再び減少に転じた実質賃金(25年1月毎月勤労統計)

~物価上振れにより、当面減少が続く可能性大~

新家 義貴

要旨
  • 25年1月の毎月勤労統計では、共通事業所ベースの現金給与総額が前年比+2.0%と、12月の同+5.3%から上昇率が大きく鈍化、実質賃金も前年比▲2.7%と大幅な減少に転じた。①冬のボーナスによる押し上げ分が剥落したこと、②物価上昇率が加速したことが背景にある。実質賃金が安定的に増加する状況にはまだ距離があることを示す結果。
  • 一般労働者の所定内給与は前年比+3.0%(12月:同+2.8%)と大きな変化はなし。春闘による賃上げの波及は概ね出尽くしたため、先行きの名目賃金は前年比+3%程度で推移する見込み。
  • 名目賃金は今後も増加が続くが、食料品価格の上昇で物価が上振れていることが懸念材料。当面、賃金の伸びが物価上昇に追い付かない可能性が高く、少なくとも5月分までは実質賃金マイナスが続く可能性が高い。

ボーナス要因の剥落と物価上昇率加速で実質賃金は減少

本日厚生労働省から公表された25年1月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比+2.8%と、前月の同+4.4%から上昇率が鈍化した。こうした賃金上昇率の鈍化に加えて物価の伸びが加速したことから、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金で見ると前年比▲1.8%(24年12月:同+0.3%)と3か月ぶりの減少に転じている。また、より賃金の伸びの実勢を示すとされている共通事業所ベースでも現金給与総額は前年比+2.0%と、24年12月の同+5.3%から伸びが大きく鈍化しており、実質賃金でも前年比▲2.7%と大幅な減少となっている(図表1、2)。

今月の実質賃金マイナス転化の理由は、①冬のボーナスによる押し上げ分が剥落したこと、②物価上昇率が加速したことの二つだ。①について、共通事業所ベースの特別給与は24年12月に前年比+7.5%と非常に高い伸びとなり、好調な企業業績を背景として冬のボーナスが大幅に増加したことが示されていた。その結果、名目賃金全体でも24年12月は同+5.3%と大きく押し上げられ、実質賃金もプラスとなっていた。もっとも、ボーナスの支給は12月がほとんどで、1月に支給する事業所は少ない。そのため、今月はボーナスによる押し上げ分が剥落し、名目賃金の伸びが鈍化した格好だ。②の影響も大きい。25年1月の消費者物価指数では、食料品価格が一段と上昇率を高めたことや、ガソリン・灯油補助金の縮小からCPIコアは前年比+3.2%(12月:同+3.0%)と、2ヵ月連続の3%台となった。さらに、1月は野菜価格の高騰により生鮮食品が大幅に上昇したことでCPI総合は前年比+4.0%(12月:同+3.6%)とコア以上の高い伸びとなったほか、賃金の実質化に用いられる「持家の帰属家賃除く総合」は前年比+4.7%(12月:同+4.2%)と5%に迫る勢いとなっている。このように、ボーナス要因の剥落による名目賃金の伸び鈍化と物価上昇率の加速が相まって、1月の実質賃金は大幅な減少に転じている。

なお、1月の共通事業所の現金給与総額が前年比+2.0%と、これまでのトレンドよりもかなり低い伸びになっているが、これは特別給与が前年比▲10.2%と大幅に減少したことの影響が大きい。昨年1月に同+14.0%と高い伸びだったことの反動が出たものと思われる。一部の事業所でボーナス支給のタイミングがズレた(前回は後ずれ、今回は前倒し)可能性があるだろう。今月の特別給与減少による押し下げは特段懸念すべきものではない。所定内給与が前年比+2.7%と、これまで通り安定的な増加を続けていることを踏まえると、名目賃金は基調として引き続き前年比+3%前後で推移していると見ておけばよいだろう。

図表
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所定内給与に大きな動きなし

ボーナスによる攪乱があった一方、所定内給与は前月から大きな変化はなかった。春闘賃上げの影響を大きく受ける一般労働者の所定内給与(共通事業所ベース)は前年比+3.0%と、12月の同+2.8%から上昇率を若干高めた。春闘結果の反映が始まった24年5月以降、概ね+3%弱程度の伸びが続いている。なお、24年春闘で決まった賃上げの反映については概ね終わっていることから、先行きここから一段の上振れは考えにくく、一般労働者の所定内給与は当面前年比+3%程度で推移することが見込まれる。パート労働者の賃金については人手不足の影響によりさらに伸びる可能性があるが、全体を大きく押し上げるほどにはならない。パート、一般を含めた所定内給与全体でみても大きくは変わらないだろう(図表3、4)。

図表
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物価上振れが実質賃金を抑制。春闘に期待も、それでも増加基調定着には時間

実質賃金は当面、小幅減少が続く可能性が高いと考えている。賃金が現状の程度の伸びとなる一方で、物価の高止まりが続く可能性が高いことがその理由だ。

名目賃金は、ボーナスの支給時期である6、7、12月に特別給与の影響を大きく受けるが、その他の月については所定内給与の動きに概ね連動する。25年1~4月はボーナスの影響を受けにくいことから、所定内給与の足元のトレンドである前年比+3%前後で推移することが予想される。なお、25年5月以降は、25年春闘の結果次第だ。

問題なのは物価の上振れだ。特に食料品価格での予想以上の上昇が目立っており、先行きも積極的な値上げが続く見込みである。企業の価格転嫁意欲は依然として強く、今後も食料品価格が物価を押し上げるとみられる。電気代、物流費や人件費の上昇等、値上げの理由も多様化しており、食料品以外でも、今後上振れる可能性が否定できない状況である。特に年度替わりの4月は要警戒だ。

こうしたことから、CPIコアは、少なくとも25年前半までは前年比+3%前後の上昇率が続く可能性が高いと予想している。また、賃金の実質化に用いられる消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」で見ると上昇率はさらに高いことにも注意が必要だ。「持家の帰属家賃を除く総合」は25年2月に多少鈍化が見込まれるが、それでも前年比+4%台は維持しそうだ。この先仮に生鮮食品の伸びが鈍化したとしても、少なくとも25年前半まで前年比+3%台半ば程度にはなるだろう。物価はしばらく上振れを警戒する必要がある。

こうした点を踏まえると、当面賃金の伸びが物価上昇に追い付かない可能性が高い。少なくとも5月分までは実質賃金マイナスが続く可能性が高いとみられる(6月はボーナス次第でプラス転化の可能性あり)。実質賃金が明確なプラス基調に至るには物価の鈍化を待つ必要があるが、それには時間がかかるだろう。

こうしたなかで期待が集まるのが春闘である。現在の情勢を踏まえると、賃上げ率は少なくとも24年並みは確保できそうで、実際には24年をやや上回る高い伸びになることが想定される(春闘賃上げ率は2年連続の5%台か(春闘要求集計結果) ~労働組合の賃上げ要求水準は昨年を上回る~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所)。現在の名目賃金のトレンドが前年比+3%程度であるため、25年春闘の結果が反映されれば、前年比+3%台前半程度まで上昇する可能性はあるだろう。

こうした賃金の上昇はもちろん好材料だが、前述の物価上振れを踏まえると、それでも実質賃金がプラスになるかどうかは心もとない。実質賃金が明確に増加基調になるには物価の鈍化を待つ必要があるが、それにはやはり時間がかかるものと思われる。


  1. 報道等で言及されることが多い「本系列」の値は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響により攪乱されるため、月次の賃金変化の動向を把握することには適さない。多くのエコノミストは、1年前と当月の両方で回答している調査対象のみに限定して集計された「共通事業所」の前年比データを重視しており、日本銀行も賃金動向に言及する際にはこの値を用いている。

  2. 共通事業所系列の実質化については様々な議論があるが、ここでは簡易的に「共通事業所ベースの名目賃金前年比-持家の帰属家賃を除く総合の前年比」を共通事業所ベースでみた実質賃金とした。

  3. 確報で修正される可能性もあることにも注意したい。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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