インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インド準備銀総裁、政府との関係重視で2代連続の官僚出身者に

~次期総裁は財務長官のマルホトラ氏に、金融政策の行方はどうなるか、ルピー相場の行方も要注目~

西濵 徹

要旨
  • インド政府は9日、インド準備銀行のダス総裁の後任に財務次官のマルホトラ氏を指名する方針を明らかにした。ダス氏の下で中銀は物価安定と景気下支えのバランスを取る対応が取られており、任期の再延長も取り沙汰されていた。しかし、ダス氏は任期満了直前で突然の退任となった。足下のインドは物価高を受けて景気は頭打ちするなか、今月6日の定例会合で中銀は政策金利を据え置くも、景気下支えへ現金準備率を引き下げる難しい対応を迫られている。こうしたなか、マルホトラ次期総裁に加え、来年2月の次回会合に向けては政策委員人事が大きく変更されることを受けて、金融市場では金融緩和が意識されてルピー安圧力が強まっており、当局は為替介入に動いている模様である。仮にインフレ抑制に手間取れば当局は為替介入を巡って「防戦状態」が続く可能性に留意する必要があるなど、難しい対応を迫られる。

インド政府は9日、本日(10日)に任期満了を迎えるインド準備銀行(中銀)のダス総裁の後任として、財務次官(歳入担当)を務めるマルホトラ氏を指名する方針を明らかにした。現職のダス氏も総裁就任前にモディ政権下でマルホトラ氏と同じ財務長官(歳入担当)のほか、財務次官(経済担当)などを歴任しており、2代連続で官僚出身者が中銀総裁に就任することとなる。ダス氏の総裁就任に当たっては、前々任のラジャン氏、前任のパテル氏と2代連続でモディ政権との間で中銀の独立性を巡る関係悪化を理由に事実上の退任に追い込まれたため、政府と中銀の双方に知己があるダス氏に関係修復を託した側面が大きいとされる(注1)。こうした経緯も影響して、ダス氏の下で中銀は物価安定と景気下支えのバランスを重視する対応を取ってきたほか、2021年12月には任期が延長されており、10日に任期は丸6年に達するなど、ここ数十年の中銀総裁としては任期が最長となっていた。さらに、金融市場においてはダス氏が3期目入りして過去最長の総裁任期となる可能性も取り沙汰されていたものの、その直前のタイミングで突然退任することとなった。マルホトラ次期総裁の任期は3年であり、明日(11日)に正式に就任することとなるが、足下のインド経済は異常気象による食料インフレを中心とするインフレが直撃しており、7-9月の実質GDP成長率は前年比+5.4%と7四半期ぶりの低い伸びとなるなど、頭打ちの動きとなっている(注2)。そして、インフレが直撃しているなか、中銀は今月6日の定例会合において政策金利を据え置く一方、景気下支えに向けて現金準備率の段階的な引き下げを決定し、金融市場への流動性供給を拡大させる方針を示すなど、物価安定と景気下支えとのバランスを取る難しい対応を迫られている(注3)。こうしたタイミングで中銀総裁が急遽後退となったことを受けて、金融市場においてはマルホトラ次期総裁の下での政策運営に対する見方が交錯する事態となっている。発表資料に拠れば、マルホトラ氏は米プリンストン大学において公共政策修士号を取得した後、長年に亘って公共政策分野で経験を積んでおり、同国北部のラジャスタン政府のほか、電力省次官、電力関連の国営ノンバンクREC社の会長兼CEO、財務省金融サービス局長などを歴任しており、電力、金融、税制などの分野が長いとされる。その一方、金融政策についての知見はほぼ知られていないものの、現職のダス氏と同様に長年に亘って官僚として政府の政策立案などに携わってきたこともあり、現実的なアプローチによる政策運営を維持する可能性が高いと見込まれる。なお、金融政策委員会のメンバーを巡っては、今年10月に外部委員3人が交代するとともに、新たに加わったシン委員が今月の定例会合で利下げを主張したほか、来年1月半ばにはパトラ副総裁(金融政策担当)も任期満了を迎えるなかで後任人事の調整を進めているとされ、来年2月5~7日に開催予定の次回会合に向けて陣容が大きく変化することも予想される。こうしたことも影響して、足下のルピーの対ドル相場は上述のように中銀が景気下支えを志向して流動性拡大に動く姿勢をみせたことも相俟って調整の動きを強めて最安値を更新しており、当局は為替介入に動いている模様である。なお、IMF(国際通貨基金)は昨年の4条協議において、中銀が一昨年末以降断続的に為替介入に動いていると指摘しているものの(注4)、足下の外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性は充分と見做される水準を維持していると試算される状況にある。よって、先行きも中銀は動揺の対応を続ける可能性は高いと見込まれるものの、インフレ鎮静化の動きが遅れれば『防戦状態』が続く可能性に留意する必要がある。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 ルピー相場(対ドル)の推移
図2 ルピー相場(対ドル)の推移

図3 外貨準備高とARA(適正水準評価)の推移
図3 外貨準備高とARA(適正水準評価)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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