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2024.09.11
アジア経済
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実質金利は「ゼロ」が視野も、トルコリラが下げ止まらない背景は?
~やはり最後はエルドアン大統領の一挙手一投足に揺さぶられる状況は変わっていない~
西濵 徹
- 要旨
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- ここ数年のトルコでは、インフレにも拘らず低金利政策が志向されたことで、リラ安が進んでインフレが昂進する展開が続いた。しかし、昨年の選挙後に実施された内閣改造でエルドアン大統領は経済チームに正統的な政策を志向する陣容を据えた。正統的な財政、金融政策を受けて金融市場では評価が高まる動きがみられる。また、インフレは頭打ちに転じるとともに景気も頭打ちしており、8月のインフレ率は前年比+52%に鈍化するなど実質金利はゼロが視野に入る水準となっている。ただし、足下のリラ相場は米ドル安にも拘らず再びじり安の展開が続いており、中東情勢を巡るエルドアン氏の対応が影響している可能性がある。正統的な政策運営は期待されるが、当面のリラ相場は引き続きエルドアン氏の一挙一動に揺さぶられる。
ここ数年のトルコでは、インフレが中銀目標を上回る推移が続いてきたにも拘らず、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領が主張する「高金利が高インフレを招く」という因果が倒錯した理論に基づく形で中銀は低金利政策を余儀なくされてきた。結果、通貨リラ相場は調整の動きを強めて輸入インフレ圧力が強まるとともに、コロナ禍後は商品高や経済活動の正常化の動きも重なりインフレが大きく上振れするなど収拾がつかない事態に追い込まれた。エルドアン政権がこうした政策を志向した背景には、昨年実施された大統領選と総選挙での政権維持を目指したものとみられるが、大統領選はエルドアン政権下で初めて決選投票にもつれ込むとともに、政権を支える最大与党AKP(公正発展党)は議席を大幅に減らすなど苦戦を強いられた。よって、選挙後に実施した内閣改造でエルドアン氏は経済政策を担う経済チームの陣容を一新するとともに、自説を封印する形で『正統的な政策』を志向する面々を据えた。新たな経済チームの下、中銀は断続的な大幅利上げに動くなど引き締め姿勢に舵を切るとともに、政府も総選挙前に実施した政策の解除に動いた上で緊縮財政に舵を切るなど、着実に正統的な政策運営を前進させてきた。結果、主要格付機関3社はいずれもトルコに付与する外貨建長期信用格付を引き上げるとともに、こうした動きを反映して機関投資家などの間でもトルコに対する見方が変化するなど、国際金融市場における評価が向上する動きがみられる。さらに、財政、金融政策の両面で引き締め姿勢が強化されるとともに、中銀は先月の定例会合においても政策金利を50%で据え置くとともに、先行きの政策運営についても引き締め姿勢を堅持する考えをあらためて強調するなどインフレ抑制を重視する考えを示している(注1)。他方、昨年後半以降は前年に頭打ちの動きを強めた反動で再び加速に転じる動きをみせたものの、政府と中銀による忍耐強い引き締め姿勢の堅持に加え、商品高の動きが一巡していることも重なり5月を境に再び頭打ちに転じている。しかし、インフレの水準そのものは依然として中銀目標を大きく上回るなど物価高が続いている上、金利高も重石になる形で足下の景気は減速が確認されるなど、引き締め政策の効果がようやく顕在化しつつある様子がうかがえる(注2)。こうした動きも重なり、直近8月のインフレ率は前年同月比+52.0%と前月(同+61.8%)から一段と伸びが鈍化するとともに、コアインフレ率も同+51.6%と前月(同+60.2%)からともに伸びが鈍化している。ここ数年の国際金融市場では世界的な金利高を受けて投資活動が活発化する動きがみられるが、トルコについては実質金利(政策金利-インフレ率)が一時▲70%を上回る大幅マイナスとなるなど投資妙味が著しく悪い状況が続いてきたものの、ようやくゼロが射程に入る水準となりつつある。こうした状況ながら、リラ相場は長期に及んだ調整局面に変化の兆しがみられたほか、足下の国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ観測を反映して米ドル安の動きが進んでいるにも拘らず、再びじり安の動きをみせるとともに最安値圏で推移するなど浮揚できない展開が続いている。この背景には、中東情勢を巡って不透明感が払しょくできない状況が続くなか、エルドアン大統領は一貫して親パレスチナ、親ハマスの姿勢を鮮明にしてきたことに加え、足下ではイスラエルへの対抗を目的にイスラム諸国の協調を訴える姿勢を強めるとともに、具体的にイスラム協力機構(OIC)の招集を要請したことも影響しているとみられる。なお、今月6日にユルマズ副大統領は中期経済計画を公表し、インフレ抑制を最優先に掲げた政策運営を堅持する方針を明らかにしたほか、同日に主要格付機関のフィッチ・レーティングスは今年2度目の格上げを実施するなど(B+→BB-)、金融市場における評価は着実に向上している様子がうかがえる。エルドアン大統領の対応はあくまで信教の自由に基づくものであることに鑑みればこれを否定することはできない一方、敵対心を煽る形で結束を呼び掛ける動きは反って事態打開の道筋を遠ざける可能性があり、金融市場がこうした動きに対して警戒感を示すことは否定できない。その意味では、正統的な政策運営の堅持が期待されるなか、リラ相場は引き続きエルドアン大統領の一挙一動に揺さぶられる展開が続くと予想される。


注1 8月21日付レポート「トルコ中銀は引き締め姿勢強調も、リラ相場のじり安局面が足かせに」
注2 9月3日付レポート「トルコの景気減速をようやく確認も、金融緩和はまだ先の話に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

