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2024.07.22
アジア経済
中国経済
中国人民銀行、3中全会を経て金融緩和に舵も効果は限定的か
~小出しの対応が続くなか、金融市場は今後も期待と失望を繰り返す展開となる可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では15~18日の日程で中長期的な経済政策の運営方針を討議する3中全会が開催された。習政権下では議論の軸が統治方針にシフトする動きがみられたが、今回の3中全会では習近平指導部が主導する中国式現代化の実現と国家安全を重視する方針が示された。また、戦略分野の重点化や不動産問題や地方政府債務、少子高齢化などの問題などにも一定の方針が示された。当面の経済運営の方針については「総花的」な印象が拭えないものの、問題を認識した上で対応する方針だけは示されたと捉えられる。
- 3中全会では今年の経済成長率目標達成の方針が示されたなか、中国人民銀行は22日に7日物リバースレポ金利に加え、1年物LPRと5年物LPRをいずれも10bp引き下げる全面的な金融緩和に動いた。金融市場での米ドル高が金融緩和のハードルとなってきたが、米ドル高に一服感が出るなかで景気下支えの政策対応に舵を切った。ただし、今回の利下げが小幅に留まり、不動産在庫を巡る問題の複雑さを勘案すれば効果は限定的なものに留まろう。習近平指導部が主導する中国式現代化を勘案すれば、金融市場が抱く「べき論」に沿った動きに出る可能性は低く、金融市場は今後も期待と失望を繰り返す展開が続こう。
中国では、15~18日にかけて開催された3中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)において、中長期的な経済政策の運営方針が討議された。過去の3中全会においては経済政策の重要な方向性を決める動きがみられたものの、習近平政権下で実施された過去2回は経済政策から統治機構に議論の重点がシフトする動きがみられた。さらに、今回の3中全会においても先行きの経済運営の方針を巡っては、習近平指導部が主導する「中国式現代化(欧米などと異なる経済発展モデル)」の推進が謳われるとともに、その実現に向けて国家の安全を重視する方針が示されている(注1)。この週末に共産党が公表した決定全文においては、その具体的な方策として、外国の圧力から国家安全を守るべく、ここ数年の米国との対立を念頭に経済制裁や内政干渉への対抗のほか、海洋権益を守る仕組みを整備するなど社会統治制度の強化に取り組むとしている。また、経済運営についても習近平指導部が主導する「高質量発展(高い質の発展)」を最重要任務とすべく、科学技術を通じた「新質生産力(新たな質の生産力)」の育成を重視するほか、その実現に向けて供給網(サプライチェーン)の強靭さと安全レベルを引き上げるなど国家安全を念頭に置く姿勢をみせている。具体的には、技術革新や生産要素の革新的な配分、徹底的な産業の変革と高度化の促進を目指すとしており、戦略産業に新世代情報技術、人工知能(AI)、航空宇宙、新エネルギー、新素材、ハイエンド機器、バイオメディカル、量子技術を挙げつつ、資源配分を巡っては市場が決定的な役割を果たすとともに、民間部門を巡る状況を改善させるべく政府が法整備を図ること、財政、および金融改革の重要性に言及している。ただし、こうした戦略分野を巡っては、米国や欧州などが中国における過剰生産能力を警戒する動きをみせているほか、中国に対する姿勢を硬化させていることを勘案すれば、先行きは一段と緊張関係が高まる可能性が考えられる。他方、足下の中国経済は家計消費をはじめとする内需の弱さが景気の足かせとなる状況が続いており、こうした問題を巡っては積極的な内需拡大を図るほか、税・財政制度や金融部門の改革深化を図るほか、不動産や地方政府を巡る問題について重点リスクの抑制を図る方針を示した。決定全文では、不動産問題を巡って低所得者向けの住宅(保障性住宅)の供給を新たな発展モデルとして拡充させるとともに、地方政府に対して不動産市況の状況に応じて柔軟な政策対応を可能とするよう自主権を認めるほか、関連する税制の整備を進めるとしている。また、地方政府の債務問題の解決に向けては税財源の拡充を図るほか、習近平指導部が主導する「共同富裕」の実現に向けて所得再分配制度を見直し、低所得者層に対する分配を増やす仕組みを導入するとしている。さらに、中国経済が直面する構造問題である少子高齢化や人口減少問題への対応を巡っては、子育て支援の仕組みの改善、定年年齢(現状は男性が60歳、女性は管理職が55歳、非管理職が50歳)の段階的な延長に加え、若年層の雇用機会の改善、高齢者の生活水準の向上といった内容が盛り込まれた。
このように、当面の経済運営方針については『総花的』な印象が拭えないものの、改革の方向性を堅持する方針が示されたことを受けて、中国人民銀行(中銀)は22日に7日物リバースレポ金利を1.80%から1.70%に10bp引き下げるとともに、公開市場操作の改善や実体経済を支援するためのカウンターシクリカル(反循環的、逆周期)調整を強化する方針を明らかにしている。さらに、新規、および既存融資全般の動向に影響を与える1年物LPR(最優遇貸出金利)と住宅ローン金利に影響を与える5年物LPRをともに10bp引き下げ、それぞれ3.35%、3.85%とする決定を行っており、全面的な金融緩和に舵を切る方針を示している。このところの中国経済を巡っては、内需の弱さが景気の足かせになるとともに、不動産市況の低迷による資産デフレがディスインフレ圧力を招いて本格的なデフレ圧力に発展する懸念が高まっており、金融市場においては景気下支えに向けた金融緩和をはじめとする政策対応を期待する向きが強まっていた。他方、ここ数年の国際金融市場においては米ドル高圧力が強まるなかで人民元安が進行しており、昨年は米ドル建で換算したGDPが29年ぶりの減少に転じるなど世界経済における中国経済の存在感低下を招いたため、当局は人民元安に繋がり得る金融緩和に及び腰となる展開が続いてきた。こうしたなか、足下では米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施が期待されるとともに、米ドル高圧力が後退するなど人民元相場を取り巻く環境に変化の兆しが出ている。さらに、今年4-6月の実質GDP成長率は前年比+4.7%に鈍化しており、前期比年率ベースの成長率も+2.8%と頭打ちの様相を強める動きが確認されるなか(注2)、3中全会において今年の経済成長率目標(5%前後)の達成という方針が確認されたことも金融緩和を後押ししたと考えられる。ただし、今回の利下げ幅は10bpと小幅に留められており、景気下支えを図りたいとの当局の思惑はうかがえる一方、3中全会では共同富裕の実現に向けた方針があらためて確認されており、不動産市況の高騰など関連セクターの暴走を抑えたいとの思惑も透けてみえる。昨年末時点における不動産在庫の規模は年間販売数量の6年以上に上る水準に達していると試算されるなど、在庫解消に向けた取り組みは一足飛びに進むとは見通しにくい一方、当局が目指す低所得者向け住宅の拡大は市況のさらなる低下を招くとともに、多数の不動産を担保として抱える銀行をはじめとする金融セクターのリスク要因となることも懸念されることを勘案すれば、今回の利下げによる実体経済の押し上げ効果は限定的なものに留まると見込まれる。金融市場は近く開催が予定される党中央政治局会議において財政出動に向けた方針が示されるとの期待を高めているものの、中国経済が習近平指導部の推進する中国式現代化という欧米などと異なる成長モデルを模索する姿勢をみせるなかで金融市場が抱く『べき論』に沿った方策に動くとは見通しにくい。その意味では、今後も政策運営は小出しの対応が続く可能性は高いと見込まれるほか、金融市場は期待と失望を繰り返す展開が続くものと予想される。


注1 7月19日付レポート「中国・3中全会、習近平氏が掲げる「中国式現代化」の加速を推進」
注2 7月16日付レポート「中国経済を巡る問題は3中全会で解消されるのか?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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阿原 健一郎

