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業況は小さな改善幅の見通し

~日銀短観2024年9月予測~

熊野 英生

要旨

10月1日に発表される日銀短観は、9月の大企業・製造業の業況判断DIが前回比+1ポイントの改善になると予想する。この間に進んだ円高の影響が注目される。円高効果は、プラスにもマイナスにも働くので、見極めづらい。もしも、7月31日の追加利上げが予想外のショックを企業マインドに与えているとすれば、次の追加利上げはもっと慎重に行われるだろう。

目次

改善幅は小幅か

10月1日に日銀短観9月調査が発表される。今後の金融政策の動向を占う上での重要指標である。

大企業・製造業の業況判断DIは、9月調査の予測値は、6月対比+1ポイントの14になる見通しだ(図表1)。景気拡大は、9月時点でも継続しているが、その改善ペースは弱いものだ。ロイター短観でも、7~9月にかけて一本調子では改善していない(図表2)。鉱工業生産指数をみても、年初から自動車の検査不正があり、生産活動は停滞し、9月時点でそこから完全には脱却できていない。同指数の予測指数でみても、8月に前月比2.2%増と上昇すると思えば、9月に同▲3.3%減と下げてしまう予想だ。

判断が分かれるのは、為替レートが7~9月と大きく円高方向に進んだ影響である。その作用は、原材料の値上がりを抑制して利益率を改善させる企業と、輸出価格の引き上げ圧力になって収益面で不利になる企業に分かれる。この変化は、前回6月調査まではなかった影響である。収益面では増益傾向だとしても、海外経済の減速などの下押し材料が徐々に表れてきている。

一方、大企業・非製造業の業況判断DIは6月対比で+2ポイントの改善になると見込まれる。7~9月にかけては、ボーナス増+定額減税といった所得面のプラス効果が働いた。6月調査では、訪日外国人消費に陰りが見えたが、訪日客数は6・7月とともに月間300万人を超えて過去最高水準である(4・5月は前月比減少していた)。8月は豪雨や台風上陸が長期化して、サービス業にマイナスだった効果も大きかったが、総体として非製造業は、業況改善を強めると予想される。

(図表1)日銀短観の予測値(2024年9月調査)
(図表1)日銀短観の予測値(2024年9月調査)

(図表2)大企業・製造業の業況判断DIの推移
(図表2)大企業・製造業の業況判断DIの推移

日銀は円高に注目する

7月31日の追加利上げは、為替・株式市場には予想外の大きなインパクトになった。その波紋は、まだ市場で消化し切れていない。内田真一副総裁は、市場が不安定な状況で利上げはしないと明言している。企業マインドに7月利上げがどのくらいのインパクトを与えたのかは、日銀も知りたがっているだろう。

事前には円安の輸入コスト増が、企業にも不満の種だった。しかし、追加利上げをしてみると、劇的な円高への修正で、企業にとって見えている景色が変わった可能性もある。円高効果は、現状、前述したように、プラスとマイナスの両効果がせめぎ合っていて、まだ結果はわからない。筆者は、明確にマイナスだったとはみていない。この評価は、日銀が次の追加利上げをするときの判断材料として間違いなく重視される。

もしも、筆者が感じているように、明確にマイナスではないとすれば、日銀は追加利上げを検討し始めるだろう。植田総裁も、為替変動に対する評価が、企業マインドにそれほどネガティブではなかったことに言及するだろう。

9月に入ってから、何人かの審議委員たちが、2025年度までの展望レポートのシナリオ通りであれば、実質金利で評価して、低すぎる政策金利水準の調整を進めていくと発言している(高田・中川・田村委員)。

とはいえ、9月27日の自民党総裁選挙を経て、次の首相が10月初に決まるとすれば、新体制の下で日銀は今まで以上に説明責任を求められるだろう。日銀短観の結果は、そのときの説明材料となる。

設備投資計画

すでに、日銀短観の設備投資計画は2022・23年度と力強い伸びを示している。2024年度も上方修正を継続する見通しである(図表3)。

特に、大企業・製造業は前回6月調査で2024年度の設備投資計画が18.4%(見込み)と劇的な伸び率になった。設備投資デフレーターが前年比3%台だったとしても、この伸び率の数字は実質値でも大きなものである。円安の下で、設備投資の国内回帰が進んでいることを暗示させる。

中小企業・製造業の設備投資計画も、2024年度の伸び率が6月調査で13.0%と飛躍的なものになった。企業規模が大企業だけに偏らず、中小企業に裾野を広げていることは歓迎すべき流れである。

(図表3)設備投資計画の推移
(図表3)設備投資計画の推移

2025年度までトレンドを維持できるのか?

日銀は、現在までの物価上昇トレンドが、賃上げを伴って好循環として定着するシナリオを描く。何人かの政策委員が前提にしている景気シナリオもこれと同じものだ。

しかし、民間エコノミストたちの中には懐疑的な意見もある。特に、物価上昇ペースは2%を安定的に上回るというにはまだ不安定だとみる。日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査では、2025年度のコアCPIは平均1.91%で、年度後半にかけて減速するという予想だ。2026年度は平均1.67%へと伸び率がさらに圧縮される。

日銀短観では、物価上昇の潜在的な圧力は、国内製商品の需給判断DIが一進一退である。販売価格DIは輸入物価(円ベース)の伸び率とよく似た動きをするが、8月以降の円高によって下押し圧力が強まっている。

正直なところ、現在の日銀のロジックで無難に追加利上げを進めていくことは難しいと感じられる。9月の日銀短観が、物価上昇率が高まるシナリオに向かい、かつ、為替レートの乱高下はそれほど深刻な影響をもたらしていないという結果になるかどうかを注目したい。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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