インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン景気は引き続き家計消費にけん引される展開

~インフレ鈍化や移民送金が家計消費をけん引も、外需の不透明感や資本蓄積の乏しさに課題~

西濵 徹

要旨
  • フィリピンではここ数年の悩みの種であったインフレが頭打ちし、足下では中銀目標の下限近傍で推移している。中銀は8月にコロナ禍後初の利下げに動き、先月も2会合連続の利下げを行うなど緩和姿勢を強めている。フィリピン経済はASEAN内でも内需依存度が高く、インフレ鈍化と利下げが景気の追い風になることが期待され、7-9月の実質GDP成長率は前年比+5.2%と鈍化するも、前期比年率は+6.87%と加速するなど底入れが確認されている。家計消費は旺盛な動きをみせるが、南シナ海問題を巡る対立や中国の景気減速が外需の重石となる展開が続く。資本蓄積も力強さを欠くなかで家計消費への依存を強めている。他方、在庫の積み上がりや農林漁業関連の生産減による食料インフレ、ペソ安再燃の懸念もくすぶる政府は成長率目標を6~7%とするが、景気を巡る好悪材料が混在するなかでそのハードルは高いであろう。

フィリピン経済を巡っては、ここ数年の『悩みの種』となってきたインフレが頭打ちの動きを強めるとともに、マルコス政権が物価対策を目的に実施したコメに対する輸入関税引き下げ策の効果も重なり、足下のインフレ率は中銀目標の下限近傍で推移するなど落ち着きを取り戻す動きをみせている。他方、国際金融市場においては長らく米ドル高圧力がくすぶるとともに、こうした動きを反映して通貨ペソ相場が調整して輸入インフレが懸念される展開が続いてきたものの、米FRB(連邦準備制度理事会)が利下げに舵を切るなど一転して米ドル安が進んでペソ相場を取り巻く環境が変化する動きがみられた。こうした環境変化も追い風に、中銀は8月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動いたほか(注1)、その後は米ドル安が一巡して米ドル高が再燃する動きがみられるものの、上述のようにインフレが落ち着いた推移をみせていることを追い風に先月の定例会合でも2会合連続の利下げに動いている(注2)。フィリピン経済は構造面で家計消費をはじめとする内需が成長のけん引役となるなか、こうしたインフレ鎮静化に加えて利下げによる債務負担の軽減の動きは内需の押し上げに繋がることが期待される。なお、昨年末以降のフィリピン景気は頭打ちの動きを強める展開が続いてきたなか、7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+5.2%と前期(同+6.4%(改定値))から伸びが鈍化して2四半期ぶりに5%台の伸びとなるなど一見すると頭打ちの動きを強めているようにみえる。しかし、前期比年率ベースの成長率は+6.87%と前期(同+2.65%)から拡大ペースが加速するとともに、3四半期ぶりに6%を上回る伸びとなるなど底入れの動きを強めるなど堅調な推移をみせていると捉えられる。インフレ鈍化による実質購買力の押し上げに加え、米国経済の堅調さを追い風に移民送金は底堅い流入が続いている上、米ドル高を受けたペソ安を反映してペソ建で換算値が押し上げられていることも重なり、家計消費は3四半期ぶりの拡大に転じるとともに底入れの動きを強めるなど、引き続き景気をけん引している。一方、フィリピン経済はASEAN(東南アジア諸国連合)内でもGDPに対する輸出比率が高く、外需に占める中国依存度も比較的高いものの、マルコス政権は南シナ海問題で中国との対立が深刻化するなかで中国が『嫌がらせ』の動きを強めているほか、中国の景気減速も重なる形で輸出は下振れしている。さらに、金利高の長期化や外需を巡る不透明感の高まりが企業部門の設備投資意欲の重石となるとともに、公共投資の進捗鈍化の動きも重なり固定資本投資は力強さを欠く推移をみせており、資本蓄積が喫緊の課題となる状況は続いている。そして、足下では在庫投資による成長率寄与度が前年比ベースで+1.1pt、前期比年率ベースで+0.91ptとなるなど在庫の積み上がりの動きが景気を押し上げる動きが確認されており、先行きはこの調整の動きが景気の足かせとなることに留意する必要がある。また、外需が低迷する一方で旺盛な家計消費による輸入拡大を受けて、純輸出の成長率寄与度は前年比ベースで▲2.9pt、前期比年率ベースで▲10.63ptとともに大幅マイナスとなるなど、景気の足を引っ張る一因になっている。分野別の生産動向を巡っても、旺盛な家計消費を反映して幅広くサービス業の生産は堅調な推移をみせる一方、外需の低迷は製造業や鉱業部門の生産の重石となっているほか、異常気象の頻発を理由に農林漁業部門の生産は一段と下振れする動きをみせており、先行きは供給懸念が食料インフレを招く可能性もくすぶる。さらに、足下の国際金融市場では米ドル高の動きが再燃しており、中銀が利下げに前のめりの姿勢をみせていることも追い風にペソ相場は調整の動きを強めており、米ドル安によるペソ高に転じる以前の水準となるなど輸入インフレが再び意識される懸念も高まっている。そして、ドゥテルテ前政権による『麻薬戦争』を巡って政局の不透明感が高まる懸念もあり(注3)、金融政策を巡る中銀の対応は変更を余儀なくされる可能性も予想される。フィリピン政府は今年の経済成長率目標を+6~7%としているが、9月までの累計ベースの成長率は+5.8%とこの下限を下回る水準に留まり、景気の先行きには好悪双方の材料が混在する状況を勘案すれば、目標実現のハードルは高いのが実情であろう。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 実質GDP成長率(前期比年率)の推移
図2 実質GDP成長率(前期比年率)の推移

図3 ペソ相場(対ドル)の推移
図3 ペソ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ