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2024.12.19
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フィリピン中銀、3回連続利下げも、先行きは利下げトーンを幾分抑制
~周辺国と比較してハト派度合いが強く、中銀はペソ安警戒もペソ相場は上値の重い展開が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピン中銀は19日の定例会合で3会合連続の利下げにより、政策金利を5.75%とする決定を行った。足下のインフレ率は中銀目標の域内で推移しており、景気もインフレ鈍化を受けた内需の堅調さをけん引役に底入れする動きをみせる。他方、国際金融市場での米ドル高圧力を受けて通貨ペソ相場は調整の動きを強めている。周辺国では米ドル高に伴う自国通貨安を受けて利下げに二の足を踏む動きがみられるが、フィリピン中銀はそうした動きと一線を画している。その背景には、政府が成長率目標の実現を優先しており、中銀もそれに追随している可能性が考えられる。今回の会合で中銀は利下げを決定する一方、先行きの物価について目標域に収まるとの見方を示しつつ、上振れリスクを警戒する姿勢をみせる。また。先行きの政策運営も、これまでに比べてハト派度合いを後退させつつ、自主的に緩和姿勢を維持する考えをみせる。ただし、周辺国に比べてハト派度合いが突出するなかでペソ相場は上値が抑えられる展開が続こう。
フィリピン中央銀行は、19日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である翌日物リバースレポ金利を3会合連続で25bp引き下げて5.75%とする決定を行った。このところのインフレ率は中銀が定めるインフレ目標(2~4%)の範囲内で推移している上、マルコス政権が実施しているコメを対象とする輸入関税引き下げに加え、国際原油価格の調整の動きも重なる形で生活必需品を中心に物価上昇圧力が抑えられる展開が続いている。よって、中銀は8月にコロナ禍後初の利下げに動くとともに、10月の前回会合でも2会合連続の利下げを決定するなど、景気下支えに注力する姿勢を強めている。他方、足下のインフレ率は昨年頭打ちの動きを強めた反動で底入れしているほか、頭打ちしてきたコアインフレ率も底打ちに転じるなど、物価を巡る状況に変化の兆しが出ている。このところのインフレ鈍化による実質購買力の押し上げや海外からの移民送金の堅調な流入が続いていることも追い風に、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+6.87%と4四半期ぶりの高い伸びとなるなど、内需をけん引役に足下の景気は底入れの動きを強めている様子がうかがえる(注1)。他方、このところの国際金融市場においては米ドル高の動きが再燃するとともに、足下においては米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高圧力が一段と強まる動きがみられ、その結果として多くの新興国通貨は調整圧力に直面する事態となっている。こうしたなか、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル安を理由にコロナ禍後初の利下げに動いた国々のなかには、一転して自国通貨安圧力が強まる事態に直面するなかで追加利下げを踏みとどまる動きが広がりをみせている。しかし、フィリピン中銀はそうした状況にも拘らず10月の定例会合で2会合連続の利下げを決定するとともに、先行きも一段の利下げが可能との見方を示すなど『ハト派』姿勢を強める動きをみせた(注2)。このように中銀がハト派姿勢を強めていることに加え、このところのフィリピン政界においてはマルコス家(現大統領)とドゥテルテ家(前大統領と現副大統領)との関係悪化が政局の混乱を招くとの懸念が高まっていることも重なり、折からの米ドル高の動きも相俟って通貨ペソ相場は調整の動きを強めるなど、輸入物価を通じたインフレ圧力が強まることが懸念される事態に直面している。こうした状況ではあるものの、中銀は景気下支えを重視して一段の利下げに動いた格好であり、その背景に政府が経済成長率目標の実現を優先する姿勢を強めていることが考えられる。政府は今月初めに最新の経済見通しを公表しており、国内外における不確実性を踏まえて今年の成長率見通しを+6.0~6.5%と従来見通し(+6~7%)から上限を下方修正しており、来年も+6~8%と従来見通し(+6.5~7.5%)から下限を下方修正するなど厳しい状況に直面しているとの認識を示している。よって、足下のインフレが中銀目標の域内で推移するなか、経済成長率目標の実現を後押しすべく一段の金融緩和に動いたものと捉えられる。会合後に公表した声明文では、物価動向について「目標域内での推移が見込まれ、インフレ期待も固定化されている」としつつ「物価見通しを巡るリスクは交通運賃や電気料金を理由に上向きに傾いている」として、リスク調整後のインフレ見通しを「来年は+3.4%」と前回会合時点(+3.3%)からわずかに上方修正している。そして、実体経済について「内需の堅調さを受けて景気も堅調さが見込まれるが、外部環境を巡る下振れリスクが具現化しつつあるなど幾分下押し圧力がくすぶる」としっつ、「幾分抑制的な政策を後退させつつ、物価の上振れリスクを注視する」として、物価見通しを「来年は+3.3%、再来年は+3.5%」と前回会合時点(来年は+3.2%、再来年は+3.4%)からわずかに上方している。その上で、先行きの政策運営について「緩和シフトを維持しつつ、インフレの上振れリスク、とりわけ地政学リスクを巡る要因を注視する」とした上で、従来からの「持続可能な経済成長と雇用に資する物価安定の実現に向けて慎重な緩和サイクルを維持する」との考えを示している。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のレモロナ総裁は、先行きの政策運営について「現時点で100bpの利下げはやり過ぎ」として「緩和シフト姿勢を維持するが、来年は100bpの利下げは行わないであろう」と述べるなど、10月の前回会合時点に比べて先行きの利下げ幅を縮小させた格好である。その上で、ペソ相場について「特定の水準を目標としている訳ではない」とした上で、「為替変動に伴う輸入物価への影響を警戒しているが、ペソ安による物価への影響は小幅である」としつつ「物価動向に絶対的な確信がある訳ではなく、インフレの再燃を警戒している」とした。ただし、「驚くべきデータが出ない限りは緩和を続ける」ほか、「データをみているのであり、米国のデータをみている訳ではない」と述べるなど、あくまで主体的な政策運営を目指す考えを示している。そして、「成長率目標は実現可能だが、目標域の下限に留まるだろう」として過度な緩和による景気下支えには慎重な姿勢を維持する考えを滲ませた。とはいえ、周辺国が米ドル高に伴う自国通貨安を受けて利下げに二の足を踏む姿勢をみせるなか、フィリピン中銀のハト派姿勢は突出している感があるなか、当面のペソ相場は政局を巡る不透明感の影響も重なる形で下値を探りやすい展開となることは避けられないと予想する。


注1 11月7日付レポート「フィリピン景気は引き続き家計消費にけん引される展開」
注2 10月17日付レポート「フィリピン中銀、ペソ安再燃にも拘らず一段の利下げにまい進」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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