インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国・李政権の対米交渉は一転不透明に、その外交政策の行方は

~日本としては毅然とした対応を維持しつつ、地域情勢を巡る懸念を共有することが肝要~

西濵 徹

要旨
  • 韓国では、今月初めの大統領選で革新政党の李在明氏が勝利し、3年ぶりに革新政党が発足した。今回は前職が罷免された異例の状況下で選挙が行われたため、即日政権交代が実施された。李政権は、混乱した政治の立て直しと経済の再生を最優先課題に掲げる。国会では革新勢力が多数派を形成しており、ねじれ状態の解消で李政権の政策運営は円滑化が見込まれる。他方、韓国経済は外需依存度が高く、米国の関税政策の影響を受けやすい。米トランプ政権による関税政策は景気に深刻な影響を与える可能性がある。
  • 李大統領は就任後初の外交舞台としてG7サミットにオブザーバー参加し、トランプ米大統領との直接会談を予定していた。しかし、トランプ氏がG7サミットを途中で切り上げたことで会談は中止されるなど、米韓貿易交渉の見通しは不透明となっている。他方、政権交代後初の日韓首脳会談が予定されており、日本としては毅然と是々非々の対応を維持することが肝要である。その一方、米韓関係の行方は東シナ海情勢や朝鮮半島情勢に影響を与えるため、そうした懸念をきちんと共有できる環境を醸成することも必要である。

韓国では、今月3日に実施された大統領選挙において、革新政党である共に民主党から出馬した前代表の李在明(イ・ジェミョン)氏が勝利し、3年ぶりとなる革新政権が発足した(注1)。通常、大統領選挙から大統領就任までは2ヶ月程度時間が空けられるものの、今回は前職が罷免により空席という異常事態のなかで大統領選が実施されたため、即日政権交代が行われている。李氏は大統領選後の勝利宣言において、昨年末の非常戒厳以降における政局混乱の立て直しを挙げるとともに、国内外に不透明要因が山積する経済の再生を当面の課題に掲げている。

なお、昨年実施された国会(一院制:総議席数300)の総選挙では、共に民主党の獲得議席数は単独で半数を大きく上回り、同党を中心とする革新政党が多数派を形成している(注2)。よって、政権交代前は政権と国会が『ねじれ状態』にあり、前政権による政策運営がことごとく国会に阻止される展開が続いたことが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が非常戒厳に打って出る一因になったとされる。しかし、政権交代によるねじれ状態の解消により、李政権にとっては政策運営を推進しやすい環境に置かれる。このような背景から、李政権にとっては上述した政治、及び経済を巡る問題の早期解決が喫緊の課題となっていると捉えられる。

韓国経済は構造面で外需依存度が相対的に高いなか、トランプ関税を巡る動きに揺さぶられている。米国は自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に追加関税を課しているだけでなく、今月から鉄鋼製品とアルミ製品に対する税率を大幅に引き上げている。さらに、米国は同国に25%の相互関税を課しており、韓国経済にとって対米輸出額は名目GDP比で7%に留まるものの、ここ数年は米中摩擦が激化する背後で対米輸出を大幅に拡大させてきた。また、近年は急速な少子高齢化も影響して人口は頭打ちしており、潜在成長率の低下が成長率の足かせとなる懸念が高まっている。こうしたなか、仮に相互関税の上乗せ分が発動されれば、景気に深刻な悪影響を与える可能性は高まっている。

政権交代前には、米韓FTA(自由貿易協定)をベースに米国との貿易協議を進めており、他国に対して交渉が先行しているとみられていた。さらに、前政権下で大統領代行として交渉を担った韓悳洙(ハン・ドクス)氏は、かつて総理代行や総理として米韓FTA交渉に関わった経緯もそうした見方に影響したとされる(注3)。なお、米韓FTAは革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元政権下で交渉が開始、締結された経緯があり、革新政権への後退にもかかわらず交渉は前進するとの期待は少なくない。しかし、政権交代により交渉は後退が避けられず、交渉の立て直しが急務になっていたと考えられる。

こうしたなか、李氏は大統領就任後初の外交舞台として、カナダで開催されている先進7ヶ国首脳会議(G7サミット)に招待国(オブザーバー)として参加している。そして、この場でトランプ米大統領との直接会談により事態打開を図る考えを示していた。しかし、トランプ氏はG7サミットを途中で切り上げて帰国したため、現地時間の17日に予定されていた両国の首脳会談は中止となるなど、一転して協議の見通しが立たない事態となっている。なお、李氏は大統領就任以前から、外交戦略を巡って国益に基づく『実用主義』を掲げており、その言葉に沿えば、日本や米国との間で現実的な対応をみせる可能性がある。一方、韓国の外交戦略については、過去にも国内世論の動向に大きく揺さぶられてきたことに鑑みれば、李政権が今後の外交政策において言行一致を維持できるかは不透明である。

他方、17日午後に政権交代後初めての日韓首脳会談が行われることが明らかになっており、日本としては韓国側の動きに合わせるのではなく、毅然と是々非々の対応を維持する『大人の関係』を構築することが望ましい。その一方、米国との協議は今後に持ち越しとなったものの、トランプ氏の東アジア情勢に対する関心が薄くなっているとみられるなか、仮に米国との関係に亀裂が生じれば、東シナ海問題や朝鮮半島情勢に悪影響が出る可能性がある。さらに、在韓米軍の縮小などにより東アジアにおけるパワーバランスに偏りが生じる事態となれば、中国の人民解放軍が太平洋での活動を活発化させるなか、そうした動きに勢いを与える可能性もある。日本としては、そうした懸念も共有しつつ、日米韓の枠組みの維持や地域情勢の在り様に関する認識を擦り合わせることの重要性は高い。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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