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2024.08.21
アジア経済
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タイ中銀は金利据え置き、ペートンタン政権の政策を様子見の模様
~バーツ高を好感も経済や物価の見方は従来から不変、新政権の行方が中銀の政策を左右~
西濵 徹
- 要旨
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- タイ中銀は21日の定例会合で政策金利を5会合連続で2.50%に据え置く決定を行った。足下のタイ経済は外需をけん引役に底入れする一方、インフレ鈍化にも拘らず金利高が足かせとなる形で内需は力強さを欠く推移が続く。足下のインフレは中銀目標を下回る状況が続いている上、米ドル高一服によりバーツ相場は底入れの動きを強めるなど輸入インフレ懸念は後退している。他方、ペートンタン新首相の政策手腕は未知数な上、セター前政権の肝煎り政策である現金給付策の行方も不透明となるなど、実体経済や物価への影響は見通せなくなっている。こうしたなか、今回の中銀の決定も前回同様に票割れしたが、政策運営や経済、物価などに対する見方は基本的に変わっていないと捉えられる。中銀の決定はペートンタン新政権による政策次第といった内容であり、先行きは如何様にも動き得る可能性が高まっていると捉えられる。
21日、タイ銀行(中銀)は定例の金融政策決定会合を開催し、政策金利を5会合連続で2.50%に据え置く決定を行った。足下のタイ経済を巡っては、4-6月の実質GDP成長率が前期比年率+3.08%と前期(同+4.91%)から2四半期連続のプラス成長となるなど、景気は着実に底入れの動きを強めている。しかし、その内訳については、バーツ安による価格競争力の向上を追い風にした財輸出や外国人観光客数の拡大が外需を押し上げる一方、利上げの累積効果が足かせとなって家計消費は頭打ちするとともに、企業部門による設備投資や住宅投資は下振れして民間需要は弱含むなど、内需と外需は対照的な動きをみせている(注1)。ここ数年のタイにおいては、商品高とコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、バーツ安による輸入インフレも重なる形でインフレが上振れしたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計200bpもの利上げを実施した。インフレは一昨年半ばに約14年ぶりの高水準となるも、その後は商品高の一巡やプラユット元政権が実施したエネルギー補助金政策も重なり頭打ちに転じるとともに、昨年には中銀目標(2±1%)の下限を下回る水準で推移した。昨年後半以降はエネルギー補助金の効果がはく落するとともに、異常気象による食料インフレも重なり再加速する動きがみられるものの、直近7月のインフレ率は前年比+0.83%と中銀目標の下限を下回る伸びに留まっている。よって、セター前首相は早期に経済の立て直しを図るべく、中銀に対して度々利下げを要求したものの、中銀はバーツ安による輸入インフレに加え、セター前政権が計画する現金給付策をはじめとするバラ撒き策がインフレ圧力や家計債務の増大など新たなリスクを招くことを警戒して慎重姿勢を崩さず、金融政策を巡って政府と中銀が対立する動きが顕在化した(注2)。なお、セター前首相は今月14日に憲法裁判所が解職を命じる判断を下したことで失職し(注3)、その後にセター氏が所属するタイ貢献党党首のペートンタン氏が新たな首相に就任しており、党勢と経済の立て直しという難題に直面している。こうした状況ながら、ペートンタン氏は政治経験が乏しい上に政府の要職にも就いたことがなく、政策手腕は未知数のところが多く、セター前政権が推進してきた現金給付策の実施を巡って態度を明確にしないなど実体経済や物価などへの影響が見通せない状況にある。ただし、足下の国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を織り込む形で米ドル高圧力が後退しており、この動きを反映してバーツ相場は底入れして足下では1年ぶりの高値となるなど輸入インフレの懸念は大きく後退している。


こうしたなか、中銀が会合後に公表した声明文では、今回の決定も「6(据え置き)対1(25bpの利下げ)」と6月の前回会合同様に票割れした模様であるが、同国経済について「観光セクターと内需をけん引役に予想通りの拡大が続く」との見通しを示した上で、足下の政策運営について「経済の動向に合致している」との見方を示している。また、「バーツ相場は強含んでいる」との認識を示した上で、物価動向について「年後半に目標に回帰する」としつつ「年内は想定を下回る可能性はあり、エネルギー補助金の延長の行方を注視する必要があるものの、中長期的なインフレ期待は目標に合致する」との見通しを示している。その上で、金融市場環境について「やや引き締まっている」との認識を示した上で、「信用の質の悪化が借入コストや信用全体に与える影響を注視する必要がある」との考えを示しつつ「現在進行中の債務再編と的を絞った信用保証制度を支持する」としている。そして、現行の政策運営について「物価安定と持続可能な経済成長、金融安定の維持を目指したもの」との考えをあらためて示した上で、「長期的なマクロ金融の安定と景気と物価と整合的」との認識を示しつつ、先行きは「景気と物価の見通しを考慮に入れる」との従来からの考えをあらためて示している。よって、今回の中銀による決定はペートンタン新政権による政策運営の行方次第といった内容であり、現時点においては如何様にも動く可能性が高まっていると判断できる。
注1 8月19日付レポート「タイ・ペートンタン首相誕生も、船出から荒波に直面する展開」
注2 6月12日付レポート「タイ中銀は家計債務を警戒、利下げを求める政府との対立激化は必至」
注3 8月15日付レポート「タイ憲法裁がセター首相の解職決定、政治空白が与える影響とは」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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