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2024.11.06
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トランプ氏勝利で米国経済はどうなる?
~今後の経済政策を巡るQ&A(概要編)~
前田 和馬
- 目次
11月5日に投開票を迎えた2024年米大統領選において、6日、共和党候補のトランプ氏の勝利が確定した。本稿では、今後の米国における経済政策、及びそれによる経済的な影響に関して、Q&A形式で概観する。なお、個別政策の詳細に関しては後日公表の「詳細編」で解説予定である。
(本稿は日本時間11月6日19:55時点におけるAP通信の集計値を基にしている)
Q. 大統領選及び議会選の結果はどうなったか?
A. 現時点において、トランプ氏が選挙人538人のうち277人を獲得し、大統領選出に必要な過半数である270人に到達した。激戦州の結果を見ると、トランプ氏がノースカロライナ(選挙人:16人)、ジョージア(16人)、ペンシルベニア(19人)、ウィスコンシン(10人)で勝利したほか、現時点において、ミシガン(15人)、アリゾナ(11人)、ネバダ(6人)で優勢な状況にある。また、アイオワでは直前の世論調査でハリス氏優勢の可能性が伝えられ注目を浴びた一方、結果的には大きなサプライズがなく、2016年から3回連続でトランプ氏が勝利した。
一方、同時に実施された議会選においては、上院では事前の想定通り共和党が51議席を獲得し、第一党となることを確実にした(共和党:51、民主党:42、未定:7)。上院は2年毎に3分の1議席が改選される一方、今回は民主党に改選議席が集中していたため、当初より共和党有利とみられていた。また、下院に関しては共和党が優勢とみられているが、確定議席は共和党が197、民主党が179、未定が59と依然流動的な要素が残る。
Q. トランプ氏の基本的な政策方針は?
A. トランプ氏の経済政策の柱は「減税」である。超党派の「責任ある連邦予算委員会(CRPB)」の試算に基づくと、その減税総額は今後10年間で10.4兆ドル(GDP比:2.8%)に達する。具体的には2025年末に失効するトランプ減税の延長・修正(トランプ前政権が2017年12月に成立させた「減税・雇用法」;GDP比:1.5%)、残業代に対する免税(同、0.5%)、年金等の社会保障給付に対する免税(0.4%)など、広範な減税策を掲げる。また、既存政策の継続であるトランプ減税を除いた場合においても、新規の減税規模は5.1兆ドル(1.4%)と試算される。なお、トランプ氏はこうした減税の主な財源として後述の関税策等を指摘するものの、歳入増は総額3.7兆ドル(1.0%)と減税規模を下回る。
一方、先行きの経済動向を占ううえでは、トランプ氏のキャッチフレーズである「MAGA(Make America Great Again)」に関連する政策も重要となる。具体的には通商政策として「対中関税60%」と「それ以外の全輸入品に対する一律10%関税」、及び移民政策として「合法・不法を問わない移民流入の抑制」が挙げられる。トランプ氏は保護貿易政策で国内への製造業回帰を促すほか、移民抑制策を通じて、移民に奪われた仕事や政府予算をアメリカ国民へ取り戻すと主張する。しかし、保護貿易政策は輸入物価の上昇とこれによる消費減少、移民抑制は接客業や建設業における人手不足の深刻化を招くとの見方が多い。
Q. これらの政策をいつ、どのように実現するのか?
A. 選挙キャンペーン中の公約は「有権者へのアピール」の要素が強く、大統領の意向のみで全てを実行に移せるわけではない。米大統領には法案提出や予算策定の権限はなく(成立法案への拒否権はある)、一部の関税策を除き、多くの公約は議会での可決が必要となる。なお、大統領選と同時に実施された議会選では共和党が上院を制したほか、下院でも優勢とみられている。とはいえ、仮に共和党が制する場合においても、両党の議席数の差が僅差であれば、一部の共和党議員の反対によって政策の実現性が不透明となる。また、下院を民主党が支配する場合、トランプ氏の政策実現に向けた大きな障害となるだろう。
減税策を巡って、トランプ氏は2025年中に減税予算を議会で成立させ、2026年以降の実現を目指すと考えられる(関連法案が成立しなければ、既存のトランプ減税は25年末に自動的に失効)。前述したように、上下院を共和党が支配してもその議席数の差が僅差の場合、財政再建を志向する共和党議員は大幅な減税に慎重な姿勢を示すかもしれない。実際、トランプ氏が2016年の選挙戦で主張した減税策は総額4.5兆ドルと試算された一方、実現した政策の規模は2.3兆ドルと半分程度に留まった(政権前半は上下院とも共和党が第一党)。
通商政策を巡って、対中関税の引き上げは議会審議を経ず、大統領令で実現できると考えられる。既存の通商法では「安全保障上の脅威の除去」や「不公正な貿易慣行の是正」を理由に、追加関税の発動権限が大統領へ付与されており(通商法232条や301条)、実際にトランプ前政権はこれを活用した。加えて、通商法122条に基づくと、10%の一律関税も最長150日間は大統領権限で実現可能とみられている(恒久的な一律関税を実現するためには議会での関連法案の成立が必要となる見込み)。トランプ氏は一部品目に対する対中関税策を早期に実現するリスクがあるものの、経済的な影響が大きい広範な品目への対中関税の大幅引き上げ、及び一律関税にどの程度本気であるかは不透明だ。これらの過激な保護主義政策は米国の輸出拡大、及び海外企業による米国への投資(工場建設)を促す交渉材料に過ぎない可能性もある。なお、トランプ氏は2016年の選挙戦にて対中関税45%を主張した一方、実際の退任時の対中関税率は20%程度に留まった。
他方、移民政策を巡っては、大統領権限で合法的な移民へのビザ発給が制限される可能性が高い一方、既に米国に滞在する不法移民を強制送還するには高いハードルがある。送還に必要な予算を割り当てる「議会の壁」のほか、非人道的な行為を制限する「司法の壁」、民主党地盤の都市の警察などが協力しない「地方自治の壁」があるためだ。不法移民の強制送還は労働力不足を通じた経済的な影響が大きいと見込まれるものの、現時点においてその実現性は不透明だ。

Q. これらの政策による米国経済への影響は?
A. トランプ氏の掲げる政策が具体的にどのようなかたちで実現するのかは非常に不透明であり、予想される米国経済の見通しも振れ幅が大きい。各政策が及ぼす米国のGDP成長率への短期的な影響は、各種の新規減税策が+0.5~1.0%pt程度のプラスと見込まれる一方、関税引き上げ策は-0.4%pt、大幅な移民抑制は-0.4~0.8%ptの押し下げ効果を持つと概算される。減税策の実現は2026年以降であり、それ以前にトランプ氏が関税引き上げに踏み切る場合、景気への負の影響が目立ちやすい。一方、関税引き上げや移民抑制に対して実際にはあまり踏み込まない場合、減税策による景気刺激策のプラスの影響が勝ることが期待される。
また、これらの政策は全てインフレを刺激すると考えられる。減税策は消費需要を刺激するほか、関税は輸入物価の上昇、移民抑制は労働力不足による賃金加速を招く。これらの政策によりインフレが再燃する場合、FRBの利下げサイクルはより緩やかになり、住宅投資や設備投資の回復が阻害されるだろう。ただし、関税引き上げは相手国の報復措置による輸出減少、移民抑制は人口成長率の鈍化を通じて国内景気を悪化させる可能性があり、この際にはインフレへの影響が一部相殺されるなど、実際にどの程度のインフレ加速を招くかには不確実性が残る。
Q. それでは米国の金融市場への影響は?
A. 2016年にトランプ氏が勝利した際には減税期待を背景に株価が右肩上がりに推移した。実際、トランプ氏が関税策を実行に移したのは2018年以降であり、政権当初は保護貿易政策は抑制されていたといえる。今回に関しても、株価は減税期待からプラスの影響を見込む向きが多い。また、インフレ再燃と財政収支の悪化から長期金利が上昇する可能性があり、これは日米金利差の拡大を通じてドル高円安を招くと予想される。 とはいえ、2016年のトランプラリーとの相違点を踏まえると、こうしたシナリオに反して、株価上昇が長続きしないリスクにも留意が必要だ。具体的には、①2016年大統領選におけるサプライズ的な勝利と異なり、今回は金融市場がトランプ氏勝利を一定程度織り込んでいた可能性、②トランプ減税はあくまで既存政策の延長であり、新規の大規模減税は議会構成を踏まえると実現が不透明な点、③第一次政権よりも共和党穏健派による政権への関与が少なく、関税引き上げを含む過激な政策に歯止めがかからないリスク、などが挙げられる。
Q. 日本経済への影響は?
A. トリプルレッドによる減税を背景とした米国経済の加速は、輸出拡大を通じて日本経済にもプラスの波及効果をもたらすと期待される。実際、6日の東京市場ではトランプ氏勝利への織り込みが進み、ドル高円安が加速したほか、日経平均が前日比+1,005円(+2.6%)と大幅な上昇を示した。一方、トランプ氏が保護貿易政策を先鋭化させる場合、自動車産業を中心に日本の輸出産業への影響が懸念される。最終的な日本経済への影響はこうしたプラスとマイナスの綱引きで決まるものの、現時点においては流動的な要素が強く、日本経済への影響を巡る見通しの不確実性は非常に高い。
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 前田 和馬
まえだ かずま
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析
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