インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、ルピア相場の安定を主眼に置かざるを得ず

~ペリー総裁は追加利下げを諦めていないが、当面はルピア安定へ「体力勝負」の展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は18日の定例会合で政策金利を3会合連続で据え置く決定を行った。足下のインフレは中銀目標の下限近傍で推移するなど落ち着く一方、金利高の長期化が景気の足かせとなる兆しもみられる。中銀は9月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動き、追加利下げに含みを持たせる姿勢をみせた。しかし、その後は米ドル高の再燃を受けて通貨ルピア相場は調整の動きを強めており、利下げを踏みとどまらざるを得ない状況に直面している。さらに、足下では「肥満内閣」と揶揄されるプラボウォ政権の財政運営への懸念、中銀を巡るスキャンダル噴出の動きもルピア相場の重石となっている。こうしたなか、中銀は金融政策を巡ってルピア相場の安定を重視する考えを示すなど難しい対応を迫られている様子がうかがえる。同行のペリー総裁は追加利下げの可能性を諦めていない様子をみせるが、当面はルピア相場の安定に傾注せざるを得ず、大規模介入を含めて政策総動員を図る模様である。足下の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性は充分と試算されるが、仮に長期に亘って大規模介入を迫られれば状況が変わるリスクを孕んでいる。その意味では、当面のインドネシアの政策対応は「体力勝負」の展開が続くであろう。

インドネシア銀行(中銀)は、18日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を3会合連続で6.00%に据え置く決定を行っている。足下のインフレ率を巡っては、昨年に世界最大のコメ輸出国であるインドが白米の禁輸に動いたことなどに伴いアジアのコメ価格が上振れするなど食料インフレの動きが顕在化したほか、中東情勢を巡る不透明感を理由とする国際原油価格の底入れによるエネルギー価格の上昇など、生活必需品を中心とする物価上昇を受けて加速した反動により頭打ちの動きを強めている。よって、11月のインフレ率は前年比+1.55%と中銀目標(2.5±1%)の下限近傍で推移するなど落ち着きを取り戻していると捉えられる。一方、足下の景気を巡っては、インフレ鈍化にも拘らず、中銀は通貨ルピア相場の調整を警戒して引き締め姿勢を維持せざるを得ない展開が続くなか、7-9月の実質GDP成長率は前年比+4.95%と4四半期ぶりに5%を下回る伸びとなるとともに、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースでもその勢いに陰りが出る兆しがうかがえる(注1)。こうしたなか、中銀は9月の定例会合においてコロナ禍後初の利下げに動くとともに、さらなる利下げに含みを持たせる考えをみせたものの、その後は米ドル高が再燃してルピア安が進行したことを受けて、利下げを踏みとどまらざるを得ない展開が続いている。さらに、10月に発足したプラボウォ政権を巡っては、閣僚数が大幅に拡大するとともに、バラ撒き志向の強い経済政策も重なる形で『肥満内閣』と揶揄する向きもみられるなど(注2)、その財政運営に対する懸念が高まる動きもみられる。こうしたことも影響して、足下のルピアの対ドル相場は米大統領選でのトランプ氏勝利を受けた米ドル高圧力も相俟って調整の動きを加速させている。上述のように足下のインフレ率は中銀目標の下限近傍で推移しているものの、ルピア安に伴う輸入インフレ圧力の再燃が懸念されるなか、コアインフレ率は中銀目標域内で推移するも緩やかに加速するなど底入れの動きが確認されている。さらに、中銀を巡っては、中銀をはじめとする金融規制当局が運営するCSR(企業の社会的責任)基金を舞台にした資金不正疑惑が取り沙汰されるなど新たな問題に直面している。汚職撲滅委員会は中銀がCSR基金の資金の一部を複数の財団に不正に寄付した疑いで調査しており、17日には中銀本部のほか、ペリー総裁の事務所も捜索される事態に発展するなど、その行方に注目が集まっている。

図表
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こうしたなかで中銀は政策金利を据え置く決定を行い、会合後に公表した声明文では、今回の決定について「米国の政策運営や世界的な地政学リスクの高まりなどに伴う世界経済の不確実性を巡ってルピア相場の安定を図ることを主眼に置いたもの」との見方を示している。その上で、世界経済について「金融市場の不確実性の高まりを受けて成長も鈍化している」とした上で、「国際金融市場の不確実性の高まりが同国を含む新興国経済に与える悪影響を軽減すべく強力な政策対応が必要である」との見方を示す。一方で同国経済については「内需をけん引役に引き続き安定している」とした上で、経済成長率は「今年は+4.7~5.5%、来年は+4.8~5.6%になると見込まれる」としつつ「需給双方で成長を促す政策支援が必要であり、中銀はマクロプルーデンス政策の最適化とデジタル化を推進し、政府は継続的に構造改革を推進する必要がある」との認識を示す。また、対外収支について「堅調な輸出と資本流入によって下支えされる」として経常赤字のGDP比は「今年は▲0.9~▲0.1%、来年も▲1.3~▲0.5%に収まる」との見通しを示すとともに、ルピア相場について「安定の維持を目指している」とした上で「対ドル相場の下落幅は台湾ドル、フィリピンペソ、韓国ウォンに比べて小幅に留まっている」、「先行きは中銀のコミットメントや魅力的な利回りの高さ、低インフレ、良好な景気見通しに支えられる形で安定が見込まれるほか、資金流入促進に向けた政策対応を強化する」としている。そして、物価動向についても「引き続き目標域内での推移が見込まれ、今年、来年ともに目標域での推移を実現すべく金融政策を強化するとともに、景気下支えに向けた取り組みも引き続き取り組む」との考えを示している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、今回の決定について「インフレを目標域に収める目標と一致したもの」としつつ「ルピア相場の安定を主眼に置いている」とした上で、「追加利下げの可能性を探るべく、ルピア相場の動向やインフレ期待、国際金融市場の動向を注視している」としている。その上で、今回の会合では「米トランプ次期政権の政策運営による影響についても議論した」として「追加関税による影響を受ける国は拡大する」、「インドネシアは追加関税の標的とはならないだろうが、関税の規模は大きくなると見込まれる」、「中国の報復措置によって国際金融市場を巡る不確実性は一段と悪化が見込まれる」との認識を示している。そして、米FRBの政策運営について「現状は見通しを変えないが『タカ派』度合いは強まる」、「来年の利下げ時期は後ろ倒しが見込まれる」、「来年の米長期金利は高止まりが見込まれる」とした上で、「不確実性を理由にルピア相場の安定に注力せざるを得ない」との考えを示している。また、「現時点で追加利下げのタイミングは明言できないが、利下げ余地を探ることは続ける」としつつ、「ルピア相場の安定に向けては大規模介入のほか、SRBI(中銀が保有する国債を担保にしたルピア建短期債)の活用を図る」として、当面は為替介入に頼らざるを得ない展開も予想される。11月末時点における外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして、「適正水準(100~150%)」の下限近傍と試算されるものの、仮に長期に亘って大規模介入を迫られれば状況が急速に悪化する可能性もくすぶる。その意味では、当面のインドネシア政策対応を巡っては『体力勝負』の展開が続くことは避けられないであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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