インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア、景気とリンギ相場の堅調さを確認も、先行きはどうなる

~成長率は中銀見通しの上限近傍で推移も、先行きは外需を中心に不透明要因が山積~

西濵 徹

要旨
  • マレーシア経済は外需依存度が高い上、中国経済との連動性も高く、中国景気の不透明感が景気の足かせとなるほか、物価高と金利高の共存が内需の重石となる懸念もくすぶる。こうした状況ながら、4-6月の実質GDP成長率は前年比+5.9%、前期比年率+12.06%と景気底入れの動きが確認されている。リンギ安による輸出競争力の向上が財輸出を下支えし、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げや対内直接投資の活発化の動きが内需を押し上げている。結果、年前半の経済成長率は+5.1%と中銀見通し(4~5%)の上限を上回る水準を維持しており、足下の同国景気は堅調さを維持していると捉えられる。

  • リンギ相場は2月に一時アジア通貨危機以来の安値を更新し、その後も米ドル高が上値を抑えたが、足下では米ドル高の一服により一転して底入れの動きを強めるなど輸入インフレの懸念は後退している。他方食料インフレ圧力がくすぶり、財政健全化を目的とする軽油補助金削減によりエネルギー価格の上昇も懸念されるなど、生活必需品を中心とするインフレが続いている。内需を取り巻く環境は好転が期待される一方、外需には不透明感がくすぶる状況は変わらない。リンギ相場は外部環境に揺さぶられる展開が続くことは避けられず、中銀には引き続き慎重な政策運営が求められる局面となることが予想される。

マレーシア経済を巡っては、ASEAN(東南アジア諸国連合)内でも構造面で外需依存度が相対的に高く、財輸出の約2割、外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど中国経済に対する依存度も高い。さらに、財輸出に占める鉱物資源関連の割合も2割弱を占めており、このところの中国景気が再び勢いを欠く動きをみせるとともに、国際商品市況の重石となる状況が続いていることは景気の足かせとなりやすい。他方、商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、国際金融市場での米ドル高を受けたリンギ安も重なりインフレが上振れしたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計125bpの利上げに動くなど、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなる懸念が高まった。商品高の一巡を受けて昨年以降のインフレは頭打ちの動きを強めたものの、昨年後半以降は異常気象の頻発による食料インフレのほか、リンギ安による輸入インフレも重なりインフレは底入れに転じており、中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ない展開が続いた。このように内・外需ともに不透明要因がくすぶる状況ながら、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+5.9%と前期(同+4.2%)から加速して6四半期ぶりの伸びとなるなど、足下の景気は底入れしている様子がうかがえる。前期比年率ベースの成長率も+12.06%と2四半期連続のプラス成長で推移するとともに、前期(同+5.96%)からそのペースも加速して3四半期ぶりに10%を上回る高い伸びとなるなど堅調な推移をみせている。世界経済の底堅さやリンギ安による輸出競争力の向上を追い風に財輸出は比較的堅調な推移をみせる一方、中国景気の減速懸念を受けて外国人来訪者数は頭打ちの動きを強めており、輸出全体としては底入れの動きに一服感が出ている。一方、食料品など生活必需品を中心とする物価上昇にも拘らず、足下のインフレは比較的落ち着いた推移をみせるなど実質購買力の押し上げを追い風に家計消費は大きく押し上げられているほか、世界的なサプライチェーンの見直しの動きを追い風に海外からの直接投資の流入も活発化して固定資本投資も拡大しており、民間部門を中心とする内需拡大の動きが景気底入れの動きをけん引している。なお、家計消費や企業部門による設備投資など内需の堅調さが確認されているにも拘らず、輸入の拡大ペースは輸出の拡大ペースを下回る伸びに留まっており、それに伴い純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで+1.53ptと前期からプラス幅は縮小するも2四半期連続のプラス寄与となっている。他方、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで2四半期連続となるマイナス寄与で推移していると試算されるなど、昨年は在庫の積み上がりの動きが景気の下支えに資する展開が続いたものの、年明け以降は一転して在庫調整の動きが進んでいる様子がうかがえる。その意味では、足下の景気実態は数字以上に良好な動きをみせていると捉えられる。分野ごとの生産動向を巡っても、財輸出の底堅さを反映して製造業の生産は底入れの動きを強めているほか、家計消費の堅調さがサービス業の生産を押し上げるとともに、企業部門による設備投資の動きは建設部門の生産を活発化させている。ただし、商品市況の調整の動きが重石となる形で鉱業部門の生産は2四半期連続で減少するとともに、そのペースは加速するなど下振れの動きを強めるなど関連産業を取り巻く環境は厳しさを増している。年前半の経済成長率は+5.1%と中銀による最新の経済見通し(4~5%)の上限を上回っており、足下の景気は良好さを維持している。

図1 実質GDP成長率(前期比年率)の推移
図1 実質GDP成長率(前期比年率)の推移

図2 実質輸出の推移
図2 実質輸出の推移

図3 外国人来訪者数(季節調整値)の推移
図3 外国人来訪者数(季節調整値)の推移

国際金融市場においては長らく米ドル高を受けたリンギ安圧力がくすぶり、今年2月には対ドル相場が一時アジア通貨危機以来の安値を更新する事態に見舞われたほか(注1)、その後も米ドル高圧力がくすぶるなかで上値が抑えられる展開が続くなど輸入インフレ圧力が強まることが懸念された。しかし、先月以降は米国のインフレ鈍化が確認されるなかで米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営に対する見方が変化しており、米ドル高の動きに一服感が出るなかでリンギ相場は一転して底入れの動きを強めており(注2)、輸入インフレの懸念は大きく後退している。一方、上述したように昨年後半以降のアジア新興国においては異常気象を理由とする食料インフレが強まる動きがみられるほか、年明け以降も熱波の頻発を理由に農産物の生産が下振れして供給不足が懸念されており(注3)、食料品を中心とする物価上昇の動きが続いている。さらに、アンワル政権は6月に財政健全化を目的に全土で一律に設定するディーゼル燃料(軽油)を対象とする補助金制度の見直しを実施しており、エネルギー価格にも上昇圧力が強まる懸念が高まっている。中銀は先月の定例会合において、金融市場におけるリンギ安に対して為替介入を通じて対抗することで時間稼ぎを図る考えをみせたものの(注4)、上述のようにその後のリンギ相場が大きく底入れの動きを強めたことで輸入インフレの懸念は後退していると捉えられる。よって、内需を取り巻く環境はこれまで以上に好転することが見込まれる一方、外需については世界経済を巡る不透明感が高まっていることに加え、これまでのリンギ安による価格競争力向上の動きが一転してはく落しており、外需を取り巻く環境には厳しさが増すことが予想される。他方、このところのリンギ相場の底入れの動きはあくまで米ドル高の一服の動きを反映したものと捉えられるほか、先行きについても外部環境の状況によって揺さぶられる展開が続くことは避けられず、中銀による政策運営には慎重さが求められる局面が続くであろう。

図4 リンギ相場(対ドル)の推移
図4 リンギ相場(対ドル)の推移

図5 インフレ率の推移
図5 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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