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フィリピン・サラ副大統領は弾劾裁判へ、中間選挙は激化必至の情勢

~マルコス家とドゥテルテ家の対立は一段と先鋭化、政界の行方に影響を与える流れに要注目~

西濵 徹

要旨
  • フィリピンの議会下院は5日にサラ副大統領に対する弾劾訴追案を承認した。このところのフィリピン政界ではマルコス家とドゥテルテ家の対立が激化する展開が続いてきた。サラ氏を巡っては機密費の不正使用などの嫌疑があるなか、昨年11月にサラ氏がマルコス大統領やその周辺の「暗殺」を仄めかす発言をしたことを機に、市民団体が弾劾訴追申請を行う「場外戦」に発展した。議会下院は最終的に殺害予告や公金濫用に関する嫌疑の申請について審議を行い、承認に必要な3分の1を大きく上回る約7割が賛成した。マルコス氏は弾劾そのものに距離を置く考えを示すが、5月の中間選挙まで残り100日を切るなど選挙戦は佳境を迎えるなかで両家の対立は先鋭化することは必至である。政局がペソ相場に影響を与える状況とはなっていないものの、弾劾の行方は今後の政界の動向に影響を与えるなど注意を払う必要がある。

フィリピンの議会下院(代議院)は5日、副大統領府における機密費の不正使用に関する疑惑が取りざたされているサラ・ドゥテルテ=カルピオ副大統領に対する弾劾訴追案を承認した。このところのフィリピン政界においては、現大統領のマルコス家と前大統領のドゥテルテ家の関係の行方に揺さぶられる展開が続いている。2022年の大統領選では、マルコス大統領とドゥテルテ氏の長女であるサラ副大統領がタッグを組んで両家の『蜜月』を演出することで圧勝を果たした。しかし、直後から両家が『次』を意識して存在感を誇示するなど主導権争いを演じたことを受けて、両家の関係にすき間風が吹く動きがみられた。さらに、マルコス氏が前政権による南シナ海問題や麻薬対策などの大転換を図ったことを受けて、ドゥテルテ氏がマルコス氏を公然と批判する動きをみせたことで両家の間の亀裂が広がった。そして、マルコス氏の支持者や側近などが中心になって憲法改正を目指す動きをみせたほか、マルコス氏も「新フィリピン」と称する政治運動を立ち上げ、父のマルコス元大統領が唱えた「新社会」の再燃が警戒されたことも重なり、ドゥテルテ氏やサラ氏はこれらの動きに対する反発を強めた。その後、サラ氏は兼務していた教育相を突如辞任した上で、今年5月に実施された中間選挙(統一国政・地方選)にドゥテルテ家や側近の出馬意向を示すなど、議会上院で多数派を占めるマルコス派との全面対決を宣言した。その一方、マルコス政権や議会はドゥテルテ前政権下で実施された麻薬戦争への追及を強めるとともに、ドゥテルテ氏の周辺に『搦め手』で圧力を掛ける動きをみせてきたものの、そうしたなかでサラ氏が昨年11月に自身が殺される事態に至れば、マルコス大統領夫妻などを暗殺すべく『殺し屋』を雇ったと発言するなど不穏な動きをみせるとともに、同氏への批判が強まる事態となった(注1)。その後もサラ氏の発言に対して国家捜査局(NBI)がサラ氏に対する召喚状を発出し、議会ではサラ氏の教育相在任中の歳出に加え、副大統領府の機密費の不正使用を巡る追及が強まるとともに、サラ氏やその側近などと議員との衝突が発生したことを受けて、国家警察(PNP)がサラ氏と警護員を暴行、公務執行妨害、強要の嫌疑で告発する事態となった。さらに、市民活動家が議会下院に対して、脅迫発言のほか、公金濫用、収賄、権力濫用をはじめとする24の理由を元にしたサラ氏への弾劾訴追申請を行うなど、両家の対立はいよいよ『場外戦』に発展した(注2)。マルコス氏自身は弾劾訴追そのものについて「時間の無駄」との考えを示すなど距離を置く姿勢をみせたほか、その後も市民団体が提出した3件の弾劾訴追申請について手続きが保留されてきた。しかし、その後に上述した殺害予告や機密費をはじめとする公金濫用に対する嫌疑を巡る申請が審議されたほか、評決に際しては現職議員306人の3分の1(102票)の承認が必要となるなか、それを大きく上回る約7割に及ぶ215票が賛成した。他方、サラ氏は一貫して不正行為を否定するとともに、今回の弾劾訴追案を巡っても「政治的復讐」、「権力の濫用」と批判してきたほか、サラ氏の兄(パオロ下院議員)も反発を強めるなど、マルコス家とドゥテルテ家の対立が一段と激化することは必至とみられる。なお、憲法規定では憲法違反、贈収賄、汚職、反逆などを理由に、国会は正・副大統領や最高裁判所の裁判官をはじめとする特別公務員に対する弾劾を行うことができるとされる。過去に代議院が弾劾訴追案を承認したのはジョセフ・エストラーダ元大統領をはじめ4件あり(うち1件は議会上院(元老院)での評決を前に辞任)、今回で5件目となる。今後は元老院が弾劾裁判所を開廷して解職の是非を判断するが、解職決定には現職議員23人の3分の2(16票)以上の賛成が必要となるが、マルコス氏は弾劾を支持しないとした上で、立法府への権限はないと述べるなど引き続き距離を置く考えを示している。とはいえ、5月12日の中間選挙まで残り100日を切るなど選挙戦は佳境を迎えているが、マルコス家とドゥテルテ家は抜き差しならない関係となっており、その行方にも少なからず影響を与えることが予想される。ペソ相場については、一連の政局を巡る混乱の影響を受けることのない展開をみせているが、その行方は今後の政界の流れに影響を与えることも予想されるだけに引き続き注意を払う必要性がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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