インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン景気は堅調さが続くも、今月予定の中間選挙の行方には影

~内需をけん引役に堅調な景気が続くも、ドゥテルテ氏逮捕を契機に選挙情勢は大きく変化している~

西濵 徹

要旨
  • 米トランプ政権による相互関税は世界経済や国際金融市場を混乱させている。特に、中国との報復関税の応酬をきっかけに貿易戦争に発展した。一方、足元で米トランプ政権は各国と協議を進めるとともに、対中姿勢を軟化させる動きをみせる。今後は米中協議の進展が期待されるも、その行方は依然不透明である。
  • 一方、フィリピン経済は相対的に低い関税率の恩恵を受けており、通貨ペソ相場は堅調に推移しているほか、インフレも落ち着いている。1-3月の実質GDP成長率も前期比年率+5.09%とプラス成長で推移しており、政府支出や個人消費、企業の設備投資など内需が景気を下支えするなど堅調な動きをみせている。
  • しかし、今月12日の中間選挙を巡っては、マルコス政権によるドゥテルテ前大統領の逮捕をきっかけに、支持率が低下するなど見通しが立ちにくくなっている。仮に混乱が広がり政権基盤が弱体化すれば、南シナ海問題など外交方針にも影響を与える可能性があり、中間選挙の行方に注意を払う必要性は高い。

このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策の影響を受けている。米トランプ政権はすべての国に一律10%、一部の国には非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。米トランプ政権は4月に一律部分と上乗せ部分の発動に動くも、直後に中国以外の国に対する上乗せ分の発動を90日間延期するなど、政策は二転三転している。その一方、トランプ関税に対して中国は報復措置に動いたほか、米中による報復合戦を経て、米国は145%、中国は125%と互いに高関税を課す貿易戦争に突入した。こうした動きは、世界貿易を通じて世界経済に様々な影響を与えるとともに、国際金融市場における資金の流れにも変化を与えている。他方、米トランプ政権は各国と協議を行うとともに、米国経済の変調が懸念されるなかで対中姿勢にも軟化の兆しがうかがえる。さらに、米中両国は初の直接協議を行うことを明らかにしており、米中対立が一段と激化する懸念は後退する動きがみられる。しかし、これらの協議が円滑に進展するかどうかは不透明であり、金融市場は引き続きこれらの動向に左右される可能性がある。

こうしたなか、米トランプ政権はフィリピンへの相互関税率を17%と、他のASEAN主要国(ベトナム(46%)、タイ(36%)、インドネシア(32%)、マレーシア(24%))に比べて低水準に設定している。さらに、フィリピンにとって対米輸出額は名目GDP比2.6%に留まることを勘案すれば、相互関税に伴う直接的な影響は限定的と見込まれる。よって、米トランプ政権による相互関税発表後の国際金融市場の動揺にもかかわらず、同国の通貨ペソの対ドル相場は比較的堅調な動きをみせた。さらに、その後は『米国離れ』の動きが強まったことによる米ドル安も追い風にペソの対ドル相場は底入れの動きを強めており、足元では昨年来の高値を視野に入れるなど輸入物価を通じたインフレへの懸念は後退している。こうした状況を背景に、中央銀行は先月の定例会合で利下げを再開するなど、景気下支えの姿勢を強めている(注1)。

図表
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トランプ関税の発動を前にした対米輸出に『駆け込み』の動きもあり、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+5.4%と前期(同+5.3%)から伸びが加速するなど底入れの動きが確認されている。前期比年率ベースの成長率も+5.09%と前期(同+6.14%)からペースこそ鈍化するも拡大が続いており、一部のアジア新興国では景気にブレーキが掛かる動きがみられるにもかかわらず、足元の同国経済は堅調な推移をみせている。トランプ関税の発動を前にした駆け込みの動きも追い風に財輸出は堅調な動きをみせるとともに、外国人来訪者数も底堅い動きをみせるなかでサービス輸出も拡大している。さらに、足元のインフレは一段と鈍化して中銀目標を下回るなど実質購買力に押し上げ圧力が掛かるとともに、中銀も昨年後半以降に断続利下げに動いていることも重なり、個人消費は底堅い動きをみせているほか、企業部門の設備投資意欲も同様に堅調な動きをみせている。そして、マルコス政権は今月の中間選挙を控え、景気下支えの動きを活発化させている。こうした動きを背景に政府消費が押し上げられ、公共投資の進捗が固定資本投資を下支えしている。なお、幅広い内需拡大の動きを反映して輸入は輸出を上回るペースで拡大し、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲13.89ptと大幅マイナスとなるなど、足元の景気実態は数字以上に堅調と捉えられる。

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なお、今月12日に実施予定の中間選挙を巡っては、当初はマルコス大統領陣営が優位に選挙戦を進めているとみられていた。しかし、3月にマルコス政権は国際刑事警察機構(ICPO)からの要請に基づき、国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪を理由にドゥテルテ前大統領に発出した逮捕状を執行したことをきっかけに(注2)、戦況が大きく変化する兆しが出ている模様である。直後にはマルコス大統領の姉のアイミー上院議員が、マルコス氏に抗議し、マルコス陣営からの推薦を辞退する事態に至っている。さらに、ドゥテルテ氏の地盤である同国南部のミンダナオ島で大規模デモが発生したほか、その後もインターネット上ではSNSを中心にドゥテルテ氏を擁護する内容の偽情報が大量に拡散される動きもみられるなど、選挙戦の動向に影響を与える懸念も高まっている。こうした動きを巡っては、中国政府やその影響下にある人物が関与しているとの疑惑も指摘されており、選挙まで1週間を切っているにもかかわらず、その行方は見通せない状況にある。足元のインフレ率はこのところのペソ高による輸入物価抑制の動きに加え、マルコス政権が実施したコメに対する輸入関税引き下げ策などの効果も重なり、中銀目標の下限を下回る伸びとなるなど落ち着いた動きをみせている。こうした状況はマルコス大統領やその周辺に有利に働きやすいものの、ドゥテルテ氏の扱いをきっかけに政権支持率が急低下するなど、情勢は不透明感を増している。仮に政権基盤が弱体化すれば、南シナ海を巡る中国への対応などは変更を余儀なくされる可能性も高まるなど、地域情勢にも少なからず影響を与えることが予想される。そうした点でも、中間選挙の行方に注意が必要である。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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