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2024.08.02
アジア経済
アジア金融政策
マレーシア経済
為替
足下の急速なリンギ高は経済の「実力」を反映した動きなのか
~米ドル高一服の一方、商品市況の低迷や外貨準備高などファンダメンタルズを巡る問題は残存~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の国際金融市場では米ドル高圧力が後退する動きがみられる。ここ数年のマレーシアでは商品高やリンギ安、コロナ禍一巡の動きも重なりインフレが昂進し、中銀は利上げを迫られた。商品高の一巡などで一昨年半ばを境にインフレは頭打ちに転じたが、米ドル高圧力がくすぶるなかで中銀は引き締め姿勢を維持しつつ、為替介入を迫られる展開が続いた。しかし、米ドル高の後退を受けてリンギ相場は大幅に底入れしている。とはいえ、商品市況の調整の動きは資源国である同国経済の足かせとなるほか、外貨準備高の過小感を勘案すれば足下のリンギ高は解せないところが少なくない。リンギ安一服で中銀には政策運営の裁量が増すと期待されるが、物価上昇の懸念もくすぶるなかで慎重な見方を維持する必要性は残る。
足下の国際金融市場においては、米国におけるインフレ鈍化の動きが確認されるとともに、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施が近付いているとの見方が広がるなか、米ドル高圧力が大きく後退する動きがみられる。ここ数年の金融市場における米ドル高の動きは多くの新興国通貨の調整圧力を招くことで輸入インフレが懸念されたほか、商品高による物価上昇の動きと相俟ってインフレ圧力を増幅させる事態となり、多くの新興国中銀は物価と為替の安定を目的とする金融引き締めを迫られた。マレーシアにおいても、商品高やリンギ安、コロナ禍一巡による経済活動の正常化も重なる形でインフレが上振れしたため、中銀は一昨年以降に累計125bpの利上げに動く対応をみせた。しかし、商品高の一巡に加えて、中銀による利上げの効果発現なども重なる形でインフレは一昨年半ばを境に頭打ちに転じたものの、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする物価上昇を反映してインフレが再燃する兆しがうかがえる。さらに、年明け直後の国際金融市場は米ドル高圧力がくすぶる展開が続いたことを受け、2月には通貨リンギの対ドル相場が一時アジア通貨危機以来となる安値を更新するなど調整圧力が直撃した(注1)。その後の米ドル相場は一進一退の様相をみせるも、リンギ相場を巡っては力強さを欠く推移が続いたことを受けて、中銀は先月の定例会合において政策金利を据え置くとともに、リンギ安懸念を巡って為替介入を強化することにより対応する考えをみせた(注2)。しかし、上述のようにその後の国際金融市場においては米ドル高圧力が後退するなど外部環境が一変するなか、足下のリンギ相場は大きく底入れして1年ぶりの水準となるなど、同国を取り巻く環境も大きく変化している様子がうかがえる。足下のリンギ相場の底入れを巡っては米ドル高の後退が大きく影響しているとみられる一方、同国はアジア新興国のなかでは経済に占める鉱業部門の割合が比較的高い上、中国経済を巡る不透明感を理由に国際商品市況が頭打ちの動きを強めるなかで多くの資源国通貨が調整圧力に直面するなかでのリンギ高となっているのは解せないところが大きい。さらに、マレーシアの外貨準備高の水準は、IMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺に対する耐性の有無の基準として示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」を下回ると試算されるなど充分とは言えない規模に留まる。このところのリンギ高の動きが資金流入を伴うことを勘案すれば、足下の外貨準備高は幾分積み上がっている可能性が考えられるものの、適正水準にほど遠い状況に留まる状況は変わらないと見込まれる。こうした経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを理由に、これまで過度に売られ過ぎた反動で買われている可能性は考えられるものの、そうした場合は外部環境によって幾らでも状況が変わり得ることを意味する。このところのリンギ高を受けて中銀にとっては為替介入の必要性が後退しており、政策運営を巡って『フリーハンド』が増すことが期待されるものの、アンワル政権が財政健全化を目的に実施した燃料補助金見直しの動きが物価上昇圧力を招くなど金融政策の手足を縛るリスクはくすぶる。その意味では、足下のリンギ高の動きがマレーシア経済の実力を反映したものと捉えるのは些か早計であるとともに、この動きを以って中銀が軽々に政策判断を下すことの危険性にも注意を払う必要があると捉えられる。


注1 2月29日付レポート「なぜマレーシアリンギ相場はアジア通貨危機以来の安値を更新したか」
注2 7月11日付レポート「マレーシア中銀、リンギ安に為替介入による「時間稼ぎ」に頼る展開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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