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イラン・イスラエル停戦後を探る

~中国・ロシア・北朝鮮との関係を深め、核開発は諦めないか~

嶌峰 義清

イスラエル・イラン停戦へ

6月22日、米国のイラン核施設への地下貫通弾(バンカーバスター)による爆撃により一気に緊張の度が高まったイランを巡る情勢は、発端となったイスラエルとイランの停戦に向けた動きで沈静化の目処が立ってきた。

米国のトランプ大統領によれば、まずイランが戦闘を停止し、12時間後にイスラエルが戦闘を停止するとしている。実際にこうした停戦案が実現するかどうかは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻の例を見ても、予断を許さないといえる。しかし、最初に攻撃を受けたイラン側が「イスラエル側が違法な侵略を停止すれば、それ以降は対応を継続するつもりはない」(イラン外相)といった趣旨の発言をしていることから、イラン側は停戦に向けた動きを歓迎している可能性が大きい。

一方で、イスラエルはこれまで度々こうした停戦に向けた動きを無視してきた過去を持つ。イスラエルがイランへの爆撃を始めた理由は、イランの核開発を阻止することであった。このため、米国の爆撃等による効果が不十分である、あるいはイスラエルが攻撃対象としてきた軍中枢や核開発技術者への攻撃が十分でないと判断すれば、イスラエル側からの攻撃が続くリスクは否定できない。

一時はホルムズ海峡封鎖のリスクも

イスラエルによるイランへの爆撃は6月13日に開始され、イスラエルは一部の目的を達成したものの、地下深くに存在する核開発施設の破壊には、米国軍の協力が不可欠との判断から米国にイラン核開発施設への爆撃を要請していた。米国による爆撃は、こうしたイスラエルの要請に応えたものとされており、今回の爆撃について米国は「イランの核計画だけを狙った精密作戦」であり、「体制転換は考えていない」と表明している。これに対し、イランは米国への報復を表明し、イラン周辺の米軍基地への攻撃などを示唆したうえ、イラン国会がホルムズ海峡の封鎖を承認したと報じられたことで、市場の緊張は一気に高まった。

ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡で、北岸にイラン、南岸にオマーンが位置している。最狭部の幅は約33kmあるが、大部分の水深は75~100mだが浅瀬が多く均一ではない。このため、タンカーが安全に通行できる十分な水深を有するエリアは3~6kmとされ、封鎖には相応の戦力が必要とはなるものの、不可能ではない。

ホルムズ海峡を通過して中東から世界に輸出される原油の量は、世界に供給される原油の約20%を占めるとされている。このため、ホルムズ海峡が封鎖されれば、世界の原油需給の逼迫は不可避で、原油価格の急騰は免れないだろう。特に、日本については原油の93.7%を中東に依存しており(2025年4月時点)、日本が輸入している原油の80%以上がホルムズ海峡を通過しているとされている。日本の石油備蓄量は国家備蓄と民間備蓄を合わせて242日分(2025年4月末時点)あるため、ホルムズ海峡が封鎖されたとしても直ちに原油がなくなるわけではない。しかし、ホルムズ海峡封鎖が長期化するとの見方が高まれば、日々の原油消費量を抑制して備蓄が枯渇しないような対応を迫られよう。そのためには、生産活動の抑制や、計画停電など、経済活動にも支障を来す事態となりかねない。こうした懸念から、WTI先物価格は一時1バレル=78.40ドルまで上昇した。しかし、今回の停戦に向けた動きが始動したとの報道を受けて、原油価格は10ドル程度下落している。

“継続”が早期停戦に向かった背景か

早期の停戦に向けた動きが出ている背景には、イスラエルも米国も、イランの政権交代を最終目的としていない旨を明確にしていたことが挙げられる。同時に、米国による爆撃以前に濃縮核燃料は別の場所に移動されたとも報道されており、それが事実であれば、イランはハメネイ最高指導者の下で継続的な核開発が可能となる。

イラン側は、米国の爆撃に対する報復措置として、カタールにある米軍基地への爆撃を行ったが、トランプ米大統領によればこれは事前に通知されており、米国側に死傷者は出なかったとされている。イランは自国が攻撃を受けた際に、しばしばこのような形で戦火が拡大しないような工夫を施した上で報復を行っており、今回もこうした形の報復にとどまったとみられる。

これにより、イランは報復を行った上で、早期の停戦にこぎ着けるという“名より実をとる”戦略に出たものと推察される。実際にそのような展開を見せるのであれば、イランの核開発疑惑から生じる軍事衝突のリスクは一時遠のき、原油価格も爆撃前の水準で安定すると予想される。

イランの中東での孤立は進むか

イスラム諸国とイスラエルは長年対立してきたものの、米国の仲介や経済的利益を優先する形で、2010年代後半頃から中東の湾岸諸国を中心にイスラエルとの国交正常化の動きが進展、2020年にはUAEとバーレーンがイスラエルとの間で和平合意(アブラハム合意)に至った。イスラム諸国とイスラエルの関係の変化は、ハマスによるイスラエル襲撃を契機に起こったガザ戦争において、イスラエルがガザで大規模な軍事作戦を展開しているにもかかわらず、アラブ諸国はイスラエルを非難するにとどめ、実質的な介入を控えていることからも窺われる。

一方で、イスラム教の宗派内では少数派とされるシーア派が90%以上を占めるイランは、ヒズボラやハマスへの支援を行うなど、イスラエルとの関係を深めようとする中東諸国とは一線を画してきた。

今回の爆撃により、イランの核開発はある程度の影響を受けるものの、致命的な影響を受けた可能性は低いとされている。報道されているように、濃縮ウランの移動に成功していれば、施設さえ再興すれば再び核開発を進めることも可能となる。中東で孤立するイランが核開発を諦めない可能性は高く、今後もイスラエルによるイランへの攻撃は断続的に続く可能性がある。一方で、イランは自国の安全保障の観点から中国やロシア、北朝鮮との関係を深めていく可能性もある。中国やロシアはイランの核開発を支持していない一方で、北朝鮮はイランの核開発に協力しているとの見方もあり、こうした国々とイランとの関係は、今後の中東におけるイランの立ち位置を探る上で重要なポイントとなろう。

嶌峰 義清


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嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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