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2025.07.25
アジア経済
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トルコ中銀は緩和路線を再開、今後も漸進的な利下げに動く方針
~リラ相場は政治的リスクが重石に、異常気象によるインフレリスクの動向にも注意を払う必要~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの国際金融市場では、トランプ米政権の政策不安などを理由に米ドル安基調が続いている。さらに、リスク選好の高まりを受けて新興国資産への資金流入が活発化しているが、トルコリラ相場は最安値圏で推移している。発端は、エルドアン大統領の政敵とされるイマモール・イスタンブール市長の逮捕とみられる。結果、中銀は昨年末以降、景気下支えに向けて断続的な利下げに動いたが、リラ防衛を目的とする利上げに追い込まれた。しかし、その後もインフレの鈍化が確認されており、中銀は24日の定例会合で政策金利を300bp引き下げ43%とする決定を行った。同行の利下げ実施は2会合ぶりであり、先行きも漸進的な利下げに動く方針をみせている。足下のインフレは落ち着いた動きをみせるが、異常気象によるインフレ再燃リスクはくすぶる。リラ相場の安定には政治的リスクの低下が不可欠だが、再来年の大統領選を控えて一段と激化する可能性はあり、リラは米ドルに対してのみならず、円に対しても上値の重い展開が続こう。
このところの国際金融市場では、トランプ米政権の政策運営の不透明感に加え、政権幹部によるFRB(連邦準備制度理事会)人事への介入が相次ぎ、金融政策の独立性に対する懸念が高まっている。その結果、米ドル相場は調整局面が続いている。さらに、トランプ氏による『TACO(腰砕け)』を期待する形でリスク選好が高まり、新興国資産などリスク性資産への資金流入が活発化しており、米ドル安の動きに拍車を掛ける展開となっている。こうした状況にもかかわらず、トルコの通貨リラの対ドル相場は調整局面が続いて最安値圏で推移するなど、外部環境が追い風となっていない。その発端は、今年3月末に同国最大都市のイスタンブールのイマモール市長が逮捕された事件にあるとされる。同氏は、再来年の次期大統領選挙での再選を目指すエルドアン大統領にとって最大の『政敵』とされており、一連の逮捕劇によりその芽を摘んだとの見方がある。また、同国では一昨年の選挙以降は財政、金融政策の両面で『正統的』な運営がなされてきたものの、政敵の排除をきっかけに景気下支えに向け中銀は利下げを迫られると観測も出ている。これらの要因がリラ安に歯止めが掛からない状況を招いていると考えられる。

上述したように、一昨年以降は正統的な政策運営が志向されるなか、中銀は物価と為替の安定を目的に大幅利上げに動き、高金利政策を維持する姿勢をみせた。その結果、インフレは昨年5月をピークに鈍化しており、落ち着きを取り戻している。一方、物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで景気は頭打ちの様相を強めており、昨年の経済成長率は+3.2%と前年(+5.1%)から鈍化して4年ぶりの低い伸びに留まった。こうした事態を受けて、中銀は昨年12月に現行の経済チームの下で初の利下げに動き、その後も今年3月まで3会合連続の利下げを実施するなど景気下支えに舵を切る方針転換を図った。しかし、3月末のイマモール氏の逮捕劇をきっかけにその後のリラ相場は調整の動きを強めたため、4月にはリラ相場の防衛を目的とする利上げに動いた。ただし、利上げ幅は350bpと昨年以降の利下げ幅(750bp)の半分以下に留まり、その後もリラ安に歯止めが掛からない展開が続いた。なお、リラ安にもかかわらず、原油をはじめとする商品市況の低迷を追い風にインフレは一段と鈍化したため、中銀は6月の定例会合で将来的な利下げに向けた布石を打つ姿勢をみせた(注1)。そして、直近6月のインフレ率は前年同月比+35.1%と2021年11月以来の伸びとなるなど一段の鈍化が確認された。

こうしたなか、中銀は24日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である1週間物レポ金利を300bp引き下げて43.00%とする決定を行った。同行による利下げは2会合ぶりであり、昨年12月からの利下げ局面を再開させた格好である。会合後に公表された声明文では、物価動向について「先行指標は7月のインフレが一時的に上昇することを示唆している」としつつ、「需要状況によるインフレ抑制の動きが強まっている」との認識を示している。その上で、先行きの政策運営について「基調的なインフレ動向などを勘案し、インフレ抑制に向けて必要な措置を確保すべく、インフレ見通しを踏まえて変動幅を会合ごとに慎重に検討する」として漸進的な利下げを志向する考えをみせる。なお、これまで同様に「すべての手段はインフレが大幅かつ持続的な悪化が想定される場合に備えて効果的に活用する」との姿勢を留保しているものの、足下の実質金利が大幅プラスとなるなど引き締め度合いが強まっていることを勘案すれば、緩和方向に舵を切る展開が続くと予想される。他方、同国では今月初めにも野党所属のアダナ市、アンタルヤ市、アドゥヤマン市の3市長のほか、多数の議員や党員などが汚職や恐喝などの容疑で逮捕され、一連の動きを巡ってエルドアン政権による『政治的弾圧』との見方が広がっている。リラ相場の安定にはこうした政治的なリスクの低減が不可欠と見込まれるものの、再来年の大統領選を見据えてこうした動きが一段と強まる可能性はくすぶる。また、このところは同国南部で熱波による火災が頻発しており、農業生産への悪影響が広がれば供給懸念を理由に食料品など生活必需品を中心とする物価上昇が再燃する可能性もある。上述したように、足下のリラの対ドル相場は最安値圏で推移する展開が続いているが、円に対しても上値の重い動きが続くことが見込まれる。

注1 6月20日付レポート「トルコ中銀、リラ相場に光はみえないが、利下げ再開への布石か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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