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2024.10.03
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フィリピン、マルコス家とドゥテルテ家の関係、本当のところは?
~ドゥテルテ氏によるマルコス氏批判はトーンダウンも、その「本心」はよく分からないのが実情~
西濵 徹
- 要旨
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- 一昨年のフィリピン大統領選では、マルコス氏とサラ氏がタッグを組み、蜜月ぶりを演出して圧勝した。しかし、当選直後から両者の主導権争いが激化したほか、マルコス氏周辺による改憲を目指す動きや「新フィリピン」運動を機に、サラ氏は兼務した教育相を辞任するなど両者の間にすきま風が吹いた。さらに、ドゥテルテ前大統領と関係が近い新興宗教創始者の逮捕を機にドゥテルテ氏とサラ氏はマルコス政権への批判を一段と強めるなど両家の亀裂は決定的となった。ただし、先月末にドゥテルテ氏は突如マルコス氏を評価する考えを示すとともに、サラ氏の次期大統領選への擁立を否定するなど批判のトーンを落とす一方、サラ氏は引き続き批判を続ける。ドゥテルテ氏へのICCの逮捕状執行を抑える戦略との見方もあり、その本心は分からない。ペソ相場は米ドル安を追い風に底入れするが、外部環境や政局に揺さぶられる展開は続こう。
一昨年に行われたフィリピンの大統領選では、長期独裁政権を敷いたマルコス元大統領の長男であるフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)氏が大統領候補に、ドゥテルテ前大統領の長女であるサラ・ドゥテルテ=カルピオ氏が副大統領候補となるタッグを組み、選挙戦においては『ユニチーム』というスローガンを掲げるなど、マルコス家とドゥテルテ家の蜜月を演出することにより圧勝を実現した。このように選挙戦においては両者の蜜月ぶりを示す動きがみられたものの、当選後には一転して両者(両家)がそれぞれ存在感を誇示するなど早くも主導権争いが表面化する動きがみられるなど、マルコス政権の「次」を意識する姿勢もみられた。さらに、マルコス大統領が南シナ海問題や麻薬対策などを巡って前政権の施策からの大転換を図る動きをみせており、このことにドゥテルテ前大統領がマルコス大統領を公然と批判する動きをみせるなど、蜜月ぶりが早くも瓦解することが懸念された。こうした懸念は、マルコス大統領の支持者や側近議員などが中心となる形で憲法改正を目指す動きを活発化させるとともに、「新フィリピン」と称する政治運動を立ち上げるなど、マルコス元大統領(父)が唱えた「新社会」運動の再燃を警戒してドゥテルテ氏やサラ氏が反発を強めたことで一段と鮮明になった(注1)。そして、マルコス家とドゥテルテ家の間に広がった確執を巡っては、サラ氏が6月に副大統領と兼務していた教育相を突如辞任するとともに、直後に行われたマルコス氏の施政方針演説を欠席したことで深刻化していることが明らかになった。その後も、来年に予定される中間選挙(上院選)にドゥテルテ氏とサラ氏の兄(パオロ下院議員)、弟(セバスチャン氏)の3人が出馬する意向を明らかにするなど、マルコス派との全面対決に挑む考えを示すなど両家の関係亀裂は鮮明になった。こうしたなか、ドゥテルテ家の地盤である同国南部ダバオ市にある新興宗教(イエス・キリストの王国)に対して強制捜査が行われ、その創設者であるキボロイ氏が児童虐待や人身売買などの容疑で逮捕されたことを機に両家の対立が一段と深刻化する事態となっている。キボロイ氏を巡っては、米国政府が同氏を性的人身売買の罪で起訴しており、米比間の犯罪人引き渡し条約に基づく措置と捉えられる一方、ドゥテルテ家と関係が深く、ドゥテルテ氏自身の宗教顧問を務めた経緯がある。よって、マルコス政権の対応を巡ってサラ氏やドゥテルテ氏は「権力の濫用」、「信教の自由に対する攻撃」などと強烈な批判を展開するとともに、政権に対する対抗心を鮮明にする考えをみせるなど両家の亀裂は決定的になったとみられた。しかし、ドゥテルテ氏は先月末に開催して自身の政治集会において、マルコス氏について「優秀だ」、「何の不安も抱いていない」と上述のようにマルコス氏への批判を展開してきた流れを一変させている。その上で、2028年の次期大統領選への出馬が取り沙汰されているサラ氏を巡って「大統領は1家族から1人出れば十分」と述べ、大統領候補への擁立に反対する考えをみせるなど、それまでの考えを大きく転換させる姿勢をみせている。他方、サラ氏はマルコス氏について、将来的な選挙協力の可能性を問われた際に「二度とない」との考えをみせるとともに、「友人でなく、話してもいない」と述べており、ドゥテルテ氏の本心を図りあぐねる一因になっている。なお、ドゥテルテ氏の動きを巡っては、ドゥテルテ前政権下で展開された『麻薬戦争』での容疑者に対する超法規的殺人に対して国際刑事裁判所(ICC)がドゥテルテ前大統領に対する逮捕状請求を模索しているとされるなか、マルコス政権がその執行を容認しかねないとの見方が広がっており、一定の妥協を示すことにより執行を抑えたいとの思惑が働いているとの見方もある。その意味では、ドゥテルテ氏の話を額面通りに受け取ることは難しい一方、来年5月の中間選挙まで残すところ半年強となるなど選挙戦の本格化が近付いているなかで関係修復が進んでいく可能性は低いのが実情であろう。このところのペソ相場を巡っては、米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ実施を受けた米ドル安の動きが底入れの動きを促しており、中銀はこの動きを好感して8月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動いている(注2)。その後も米ドル安の動きがペソ相場を押し上げる一方、他のアジア新興国においては中国の景気刺激策を好感する動きがみられるものの、南シナ海問題を巡って中国との対立が深刻化する同国にはその恩恵が及びにくくなる可能性があるほか、足下では中東情勢を巡る地政学リスクも重石となる動きがみられる。中銀は先行きも一段の利下げに動く可能性が見込まれるものの、ペソ相場については外部環境に晒されやすい状況にあるとともに、政治情勢にも揺さぶられる可能性があり、慎重な対応が求められる局面は変わっていない。

注1 1月29日付レポート「フィリピンを二分する懸念が高まっている憲法改正問題とは」
注2 8月15日付レポート「フィリピン中銀、インフレ加速もペソ安一服を追い風に利下げに舵」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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