- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ブラジル中銀、景気にブレーキもインフレ高進で手綱を緩められず
- World Trends
-
2025.03.21
新興国経済
新興国金融政策
ブラジル経済
為替
ブラジル中銀、景気にブレーキもインフレ高進で手綱を緩められず
~次回会合での利上げ幅縮小に含みも引き締め姿勢は堅持、レアル相場も外部環境に左右される~
西濵 徹
- 要旨
-
- ブラジル中銀は18~19日に開催した定例会合で5会合連続の利上げに加え、3会合連続の100bpの大幅利上げを決定し、政策金利は8年半ぶりの水準となる。同国では2022年半ばにインフレが一時18年ぶりの水準となるも、中銀の大幅利上げや商品高の一巡を受けてその後は頭打ちしてきた。さらに、一昨年発足したルラ政権は景気下支えへ中銀に「圧力」を掛ける動きをみせたため、中銀は慎重な利下げに動いた。しかし、昨年後半以降のインフレは再び加速し、中銀目標を上回るなど物価を巡る状況は変化してきた。
- よって、中銀は昨年9月に再利上げに動くとともに、ルラ政権の財政運営を警戒したレアル安の進行も重なり、その後も断続利上げ、かつ大幅利上げに動くなど引き締め姿勢を強めた。足下のレアル相場は米ドル高一服を受けて底打ちするも、インフレは一段と加速する動きが確認されており、中銀の大幅利上げを後押ししたとみられる。中銀は次回会合での追加利上げに言及する一方、利上げ幅の縮小に含みを持たせたものの、その内容についてはこれまで同様にインフレ期待や景気動向などが決定要因になるとしている。
- 足下の景気動向にブレーキが掛かる動きがみられる上、企業マインドも物価高と金利高の共存が内需の足かせとなる懸念が高まるなかでサービス業を中心に勢いを欠く展開が続いている。レアル安の一服や景気減速は物価抑制の追い風となる一方、米トランプ政権の通商政策は景気、物価双方に影響を与えることが懸念され、金融政策は引き締めの手綱を緩められず、レアル相場も外部環境如何の様相が続こう。
ブラジル中央銀行は、18~19日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)において、5会合連続の利上げに加え、利上げ幅も3会合連続で100bpとする大幅利上げを決定し、これに伴い政策金利(Selic)は14.25%と8年半ぶりの水準となる。ここ数年のブラジルは、コロナ禍からの経済活動正常化、商品価格高騰、異常気象による水力発電稼働率低下に伴うエネルギー価格上昇、および米ドル高に伴うレアル安による輸入物価上昇が重なり、インフレに直面してきた。よって、中央銀行は物価と為替の安定を目的に、累計1175bpもの断続的な利上げを実施した。また、商品価格高騰の一巡に加え、利上げによる実質金利上昇が投資を呼び込み、レアル相場を支えた。これらの要因が重なり、2022年半ばに18年ぶりの高水準となったインフレは、その後頭打ちに転じた。さらに、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなるなかでインフレは頭打ちの動きを強めたため、中銀は一昨年以降に一転して利下げに舵を切るなど対応を変化させた。
しかし、その後も異常気象に加え、昨年発足したルラ政権がバラ撒き志向の強い財政政策に動くなど物価上昇要因がくすぶったため、中銀は累計の利下げ幅を325bpに留めるなど慎重な政策対応を維持してきた。さらに、ルラ政権は早期の景気回復を目指して財政出動に加え、中銀に対して大幅利下げを求めて公然と『圧力』を掛ける姿勢をみせるなど、その独立性に対する疑念が生じる動きも表面化してきた。結果、中銀の慎重姿勢を理由に実質金利は高水準で推移してきたにもかかわらず、国際金融市場ではルラ政権の財政運営に対する警戒感を反映して昨年以降のレアル相場は一転して頭打ちするなど、新たなインフレ要因となることが懸念された。こうしたことも、中銀が慎重姿勢を維持せざるを得ない一因となるとともに、中銀はレアル相場の安定を目的に為替介入に追い込まれるなど難しい対応を迫られた。そして、インフレは2022年半ばを境に頭打ちするとともに、一昨年以降は中銀が定める目標域で推移する展開が続いたものの、昨年後半には目標域の上限を上回るなどインフレが顕在化する動きがみられた(図1)。

よって、中銀は昨年9月に再利上げに舵を切ったほか、その後もレアル安とインフレへの対応を理由に断続利上げに動くとともに、昨年12月以降は利上げ幅を拡大させるなど『タカ派』姿勢を強めている。さらに、中銀は今年1月にガリポロ新総裁が就任するなど新体制が発足したが、新体制下で初めて開催された1月の定例会合でも4会合連続の利上げに加え、利上げ幅も2会合連続で100bpとする大幅利上げを行うとともに、次回会合でも同程度の利上げに動く方針を示すなどタカ派姿勢を堅持する考えを示した(注1)。なお、足下のレアル相場を巡っては、米ドル高の動きに一服感が出るなかで底入れしているものの(図2)、直近2月のインフレ率は前年比+5.06%と一段と加速しており、幅広い分野で物価上昇の動きが確認されるなど、中銀による一段の金融引き締めを後押ししたと捉えられる。

会合後に公表した声明文では、世界経済について「米国の政策運営を巡る不確実性が影響する形で厳しく、米FRBの政策スタンスや他国の景気動向にも影響を与えることが懸念される」とした上で、「新興国市場を巡る環境も厳しい展開となる可能性がある」との見方を示している。他方、同国経済について「力強さがうかがえるも、景気減速の兆候がうかがえる」としつつ、「インフレは目標を上回るとともに、足下では再び加速している」との認識を示している。その上で、物価動向について「上振れリスクとして①インフレ期待の上振れ長期化、②サービスインフレの予想外の上振れ、③レアル安の長期化」を、「下振れリスクとして①景気減速、②世界貿易や国際金融市場の動揺」を挙げるとともに、前回会合同様に「財政運営が金融政策や金融市場に与える影響を注視する」との考えを示した。また、インフレ見通しについて「今年は+5.1%」と前回会合時点(+5.2%)からわずかに下方修正するも依然中銀目標(3±1.5%)の上限を上回るとしている。そして、今回の決定について「より緊縮的な金融政策が必要となる」としつつ、次回会合について「インフレ収束に困難なシナリオに加え、不確実性が高まっている上、利上げ効果の遅行効果に鑑みれば、シナリオ通りに事態が進展すれば小幅利上げが見込まれる」と利上げ幅の縮小に含みを持たせつつ、「利上げ幅はインフレ動向や期待、需給ギャップやリスクバランスに留意しつつ、インフレ目標実現への確固としたコミットメントに基づく形で決定する」とした。
足下の景気動向を巡っては、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+0.69%とプラスで推移するも前期(同+3.02%)から鈍化して5四半期ぶりの低い伸びに留まるとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースでも+3.6%と前期(同+4.0%)から伸びが鈍化するなど、足下の景気にブレーキが掛かる動きが確認されている(注2)。企業マインドを巡っても、米トランプ政権の通商政策をきっかけとする不透明感が高まるなかでも製造業に底堅い動きがみられる一方、インフレに加えて中銀が引き締め姿勢を強めるなど個人消費をはじめとする内需を取り巻く環境が厳しさを増すなか、サービス業の勢いに陰りが出ている(図3)。さらに、上述したようにレアル相場も底打ちするなど変化の兆しがみられるなかで物価動向の追い風となることが期待されるものの、米トランプ政権が計画する相互関税の賦課は同国経済に悪影響を与えることも予想されるなか、中銀にとっては引き続き金融引き締めの手綱を緩められない展開が続くことは避けられない。レアル相場についても米トランプ政権の動きなど外部環境に左右される展開が続くであろう。

注1 1月30日付レポート「ブラジル中銀、ガリポロ体制下の初会合も大幅利上げで「タカ派」堅持」
注2 3月12日付レポート「ブラジル24年成長率は+3.4%に加速も、足下の景気にブレーキ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
韓国中銀は利上げシフトを鮮明に、申総裁はやはり「タカ」だった ~政策委員は引き締め方向で一致、総裁は「借金投資」への警戒感もにじませる~
アジア経済
西濵 徹
-
ニュージーランド中銀は僅差で金利据え置きも「タカ派」傾斜を確認 ニュージーランド中銀は僅差で金利据え置きも「タカ派」傾斜を確認
アジア経済
西濵 徹
-
インド政府、「Z世代」の支持を集めるSNSへの警戒を強める ~不満を募らせる「ゴキブリ」を若年層が支持、政治的な動きに発展するかが注目される~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア・プラボウォ政権、サイバー空間の「予測」に敏感に反応 ~同国では賭博は違法だが、「言論の萎縮」が一段と進む可能性も~
アジア経済
西濵 徹
-
メキシコペソ、上値を抑える材料は引き続き多い ~実質金利の縮小に加え、実体経済の不透明感など、上昇余地の乏しい展開となるか~
新興国経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
メキシコペソ、上値を抑える材料は引き続き多い ~実質金利の縮小に加え、実体経済の不透明感など、上昇余地の乏しい展開となるか~
新興国経済
西濵 徹
-
BRICS外相会議、中東情勢を巡る「溝」で共同声明の採択見送り ~イランとUAEの対立が先鋭化、「全会一致」を前提とする意思決定の難しさが露に~
新興国経済
西濵 徹
-
ペルー大統領選、決選投票を前に高まる経済と政治を巡るリスク ~候補者訴追問題やインフレ圧力の強まりを受け、市場環境は不安定な展開が続くか~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル・ルラ政権、燃料補助金による価格抑制に舵 ~大統領選を強く意識した政策運営、「産油国」など特殊事情はあるが、持続可能ではない~
新興国経済
西濵 徹
-
南ア下院、ラマポーザ大統領への弾劾手続き開始へ ~否決の公算も統一地方選には逆風、ランド相場は外部環境が左右する展開続く~
新興国経済
西濵 徹

