インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコの景気減速をようやく確認も、金融緩和はまだ先の話に

~表面的に景気減速は進むも家計消費に底堅さ、「急いては事を仕損じる」を肝に銘じた対応が重要に~

西濵 徹

要旨
  • 昨年来のトルコでは、物価と為替の安定を目的に正統的な政策運営に舵が切られるも、その後も景気は堅調な推移が続いた。しかし、4-6月の実質GDP成長率は前年比+2.5%、前期比年率でも+0.26%と頭打ちが確認されるなど金利高の効果がようやく発現した模様である。ただし、家計消費は依然拡大が続き、これを反映してサービス業の生産も幅広く拡大が確認される展開が続く。さらに、異常気象の影響で農林漁業の生産は頭打ちの動きを強めており、需給の両面でインフレ圧力に繋がる要因がくすぶると捉えられる。
  • 中銀は先月の定例会合でも引き締め姿勢を堅持する考えを強調している。他方、インフレ鈍化にも拘らず、足下のリラ相場は投資妙味の乏しさや中東情勢を巡るエルドアン大統領の姿勢などを警戒する展開が続く。当面のインフレは前年の反動で頭打ちしやすい状況にあり、金融市場では景気下支えに向けた利下げを見込む向きもくすぶる。ただし、依然として需給双方でインフレ要因がくすぶるなかでの判断は極めて難しく、結果的に長期に亘って引き締め姿勢を維持せざるを得ない展開が続く可能性に留意する必要がある。

トルコでは、ここ数年インフレと通貨リラ安が常態化してきたにも拘らず、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の下で中銀は低金利政策を余儀なくされた結果、リラ安に歯止めが掛からず、インフレも昂進する展開が続いた。しかし、昨年の大統領選後の内閣改造に際して、一転して財務相や中銀総裁など政権の経済チームに『正統的な』政策を志向する陣容を配置し、緊縮的な財政、及び金融政策に舵が切られた。こうした政策転換により、金融市場ではトルコに対する評価が向上する動きが広がるとともに調整局面が続いたリラ相場が変化する兆しもみられ(注1)、インフレの頭打ちも確認されているものの、その後のリラ相場は再び最安値を更新するなどジリ安の動きをみせる(注2)。なお、インフレと金利高の共存にも拘らず、昨年来の景気はリラ安による価格競争力の向上が輸出を下支えし、ロシアをはじめとする海外からの逃避資金の流入のほか、インフレとリラ安の常態化が家計消費を押し上げる展開が続いて堅調な推移をみせてきた。ただし、インフレと金利高の共存状態が長期化していることを受けて、足下ではようやくその効果が発現している様子がうかがえる。4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+2.5%と前期(同+5.3%)から鈍化して丸4年ぶりの伸びとなっている。前期比年率ベースの成長率も+0.26%とプラス成長を維持するも前期(同+5.57%)から鈍化しており、足下の景気は頭打ちが確認されている。輸出の半分を占めるEU(欧州連合)景気の頭打ちが外需の重石となっているほか、金利高が足かせとなる形で企業部門による設備投資も下振れするとともに、ロシアなどからの逃避資金流入の動きの一巡や緊縮財政も重なり固定資本投資も減少に転じている。他方、家計消費は依然として拡大が続いており、リラが価値保蔵手段としての用を為さない状況が続いていることが影響している。こうした需要動向は分野別の生産動向に現れており、外需の低迷は製造業の生産を大きく下押ししているほか、建設需要の弱さを反映して建設業の生産も下振れする動きがみられる。その一方、家計消費の底堅さを反映して幅広くサービス業の生産は好調を維持している。また、昨年はトルコを含む地中海地域で異常気象による熱波襲来などを理由に農林漁業関連の生産が下振れして食料インフレを招く一因になったものの、足下においても同様の事態が影響して関連分野の生産は力強さを欠くなど、先行きのインフレ要因となる懸念はくすぶる。そして、家計消費の底堅さも同様にインフレ圧力を招く可能性があり、足下の景気は頭打ちが確認されるも、そのことがインフレ鈍化に繋がるかは見通しが立ちにくい状況にあると捉えられる。

図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移
図1 実質GDP(季節調整値)と成長率(前年比)の推移

図2 実質GDP成長率(前期比年率)の推移
図2 実質GDP成長率(前期比年率)の推移

なお、中銀は先月20日の定例会合において政策金利を5会合連続で50%に据え置く決定を行うとともに、先行きの政策運営についても引き締め姿勢を堅持する考えをあらためて示している(注3)。トルコ国内では、家計部門によるインフレ見通しがこれまでのインフレ高止まりが影響する形で過度に悲観に振れている印象がある一方、中銀によるインフレ見通しは幾分楽観に傾いていると見込まれる。ただし、中銀が1年以上に亘って引き締め姿勢を強めるとともに、政府も緊縮財政に舵を切るなど正統的な政策運営に舵を切っているにも拘らず、投資妙味が依然として極めて乏しいことに加え、中東情勢を巡るエルドアン大統領の姿勢などを警戒したリラ相場の動きが物価の足かせとなる展開が続いている。政権の経済チームを統括するシムシェキ財務相は、自身のSNSに当面の景気動向について「バランスの取れた成長構造が見込まれる」との見方を示した上で、「景気は安定し始めており、経常赤字も縮小し、リスクプレミアムも縮小するなかで資金フローは加速するとともに外貨準備高も改善しており、ディスインフレプロセスに入っている」との考えを示している。ただし、上述したように全体としての景気は着実に頭打ちしているものの、その内容については家計消費を巡る動きがインフレ圧力を招くほか、異常気象による供給要因が新たなインフレ要因となる懸念はくすぶる。当面のインフレ率は昨年に加速した反動で頭打ちの動きを強めやすい環境にあるものの、足下の景気減速が確認されたことを受けて、金融市場には景気下支えの観点から中銀が利下げを迫られるとの見方もくすぶる。仮に表面的なインフレ鈍化のみを材料に中銀が利下げに動けば、足下においても依然拡大が続く家計消費を押し上げて再びインフレ圧力を強める可能性に加え、リラ安再燃の動きがインフレ圧力を増幅させるリスクもある。その意味では、中銀には表面的な景気やインフレ動向のみならず、その内容を吟味する必要性が高まっており、結果的に長期に亘って引き締め姿勢を維持せざるを得ない展開が続くと見込まれる。

図3 インフレ率の推移
図3 インフレ率の推移

図4 リラ相場(対ドル)の推移
図4 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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