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2026.05.01
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台湾景気もAI需要が追い風、中東情勢の長期化リスクに要注意
~当局は需要抑制より供給確保を優先、AI関連がけん引役となる期待は続いているが~
西濵 徹
- 要旨
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台湾は一次エネルギーの55%を原油・天然ガスに依存するが、近年の調達先の多様化や146日分の備蓄により、中東リスクへの耐性は相対的に高いとされる。一方、天然ガスはカタール産が約3割を占めるため影響は避けられず、「原発ゼロ」達成後に再稼働検討を迫られるなど難しい対応を余儀なくされている。当局は現時点で需要抑制より供給確保を優先し、家庭向けエネルギー価格を据え置くことによりインフレを抑制する対応が続いている。
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1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+11.86%と好調に推移し、前年同期比では+13.69%と39年ぶりの高水準となった。トランプ関税の引き下げや世界的なAI投資の拡大を追い風に半導体輸出が好調なうえ、設備投資や個人消費など内需も堅調に推移している。先行きもAI需要主導の成長が見込まれるものの、中東情勢の緊迫化が一段と長期化してエネルギー供給が滞れば需要抑制策が必要となるリスクがある。
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主要株価指数(加権指数)はAI関連投資への期待から最高値圏で推移しており、台湾ドルも景気の堅調さを背景に底堅さをみせる。しかし、中東情勢の一段の長期化がエネルギー需給を悪化させた場合は、現在の良好な流れが変化するリスクに注意が必要となる。
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- 目次
【エネルギーへの懸念はあるが、現状は需要抑制より供給確保を優先した姿勢を示す】
台湾は、一次エネルギーに占める原油比率が35%、天然ガス比率が20%と合わせて55%に上る。そのうえ、原油の99%以上を輸入に依存しているほか、かつては7割以上を中東からの輸入が占めていた。しかし、米中摩擦の激化が台湾に影響を及ぼす懸念が高まるなか、エネルギー安全保障の観点からここ数年は米国産原油の輸入を拡大させており、足元では米国産比率が約6割に上るとされる。その結果、中東情勢の緊迫化、とりわけホルムズ海峡の航行を巡る問題が、多くのアジア新興国で原油供給懸念を招いているものの、台湾については比較的その影響を受けにくい状況にある。さらに、原油備蓄は約146日分と他のアジア新興国のなかでは高水準であるため、原油の供給途絶に対する耐性が比較的高いと考えられる。
その一方、一次エネルギーの35%を石炭が占めるなか、近年は脱石炭への取り組みを進めるとともに、脱原発の観点から天然ガスの輸入を拡大させてきた経緯がある。天然ガス輸入の4割をオーストラリア産が占めているものの、カタール産も3割程度を占めており、中東情勢の緊迫化の影響は避けられない。こうしたなか、台湾は2025年5月にすべての原発の稼働を停止する「原発ゼロ」を達成したものの、中東情勢の緊迫化によるエネルギーの供給懸念を受けて、原発の再稼働が検討されるなど難しい対応を迫られている。さらに、石炭火力を補完的に稼働させる動きもみられる。背景には、世界的にAI(人工知能)関連需要が高まるなか、主力の輸出財である半導体の安定的な生産・供給に膨大なエネルギーの安定供給が必要不可欠となっていることがある。
石油製品については、精製施設を抱えており、輸入した原油を精製し、一部を海外に輸出している。しかし、軽油やナフサなど一部の石油製品は、近年の国内需要の拡大を受けて輸入に依存しており、韓国やシンガポール、日本、中国本土などアジア域内のほか、ロシアからの輸入が拡大している。日本は、4月15日に開催された東南アジア諸国やオーストラリアで構成されるアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)に、韓国やバングラデシュ、東ティモールが加わった「AZECプラス」のオンライン首脳会合で、原油や石油製品の調達円滑化を目的に総額100億ドルの金融支援を表明した。台湾はこの枠組みに加わっていないものの、アジア域内でのサプライチェーンの強靭化の動きは、台湾の石油製品の安定供給に資することは間違いないであろう。
台湾の原油や石油製品、天然ガスの収支(輸出入の差し引き)はGDP比▲1.0%程度の赤字と試算される。この水準は他のアジア新興国などと比較して小幅にとどまり、原油高はマクロ面で景気の足かせとなることは避けられないものの、その影響度合いは小さいと捉えることができる。台湾当局は産業界に対して「1%節電」への指導を強化する一方、現時点では需要抑制ではなく供給確保を優先する動きをみせる。家庭向け電力料金が据え置かれていることもあり、足元のインフレ率は抑えられているものの(図1)、これは景気への悪影響を懸念した対応とみられる。

【AI関連需要の旺盛さを追い風に、2四半期連続で二桁%の力強い成長をみせる】
前述のように、中東情勢の緊迫化は台湾経済に悪影響を与える懸念はあるものの、1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+11.86%と前期(同+23.55%)に続いて二桁%の高い成長で推移するなど、力強い成長が続いていることが確認された(図2)。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+13.69%と前期(同+12.65%)から加速しており、1987年4-6月(同+14.25%)以来、39年ぶりの高い伸びとなるなど景気は勢いを増している。1月に米国との関税合意に至り、いわゆるトランプ関税が引き下げられたことに加え、2月の米連邦裁判所による違憲判決を理由に税率が事実上一段と引き下げられるなど、対米輸出のハードルが低下したことで外需が下支えされた。そのうえ、世界的なAI関連投資の活発な動きを追い風に、半導体をはじめとする財輸出が押し上げられる動きが続いたほか、中国本土をはじめとする域外からの来訪者数の堅調な流入はサービス輸出の拡大を促している。

さらに、AI関連を中心とする外需の堅調さは高性能コンピューティングやクラウドインフラ製品関連といった関連分野での設備投資を押し上げるなど、好循環がみられる。また、中東情勢の緊迫化を受けた原油高にもかかわらず、前述のように家庭用を中心とするエネルギー価格が据え置かれていることもあってインフレが落ち着いており、個人消費も堅調に推移するなど幅広く内需が拡大する動きもみられる。その結果、輸入は輸出を上回るペースで拡大しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲0.05ptと前期(+16.14pt)からマイナスに転じたと試算される。したがって、前期比年率ベースの成長率は前期から伸びが鈍化しているものの、景気実態は数字以上に良好と捉えられる。
先行きについては、世界的なAI関連投資は引き続き旺盛な推移が見込まれるとともに、輸出受注は過去最高額を更新する展開が続いていること(図3)を勘案すれば、外需をけん引役にした成長が見込まれる。一方、前述したように、当局は景気への悪影響を警戒し、エネルギー需要の抑制に向けた強制的な措置は取らず、天然ガスをはじめとするエネルギー資源の調達先の多様化や電源切り替えなどを通じて経済活動を優先する対応が取られている。しかし、中東情勢は見通しの立たない状況が続くなどさらなる長期化も懸念され、仮にこう着状態が続くことで中東からの資源供給が滞る展開が続いた場合、何らかの需要抑制策に動かざるを得ない事態も考えられる。そうなれば、好調な動きが続いた流れが大きく変化する可能性があることには注意が必要である。

【金融市場はAI需要が追い風となる一方、エネルギー需給の動向に注意が必要】
2025年以降の金融市場においては、世界的なAI関連投資の拡大期待が時価総額上位の半導体関連株を中心に株価上昇をけん引する展開が続いてきた。中東情勢の緊迫化を受けて、一旦はその勢いに陰りが出たものの、足元では事態が長期化する懸念はくすぶるにもかかわらず、AI関連投資への期待を追い風に主要株価指数(加権指数)は最高値圏で推移している。
一方、2025年の台湾ドル相場については、トランプ関税に大きく揺さぶられたものの、その後はAI関連投資の旺盛さへの期待が下支え役となる展開が続いてきた。中東情勢の緊迫化を受けて台湾ドル相場は上値が抑えられているものの、景気の堅調さが確認されるなかで底堅く推移している(図4)。先行きもAI需要への期待が金融市場の活況を支えることが期待されるものの、中東情勢の緊迫化が一段と長期化してエネルギー需給の動向に影響を与える事態となれば、こうした流れに変化が生じる可能性には注意が必要となる。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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