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2025.08.28
アジア経済
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フィリピン中銀、追加利下げに加え、緩和サイクルの終了にも言及
~年内にあと1回の利下げの可能性の一方、緩和サイクルの終了は着実に近づいている模様~
西濵 徹
- 要旨
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フィリピン中銀は28日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ5.00%とすることを決定した。これにより、昨年8月から始まった利下げの累計幅は150bpとなる。足元のインフレ率は中銀目標を下回っており、中銀が景気下支えを重視する姿勢を強めるなか、今回の利下げは事前予想で既定路線とみられてきた。
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フィリピン経済は輸出依存度が低いものの、輸出の約17%を米国向けが占めるなどトランプ関税の影響は無視できない。米国との通商協議を経て相互関税は19%となり、マクロ的な影響は限定的と見込まれるものの、輸出関連産業への悪影響は避けられず、中銀は景気動向を注視せざるを得ない状況にある。
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会合後の記者会見で、中銀のレモロナ総裁は追加利下げや預金準備率の引き下げの可能性に言及する一方、緩和サイクルの終了が近付いていることを示唆した。これはこのところの金融市場において米ドル安にもかかわらずペソ相場の上値が重い動きをみせていることも影響している可能性があり、外部環境に配慮せざるを得ない状況にある。
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フィリピン中央銀行は、28日に開催した定例の金融政策において、政策金利である翌日物リバースレポ金利を25bp引き下げて5.00%とすることを決定した。中銀は昨年8月にコロナ禍一巡後初の利下げに動いて以降、その後は小休止を挟みつつ断続的な利下げを実施しており、今回の決定により累計の利下げ幅は150bpとなるなど金融緩和を進めている。足元のインフレ率は中銀が定める目標(2~4%)の下限を下回る伸びとなっているほか、コアインフレ率も目標の下限近傍で推移している。ここ数年のフィリピンはインフレに直面する展開が続いてきたものの、そうした状況は大きく変化しており、中銀にとって金融緩和を後押ししていると捉えられる。

また、中銀が金融緩和を進める背景には、トランプ政権による関税政策の影響もある。フィリピンは、構造面で輸出依存度は相対的に低いものの、輸出全体に占める米国向けの割合は約17%に上り、輸出関連産業を中心に悪影響が懸念される。当初、米国はフィリピンに対する相互関税を17%とアジア新興国のなかでも低水準としたが、7月にこれを20%に引き上げる方針を通告した。しかし、その後の通商協議を経て貿易協定が締結され、相互関税を最終的に19%とすることで合意している(注1)。一方、米国は先月に相互関税を本格発動させた上で、中国による迂回輸出を念頭に、第三国を経由して米国に輸出された財に最大40%の追加関税を課す旨の大統領令を発動させた。なお、米関税・国境警備局(CPB)に拠れば、米国と自由貿易協定(FTA)を締結していない国から輸出された財は、その部品が第三国で生産された場合でも『実質的な転換』がなされた国で生産したと表示可能である。現時点では、追加関税の対象に関するガイダンスのほか、迂回輸出の定義も示しておらず、追加関税の影響はないと捉えられる。よって、フィリピン経済へのトランプ関税のマクロ的な影響は限定的と想定される。
こうしたなか、足元のフィリピン景気はトランプ関税の本格発動を前にした輸出の駆け込みに加え、インフレ鈍化や昨年以降の中銀による断続的な利下げが個人消費など内需を下支えしている。その結果、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+6.32%と4四半期連続のプラス成長となるとともに、7四半期ぶりの高い伸びとなるなど、足元の景気は拡大の動きを強めている(注2)。上述したように、トランプ関税によるフィリピン経済へのマクロ的な影響は限定的と見込まれるものの、輸出関連産業を中心に一定程度悪影響が出ることは避けられない。中銀は昨年以降の利下げ局面において、景気下支えを重視する方針にシフトする姿勢をみせたほか、レモロナ総裁は6月の前回会合での利下げ決定に際して追加利下げに言及するとともに、その後もインタビューなどで緩和バイアスを堅持する考えを示していた。よって、中銀が今回利下げに動くことは既定路線であったと捉えられる。
なお、会合後に公表された声明文では、インフレ見通しについて「ほぼ変わらない」とした上で、「今年は+1.7%、2026年は+3.3%、2027年は+3.4%」と6月時点(今年は+1.7%、2026年は+3.4%、2027年は+3.3%)から若干修正するも同程度に維持している。なお、先行きの物価動向について「電力料金の変更やコメ価格の上昇などが物価動向に影響を与える」としている。一方、景気動向について「内需の堅調さが確認されているが、米国の関税政策は世界貿易や投資を通じて世界経済の足かせとなるほか、フィリピン経済の見通しに悪影響を与える可能性がある」との見方を示している。また、先行きの政策運営について「リスクを注視しつつ、物価と景気動向を勘案して対応を決定する」、「持続可能な経済成長と雇用の実現に向け、物価安定を図る」との従来からの考えを示した。会合後に記者会見に臨んだ中銀のレモロナ総裁は、政策スタンスについて「依然としてハト派だが、以前に比べてスタンスは後退している」とした上で、足元の状況について「物価安定と生産の最適なバランスを実現しているが、インフレ見通しへのリスクが生産見通しへのリスクより依然大きい」との認識を示している。そして、先行きの政策運営について「もう1回利下げする可能性がある」とした上で、「仮に食料インフレや電気料金が上昇してもインフレ率は目標域に収まる」との見通しを示している。その上で、「預金準備率を引き下げるタイミングを探っており、あと1回は引き下げる余地はある」と述べるなど、追加緩和の可能性に言及している。その一方、「緩和サイクルの終了が近付いているか否かは、データに基づけばそう判断できる」としつつ、「FRB(米連邦準備制度理事会)との金利差についてはあまり気にしない」と述べるなど、緩和サイクルの終了が近付いていることを示唆している。なお、レモロナ氏が緩和サイクルの終了に言及した背景には、足元の金融市場ではトランプ米政権の政策運営を巡る不透明感を理由に米ドル安圧力が掛かりやすい状況にあるものの、ペソの対ドル相場は上値が重い動きをみせていることも影響している可能性がある。したがって、先行きの政策運営についてはこれまでに比べてハト派姿勢が幾分後退することが予想される。

注1 7月23日付レポート「米国とフィリピンが通商合意、相互関税は19%、インドネシアと同水準」
注2 8月7日付レポート「フィリピン、4-6月GDPは前期比年率+6.32%と堅調さを確認」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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