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シンガポール総選挙、与党得票率上昇でウォン政権は信任を得たか

~政治的安定を確保し、外的環境による経済的課題が山積するなか、これからが正念場に~

西濵 徹

要旨
  • シンガポールで3日に実施された総選挙は、独立以来政権を担ったリー一族が政治の表舞台を去るとともに、昨年発足したウォン政権の下で初めて行われた。同国の選挙制度は与党PAPに有利な一方、ここ数年は党勢の衰えがみられるなか、ウォン政権の下で党勢回復が喫緊の課題となっている。今回の総選挙でPAPは87議席を獲得して圧勝するとともに、得票率も上昇した。しかし、野党の候補者擁立が限られていたこともPAPの得票率向上を促した可能性もある。足下の経済情勢は極めて不透明ななか、実績と安定感がPAPの得票率向上に寄与した可能性はあるが、ウォン政権の生活費高騰や住宅不足などの課題への対応は未知数である。リー一族不在というなか、政治的な安定を維持しつつ、経済を巡る不透明感の高まりに立ち向かえるか、ウォン政権にとってはこれからが本当の意味で正念場になると捉えることができる。

シンガポールでは3日、国会(一院制:総議席数97)総選挙が実施された。今回の総選挙は、独立以来政権の中枢を担ってきたリー・クアンユー元首相、リー・シェンロン前首相というリー一族が政治の表舞台を去るとともに、昨年誕生したウォン政権の下で初めて行われる総選挙であり、政権に対する信任投票の意味合いを持つ。また、同国では、1965年の独立から一貫して人民行動党(PAP)が政権与党の座を維持しており、選挙区割りなどPAPに有利な形で選挙制度が構築されていることが影響している。しかし、2020年の前回総選挙でPAPの得票率は過去3番目の低さとなるなど党勢の衰えが鮮明になる一方、最大野党の労働党(WP)は議席数を積み増すなど存在感を増している。こうしたなか、ウォン政権やPAPにとって今回の総選挙は信任投票であるのみならず、党勢回復に向けた道筋を付けられるか否かといった点でも注目された(注1)。

図表1
図表1

今回の総選挙では、選挙区割りの変更により総議席数が97議席と改選前(93議席)から4議席増えている。こうしたなか、選挙管理委員会の発表によれば、PAPの獲得議席数は87と改選前(83議席)から4議席積み増しており、約9割に当たる議席を占めるなど圧勝した。多くの選挙区において野党候補に大差をつける形で勝利しているほか、注目されたPAPの得票率も65.57%と前回(61.20%)から+4.37pt上昇するなど、ウォン政権は党勢回復に向けて一定の成果を得られたと考えられる。なお、今回の総選挙でPAPは唯一すべての選挙区に候補者を擁立する一方、野党はWPをはじめとする計10党が参加した。しかし、WPは計33の選挙区のうち8選挙区にしか候補者を擁立できず、残りの選挙区では結果的にPAPから出馬した候補者以外の選択肢がなく、PAPの得票率向上に繋がったとの見方もある。よって、今回の結果を以ってウォン政権やPAPが国民からの信任を得ることができたとみるのは早計とも捉えられる。

なお、足元の同国経済はいわゆる『トランプ関税』の発動を前に景気に急ブレーキが確認されているほか(注2)、世界経済や国際金融市場は米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感に揺さぶられるなかで先行きは一段と視界不良となる可能性は高まっている。こうしたなか、独立以来政権与党の座にあるPAPの実績やそのことに伴う安心感がPAPの得票率向上に寄与した可能性はある。とはいえ、足元のインフレ率は落ち着きを取り戻す動きをみせているものの、長引く生活費の高騰や住宅不足に対する対応が課題となるなか、ウォン政権がこうした問題に道筋を付けられるか否かは未知数である。長らく政治の中枢を担ってきたリー一族という『強力なリーダーシップ』なき後の同国にとっては、今回の総選挙を通じて政治的安定が維持されたことも追い風に、経済を巡る不透明感に立ち向かうか、ウォン政権にとってはこれからが正念場になろう。

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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