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2025.02.19
アジア経済
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トランプ政権
市場が色めき立つ「中国テック」を巡る環境変化は本物か?
~民間ビジネスに対して党・政府への忠誠、関与拡大を求める動き、「付き合い方」に注文が付くリスクも~
西濵 徹
- 要旨
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- このところの金融市場では米中摩擦の行方に注目が集っている。他方、中国金融市場では昨年後半以降の当局の方針転換を追い風に本土株が大きく底入れし、景気も底入れが確認された。しかし、足下では景気の息切れや反動減が意識されるなかで上値が抑えられる展開が続くなど、勢いを欠く動きをみせる。
- 他方、今月17日に習近平氏が民間企業トップを集めて開催したシンポジウムを機に、外国人投資家を中心にテック企業を取り巻く環境が変化するとの期待が高まっている。同シンポジウムにここ数年表舞台から姿を消していたジャック・マー氏が参加したことも、そうした見方や期待を後押ししていると捉えられる。
- 同シンポジウムで習氏は「先富促后富」などメッセージを打ち出し、民間ビジネス、とりわけテック企業の事業後押しを示唆する姿勢をみせた。しかし、一連のメッセージでは民間企業に党・政府への忠誠、党・政府の関与拡大を求める内容も盛り込まれている。よって、民間企業が党・政府の「代弁者」となることで、米中摩擦などの矢面に立たされるリスクも高まる懸念がある。中国企業との付き合い方に注文が付くことも懸念されるなか、党・政府と民間ビジネスとの関係の行方に注意を払う必要性はこれまで以上に高まっている。
このところの国際金融市場においては、米トランプ政権の通商政策や米中摩擦の動きが両国経済、ひいては世界経済にどのような影響を与えるかに注目が集まっている。他方、中国金融市場では昨年半ば以降、当局が政策総動員により内需喚起に動く方針に転換したことを追い風に、直後には中国本土株が大きく底入れするなど活況を呈する動きが確認された。しかし、その後は内需を取り巻く環境に不透明要因が山積していることに加え、米中摩擦の動きが外需の重石となる懸念を反映して、上値が抑えられる展開をみせている。この背景には、昨年末にかけての中国景気は一連の内需喚起策に加え、米トランプ政権の発足を前に外需に駆け込みの動きが出たことも重なり底入れが確認されるも(注1)、先行きについてはこうした動きの反動による景気下振れが警戒されていることも影響している。

しかし、足下の中国市場を巡っては、外国人投資家を中心に視線が大きく変化する兆しがみられる。そのきっかけは、習近平国家主席が今月17日に人民大会堂において多数の民間企業トップを集める形での座談会(シンポジウム)を主宰したことにある。同シンポジウムには多数のテック企業のトップが参加した模様が報道されており、なかでも最も注目を集めたのが、アリババグループの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が名を連ねていたことである。マー氏を巡っては、2020年に中国国内の金融規制を公然と批判したことを機に、当局が同社に対する締め付けを強化したほか、計画していた上海市場と香港市場での新規株式公開(IPO)の延期に追い込まれた。その後に当局は同社に対して巨額の罰金を科すとともに、マー氏は実質的な経営権を放棄する事態に発展したほか、公の場から姿を隠すなど表舞台からの離脱を余儀なくされた。さらに、当局はアリババのみならず、テック企業に対する締め付けを強化するとともに、当局による統制強化を通じて介入する動きがみられた。しかし、今回のマー氏の出席は表舞台への復帰を意味するとともに、多くのテック企業のトップが顔を揃えるなど、当局によるテック企業への対応の変化を期待する向きに繋がっている。
国営通信社(新華社)報道に拠れば、同シンポジウムで習氏は民間企業トップに対して「先富促后富」というメッセージを提示しており、これは鄧小平氏が推進した『先富論(先に豊かになれる者が豊かになり、その他の者をけん引して助け、徐々に共通の繁栄を達成できる)』を意識したものと捉えられる。なお、習近平指導部の下では「共同富裕」が重視され、昨年7月の3中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)においてもその重要性があらためて強調されるなど、民間ビジネスと相容れない形での統制、関与を強める流れがみられた(注2)。そうしたなか、今回のシンポジウムでは民間企業の間で広がる当局への不信感払拭を目指しているとみられ、「民間企業と起業家がその才能を発揮する時であり、民間企業と民間起業家が国に奉仕する志を持ち、心を一つにして発展を求め、法を順守した上で経営に取り組み、まず豊かになって共同富裕を促進した上で、『中国式現代化』の推進に向けて新たな、より大きな貢献をすることを望む」との発言を行っている。ただし、習氏が掲げた先富促后富については、「先に富を築いた者が共通の繁栄を支援すべきである」とあくまで共同富裕の実現を後押しすべき、と解することも出来るため、これを以ってテック企業を取り巻く環境が一変すると理解するのは早計かもしれない。
また、「民間ビジネスには大いなる展望と発展の可能性がある」と指摘し、「中国経済において民間ビジネスは非常に大きなウェイトを占めており、民間ビジネスの質の高い発展促進に向けた基盤がある」とする一方、「民間ビジネスの発展に関する党と国家の基本原則と政策は、中国の特色ある社会主義体制に組み込まれており、一貫して堅持され、実施される。それらは変わることはなく、今後も変わることはない」とのメッセージにあるように、ビジネスの発展が党と政府を支えることを目指さざるを得ないことに現れている。そのことは、「我が国は法治国家の社会主義国であり、あらゆる所有形態の企業の違法行為から逃れられない。多くの民間企業と民間起業家は、起業家精神と国家への奉仕を元に愛国心を養うべき。中国の特色ある社会主義の建設者となり、中国式現代化の推進者となる。新しい質の高い生産力を育成し、現代的な産業システムを構築し、農村の活性化を全面的に推進し、地域の協調的な発展を促進し、人民の生活を保護し、向上させる。積極的に社会的責任を果たし、調和のとれた労使関係を積極的に構築し、生態環境保護に良い仕事をし、公共の福祉と慈善に精一杯参加し、社会に愛情を注ぐ必要がある」とするなど、党と政府への忠誠を誓うことを求める動きもみられる。これは、中国では様々な技術分野において『(政治に関連する分野以外での)自由』が認められることと同様に、企業活動を巡って党や政府の『代弁者』となることを求められること意味する。その意味では、テック企業をはじめとする中国企業が米中摩擦の『矢面』に立つリスクがこれまで以上に高まっていると捉えられる。
そのことは「党中央が下したすべての決定は妥協なく断固として実行されねばならない」とのメッセージにも現れている。そのなかでは「法に基づく形での生産要素の平等な利用、市場競争の公正性確保へあらゆる障害を断固排除し、あらゆる企業への公正な開放を継続的に推進し、民間ビジネスの資金調達の困難さや高コスト問題解決への努力を払う」とビジネス促進を謳うとともに、「民間ビジネスの支払い遅延問題の解決に注力」、「法執行の監督強化により、法律に基づく形で民間企業と民間起業家の合法的な権利と利益を効果的に保護する」、「各種の救済政策の実施や政策の精度向上を通じてすべての企業を平等に扱う」など、ここ数年の中国で進む『国進民退』の動きの是正を目指す意欲はうかがえる。しかし、「政府と企業はさらに緊密且つ健全な関係を構築する必要があり、各レベルの党委員会と政府は現実に即して民間ビジネスの発展促進に向けた政策と措置を調整すべき」とするなど、これまで以上に民間ビジネスへの党・政府の関与を強めることを示唆している。中国では会社法に基づく形で企業に党委員会の設置が義務付けられているが、民間ビジネスへの党・政府の関与を一段と進めることを意味していると捉えることも出来る。
こうした状況を勘案すれば、民間ビジネス、とりわけテック企業を巡っては、これまで以上に事業展開に向けた障壁が取り払われる可能性は高まっていると捉えられる一方、これらの企業は中国以外の国々においては党・政府の『代弁者』としてビジネスを展開していく懸念は極めて高い。よって、いわゆる「トランプ2.0」の下で米中摩擦が新たな段階に突入するなかでは、これらの企業が対立の矢面に立たされるとともに、外国人投資家にとってこれらの企業との付き合い方に様々な形で『注文』が付くリスクにも注意を払う必要性は高い。その意味では、市場は同シンポジウムの開催を以って信頼感を取り戻すと期待する向きをみせているが、その内実をこれまで以上に注視する必要性は高まっている。
注1 1月17日付レポート「中国、2024年成長率は+5.0%と目標(5%前後)をクリアしたけれど」
注2 2024年7月22日付レポート「中国人民銀行、3中全会を経て金融緩和に舵も効果は限定的か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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