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シンガポール国会解散、総選挙は5月3日実施へ

~ウォン首相に初めての審判、政権維持の可能性は高いが、政治的安定の行方が注目される~

西濵 徹

要旨
  • シンガポールでは4月15日に国会が解散され、5月3日に総選挙が実施される。1965年の独立以来、PAP(人民行動党)が政権を維持してきたが、その背景には選挙制度が同党に有利なことも影響している。
  • 一方、近年では最大野党WP(労働党)の存在感が高まり、2020年の前回総選挙ではPAPが得票率を低下させるなど苦戦を強いられた。これを受けて、次期首相候補だったヘン・スキャット副首相(当時)は辞退し、当時のリー・シェンロン首相は2022年にローレンス・ウォン財務相(当時)を後継指名した。ウォン氏は昨年首相に就任し、PAPも世代交代を進めるなど次期総選挙に向けて党勢の立て直しが図られてきた。
  • 今回の総選挙はウォン氏にとって初の総選挙であり、政権に対する信認が問われる場となる。選挙区割の変更で議席数は増えるが、PAPは圧倒的多数を占めるなかで総選挙後も大きく構図が変わる可能性は低く、政権維持の見通しは高い。しかし、「トランプ関税」などの影響で経済の先行き不透明感が高まるなか、リー一族という象徴的なリーダーが不在のなかで政治的安定を如何に維持するかが注目される。

シンガポールでは、15日に国会(一院制)の解散が発表された。その後、選挙管理委員会は総選挙を5月3日に実施すると発表した。今月23日に公示日を迎えるが、すでに選挙戦に向けた火ぶたが切られたとみられる。同国では、1965年の独立から一貫してPAP(人民行動党)が政権与党の座を維持している。こうした背景には、同国の選挙区割りをはじめとする制度がPAPに有利な形で構築されるなど、しばしば『ゲリマンダー』と揶揄されていることも影響している。しかし、2011年の総選挙で最大野党のWP(労働党)は議席数を大きく積み増すとともに、2015年の総選挙でも議席数を維持するなど着実に存在感を増している。さらに、コロナ禍の最中に実施された2020年の前回総選挙においてPAPは政権与党の座を維持するも、得票率は過去3番目の低さとなるなど苦戦を強いられた。

当時のリー首相は、かねてより自身が満70歳を迎える2022年を目途とした政権移譲の意向を示していた。しかし、前回総選挙での苦戦を受けて、選挙責任者で『ポスト・リー』の本命とされたヘン・スキャット副首相(当時)が次期首相の座を辞退するなど政権移譲の取り組みが振り出しに戻った。さらに、同氏は辞退の理由に高齢を挙げたため、ポスト・リーの座を巡って一段と世代交代が進むことを後押しした。結果、2022年にリー氏は自身の後任にローレンス・ウォン財務相(当時)を指名し(注1)、その後は着実に政権移譲に向けた取り組みを前進させてきた。そして、昨年ウォン氏は首相に就任して政権交代が行われるとともに、政権のみならず与党PAPも大幅に『若返り』が図られるなど今年11月までに実施予定の次期総選挙に向けて体制を固める動きを前進させてきた(注2)。

前回の総選挙においてPAPが苦戦を強いられた背景には、PAPを巡って度々指摘された権威主義やエリート主義への拒否感が国民の間で強まっているとされる。さらに、コロナ禍という未曽有の危機を受けて国民の間には『安定』を求める動きが広がっているにもかかわらず、PAPがその『受け皿』と見做されなかったとの指摘も多かった。こうしたことから、ヘン氏の辞退を受けてコロナ禍対応を仕切ったウォン氏がポスト・リーの最有力となるとともに、世代交代の動きも追い風に党勢拡大に取り組んできた。なお、上述したように同国の選挙制度は与党PAPに極めて有利とされており、最新の世論調査においてもPAPが政権を維持する可能性は極めて高いと捉えられる。他方、今回の総選挙はウォン氏にとって初めて自身が取り仕切る選挙である上、過去1年の同政権に対する信任投票の意味合いが大きく、得票率をどれだけ積み増すことができるかが注目される。

なお、今回の総選挙では選挙区割の変更により総議席数が97議席と改選前(93議席)から4議席増える。WPなど野党勢力が一定程度議席を増やすと見込まれるものの、PAPは改選前段階で83議席と圧倒的多数を確保しており、ほとんどの法案や予算案を単純過半数で可決することができるなか、大幅に議席を減らす事態を回避できれば政治的なこう着状態に陥る可能性は極めて低いと捉えられる。ただし、足元の同国経済は『トランプ関税』の発動を前に景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されており(注3)、先行きは一段の混乱も予想されるなかで経済の安定が急務になっている。長らく政治の中枢を担ってきたリー一族という『強力なリーダーシップ』が不在となった同国にとっては、外部環境の荒波という経済の困難に立ち向かうことを前提に、政治的安定を図ることができるかが注目される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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