経て第二次トランプ政権以降に課される関税は中国とASEAN主要国とはほぼ同水準になっている。よって、中国企業による迂回輸出のメリットは大きく後退している。また、米国は中国による迂回輸出を警戒し、ASEAN諸国との通商協定において取り組み強化を義務付ける条項を設けているとされる。ASEAN諸国は米中摩擦の漁夫の利を得る形で中国に代わる生産拠点として対米輸出を拡大させてきたものの、そうしたハードルが高まることは避けられなくなっている。

ASEANをはじめとするアジア新興国のなかには、米国に代わる市場として中国への輸出拡大を目指す動きがみられる。しかし、中国の内需は勢いを欠くうえ、過当競争に晒される中国企業との競争の激化も予想され、経済構造面で外需依存度が相対的に高いアジア新興国がこれまで以上に厳しい環境に直面する可能性は高い。したがって、各国は景気下支えを図るべく内需喚起の取り組みを強化させている。インドネシアは、プラボウォ大統領が自身の任期中に経済成長率を大幅に押し上げる目標を掲げており、議員の厚遇をきっかけに反政府デモが激化したことも、政府への批判をかわすための景気下支えへの姿勢を後押しし、学校給食の無償化などバラ撒き政策に傾注するなど、短期的な景気下支えを重視している。一方、金融市場は財政運営に警鐘を鳴らすなか、市場の混乱を抑えるために政策を小出しにせざるを得ないうえ、インフラ投資をはじめとする公共投資を削減するなど難しい対応が続く。フィリピンでも、マルコス政権内に公共投資に関連した汚職問題が噴出しており、公共投資進捗の遅れが景気の足を引っ張る事態となっている。タイでは、政治的な混乱がくすぶるうえ、隣国カンボジアとの関係悪化がサプライチェーンに悪影響を与えている。また、近年は異常気象の頻発により幅広い経済活動に悪影響が出る事態に見舞われるとともに、食料品など生活必需品を中心とする物価上昇を招いている。このように、経済構造面で内需依存度が相対的に高いインドネシアやフィリピンについても、景気拡大のハードルは高い展開となる可能性は残る。

さらに、2025年の金融市場においては、トランプ米政権の政策運営の不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ実施を背景に米ドル安が意識されやすい展開が続いた。米ドル安は、ASEAN諸国にとって通貨高を通じて輸入物価を下押ししてインフレ安定に寄与し、各国中銀の景気下支えに向けた利下げを容易にしてきた。トランプ米政権は、金利のさらなる低下に向けてFRBへの人事などを通じた介入も辞さない姿勢をみせる一方、仮に関税政策や堅調な景気などを理由にインフレが高止まりすれば、引き締め姿勢が長期化するなど米ドルを取り巻く環境も変化する。財政政策のみならず、金融政策の選択肢の幅が狭まる可能性もあるなど、外部環境の行方に要注意と言える。

4.インド

ここ数年のインドでは、中国経済の勢いに陰りが出るなか、全世界的なサプライチェーンの見直しも重なる形で「中国に代わる生産拠点」を目指す動きが活発化してきた。また、トランプ氏とモディ首相の個人的関係も追い風に、当初は米国との通商協議が早期にまとまるとみられた。しかし、現実には協議は長期化しており、インドによるロシアからの原油輸入拡大を理由に、米国はインドに2次関税を課した結果、トランプ関税は50%と高水準となっている。インド経済は個人消費など内需が成長のけん引役であり、構造面で外需依存度は相対的に低い。よって、トランプ関税によるマクロ面での直接的な影響は限定的と見込まれる。一方、輸出全体に占める対米比率は2割と比較的高く、輸出関連産業への影響は避けられず、個別の追加関税の影響も重なり、特定分野で影響が顕在化する事態となっている。

モディ政権はトランプ関税による景気への悪影響を軽減すべく、GST(財・サービス税)の実質引き下げによる内需喚起を図っている。GSTの引き下げに伴い、足元のインフレ率は大きく鈍化するとともに、個人消費が活発化する動きが確認されている。さらに、インフレ鈍化を受けて中銀は金融緩和に動いており、耐久消費財への需要が押し上げられることも期待される。ただし、耐久消費財の需要押し上げについては、効果が一巡した後に反動が出るなど一時的なものに留まる可能性には注意が必要である。一方、金利低下は設備投資を後押しするほか、世界的なサプライチェーンの見直しの動きも対内直接投資の流入を促すなか、内需をけん引役にした景気拡大が続く余地は小さくない。

インドでは、個人消費など内需が成長のけん引役であるにもかかわらず、雇用機会の乏しさがボトルネックとなってきた。こうしたなか、モディ政権は、トランプ関税を奇貨として、長年にわたり手付かずの状況が続いた労働法改正や金融セクター改革といった構造改革が前進しつつある。足元の金融市場(株式市場)では、こうしたモディ政権による構造改革姿勢が好感されているほか、国内の個人投資家による資金流入も活発化するなど、投資家のすそ野が広がる様子がうかがえる。一方、インドは課税ベースの狭さが影響して歳入規模が小さく、インフラなど社会資本の整備が急務であるものの、政府は十分な投資を実施できない状況が続いた。こうしたなか、州ごとにバラつきがあった間接税を全土で統一する形でGSTが整備された経緯があり、GSTは『安定財源』として円滑な財政運営に向けた一助となってきた。このため、金融市場ではGST引き下げによる歳入減少が財政運営を難しくさせることを懸念しており、債券市場においては長期金利が高止まりする展開が続いている。

さらに、供給に比べて需要が旺盛なインドでは、輸入超過による貿易赤字が常態化して経常収支は赤字基調が続く。内需喚起による輸入拡大は対外収支のさらなる悪化を招き、財政状況の悪化と重なり経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増す懸念もある。こうしたことから、金融市場では通貨ルピーの対ドル相場が一時最安値を更新するなど調整圧力がくすぶる。ルピー安は輸入物価の押し上げを通じてインフレを招くことが懸念され、足元で比較的高止まりするコアインフレ率が一段と押し上げられる可能性がある。インド経済は内需をけん引役にした拡大が見込まれるものの、金融市場を巡るリスクを孕んでいる。

5.中南米

米国に隣接するメキシコにおいては、トランプ関税による深刻な悪影響が出ることが懸念された。しかし、その後の通商協議を経て、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した財は関税の対象外とすることで合意しており、メキシコ経済への大幅な下押しは回避されている。さらに、シェインバウム政権は中国を念頭に、メキシコと貿易協定を締結していない国からの輸入品に2026年1月から最大50%の追加関税を課すことを決定するなど、米国の意向に沿う動きをみせている。こうした動きも、米国がメキシコに対して比較的融和的な姿勢を示す一因になっているとみられる。ただし、対米輸出を巡る環境はすでに厳しくなるとともに、対内直接投資の流入も減少、米国における雇用悪化は移民送金を下押しして内需の重しとなることも懸念される。さらに、2026年にはUSMCAの再協議が予定されており、仮に再協議の結果がメキシコに厳しい内容になれば、外需を取り巻く環境が一段と悪化する可能性にも注意が必要である。

米国がインド同様に50%という高いトランプ関税を課しているブラジルについても、経済へのマクロ的な影響は限定的と見込まれる。一方、ルラ政権による様々なバラ撒き色の強い財政政策が影響する形でインフレは高止まりしてきたため、伝統的にタカ派色が強い中銀も引き締め姿勢を維持しており、物価高と金利高が共存する展開が続いてきた。結果、経済成長のけん引役となってきた個人消費をはじめとする内需を巡る環境は厳しい状況にあるとともに、原油をはじめとする商品市況の低迷も景気の足かせとなった。なお、米国は高関税を課したものの、航空機やエネルギー関連のほか、オレンジジュースなどを対象から除外したほか、2025年11月には牛肉やコーヒー、ココア、果物といった食料品も対象から除外するなど、ブラジルはトランプ関税を巡って『実質的な勝利』を収めている。とはいえ、内・外需ともに勢いを欠く動きが続く可能性が高まっている。ここ数年の景気低迷は大統領選での再選を目指すルラ氏の逆風となってきたものの、米国との対立激化を受けて支持率は上昇するなど追い風になる動きもみられる。一方、ボルソナロ前大統領の次期大統領選への出馬は事実上不可能であるうえ、後継候補の行方も見通せないなか、その動向が金融市場を揺さぶる可能性は残る。そして、米国との関係の行方も予断を許さない展開が続くであろう。

中南米においては、アルゼンチンに続いてボリビア、チリにおいても右派政権が誕生するなど、ここ数年にわたってドミノ倒し的に左派政権が誕生する流れが広がりをみせた「ピンクの潮流」に変化の兆しがみられる。ここ数年は多くの左派政権が反米姿勢を強めるなか、中国は「米国の裏庭」と称されるこの地域での影響力を拡大させてきたものの、今後は地域の対米姿勢が変化する可能性が出ている。2026年に大統領選が実施されるペルーやコロンビアにおいても右派勢力が優勢とされ、仮に右派政権が誕生すれば資源政策などの転換が進むとともに、米中対立の新たな舞台となることが予想される。

6.中東・アフリカ

中東においては、米国がサウジアラビアを主要同盟国と指定するとともに、軍事的な結びつきを強めている。中東における軍事的なプレゼンスを巡っては、イスラエルが優位性を維持してきたものの、今後はそうした地域の軍事バランスに変化が生じる可能性が強まっている。その一方、NATO(北大西洋条約機構)加盟国であると同時に、国民の大多数をイスラム教徒が占めるトルコはイスラエルに対して強硬姿勢をみせており、イスラエルを支持する米国との関係に軋轢が生じる可能性は残る。トルコでは、インフレ鈍化が進んでいることを受けて、中銀は断続的な利下げに動くなど景気下支えに向けた動きを進めてきた。しかし、足元では鈍化基調が続いたインフレの動きに変化の兆候がみられる。さらに、トルコ政府は2026年1月から最低賃金を27%引き上げる方針を決定している。トルコ中銀は2026年末時点におけるインフレ率を+16%に一段と鈍化させたい意向を示しているものの、その実現のハードルが高まることが予想される。さらに、2026年のトルコでは政治イベントが予定されていないものの、金融市場においては政治リスクが嫌気される形で通貨リラの対ドル相場は最安値を更新する展開が続いており、局面打開の見通しが立ちにくい状況が続く可能性には引き続き注意が必要である。

米国のアフリカ諸国に対するトランプ関税を巡っては、南アフリカなど3ヶ国に30%、チュニジアに25%、ナイジェリアなど18ヶ国に15%と比較的高水準としている。南アフリカに対しては、トランプ氏が同国において少数派である白人の扱いに注目した結果、高関税を課した経緯がある。さらに、イスラム過激派による襲撃事件が相次ぐナイジェリアを巡っても、トランプ氏はキリスト教徒が迫害されていると指摘し、派兵も示唆している。このように米国が強硬姿勢をみせる一方、中国はアフリカ諸国に対する関税を免除するなど対照的な動きをみせている。また、中国によるアフリカ諸国に対するこうした姿勢は、埋蔵資源の獲得のほか、新たな市場の創出を目的としているとみられ、2026年も関係深化の動きが進むことにより、アフリカ経済は中国景気の動向に一段と左右されやすくなる展開が見込まれる。一方、金融市場において、南ア・ランドの対ドル相場は堅調な推移をみせてきた。この背景には金価格が最高値を更新したことが影響しているとみられ、先行きも実体経済と関係なく金価格と連動した展開には注意が必要である。

7.まとめ

世界経済の不透明要因となってきた米中摩擦が一時的にせよ改善に向かう道筋が開けたことは、世界貿易にとって大きな追い風となることが期待される。その一方、ここ数年の世界経済は、分断の動きが広がりをみせるとともに、サプライチェーンの見直しの動きも重なり、グローバル化の流れに変化の兆しがうかがえる。近年のアジアをはじめとする新興国経済は、これまでのグローバル化に向けた動きが経済成長を促す一助となってきたことを勘案すれば、こうした変化は成長の足かせとなることが懸念される。さらに、トランプ関税の本格発動を前に、世界貿易は一時的に底入れの動きを強めるとともに、アジア新興国の景気を押し上げてきたことから、今後はその反動が景気の足かせとなることも避けられない。2026年の新興国経済については、比較的堅調な動きをみせた2025年とは異なる展開が続くと予想される。

こうしたなか、各国はトランプ関税による悪影響を軽減すべく、内需喚起に向けた取り組み強化させており、財政負荷が高まりやすくなっている。2025年はFRBやECB(欧州中央銀行)など主要国中銀が利下げを実施するなど、世界的に金利低下局面が続いたことから、新興国にとって資金調達が比較的容易な環境となってきた。しかし、2026年は利下げ観測が後退する可能性もくすぶるとともに、世界的に金利が高止まりすれば、新興国にとっては財政支援に向けた資金調達のハードルが高まることが予想される。また、足元では、ここ数年上昇基調を強めてきた世界的な食料品価格が、供給拡大を理由に鈍化に転じる動きをみせているものの、近年の異常気象の頻発を勘案すれば再び上昇に転じるリスクは残る。新興国の物価動向は食料品の動向に左右されやすく、仮に上昇に転じてインフレが再燃すれば、各国の金融政策の自由度を奪う可能性もある。今後の各国の経済構造、財政動向、そして物価動向が景気の鍵を握ることになろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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