徹底解剖!アメリカ大統領選2024(12)

~世界経済への影響~

阿原 健一郎

目次

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Q.アメリカ大統領選は世界経済へどう影響する?

A. 世界最大の経済大国であるアメリカの大統領選は、結果次第で先行きの政治・経済動向を大きく左右し、世界経済にも大きな影響を及ぼす。来る11月5日の大統領選は、バイデン大統領撤退に伴う民主党候補の指名投票を経て、正式に、民主党のハリス副大統領vs共和党の前トランプ大統領という構図になった。ハリス氏の具体的な政策内容はまだわからない部分も多いが、両者の掲げる政策スタンスの違いから、本稿では大統領選の結果が、アメリカ国内ではなく、世界経済全体にどのような影響を与えるのか考察する。具体的には、①通商政策による影響、②気候変動対応を通じた影響、③外交政策による地政学リスクの変化による影響について考えたい(税制や移民政策等、アメリカ国内に係る両者の政策スタンスの違いは、7月26日付レポート「ハリスノミクスvs.トランポノミクス」を参照されたい)。

Q.通商政策が世界経済へ与える影響は?

A. 現行のバイデン政権は、トランプ前政権が導入した対中追加関税(通商法301条関税)を継続している。ハリス氏の掲げる通商政策に関しては、まだわからない部分も多いが、基本的には現政権のスタンスを踏襲するとみられる。
一方のトランプ氏は、「対中関税を60%に引き上げ、その他の輸入品に一律10%の関税を課す」という方針をかねてから主張しており、実現すれば、アメリカの通商政策はより一層、保護主義色を強めることになる(2022年時点の実行関税率は、対中が約12.8%、中国以外が約0.8%)。当社の試算では、トランプ氏の掲げる追加関税が実現した場合、世界各国の対米輸出が減少することで、世界全体の実質GDPを▲0.2%下押しするという結果を得ている。各国、各地域への影響を確認すると、最も重い追加関税に晒される中国の実質GDPが大きく減少するほか(▲0.36%)、サプライチェーンのつながりが深いNIEs(▲0.22%)、ASEAN(▲0.15%)も比較的大きく減少するとみられる。また、各国が報復措置としてアメリカに対し同等の関税引き上げを行った場合、世界全体の実質GDPの下押し幅は▲0.4%まで拡大する可能性がある。報復関税の影響を受けて、米国の実質GDPが大きく減少する(▲0.71%)と考えられる(詳しくは、2月15日付レポート「トランプ関税による世界経済への影響」を参照されたい)。いずれの候補が大統領となっても、中国への貿易規制の手綱は握られたままだろうが、トランプ氏が再選を果たした場合、締め付けはより強まり、その影響は全世界に波及すると考えられる。

Q.気候変動対応が世界経済へ与える影響は?

A. 気候変動対応については、両者のスタンスは明確に異なる。ハリス氏は、もともと環境問題に注力してきた議員の1人であり、バイデン大統領以上に気候変動対応に積極的と言われている。前回2020年の大統領予備選では、グリーン・ニューディール政策(気候変動対応に対する積極的な財政出動)を支持するとともに、シェールガスや石油開発に使用するフラッキング(水圧破砕法、化学物質を含む高圧水を使用するため環境汚染のリスクが指摘されている)に強く反対した。もっとも、今回の大統領戦では、激戦州であり、ガス生産が盛んなペンシルベニア州を意識してか、フラッキングの全面的な禁止への発言を控えており、幾分スタンスを軟化させつつ、バイデン政権の気候変動対応を継続するとみられる。
一方、バイデン政権の進めてきた気候変動対応の巻き戻しを図るトランプ氏は、化石燃料生産に対する規制撤廃、及びグリーン・ニューディールの廃止、2022年8月に成立した気候変動対策予算である「インフレ削減法(IRA)」の撤廃等を明言している。トランプ氏の掲げる政策のもとでは、原油や天然ガスなどが増産され、化石燃料の価格を押し下げると見込まれる。世界の一次エネルギー供給構成を見ると、いまだ化石燃料が内訳の大半を占めており(図表1)、世界の名目GDPのうち約6割に相当する国が原油・天然ガスの純輸入国であることから(図表2)、化石燃料の価格低下は、短期的には、世界経済の押し上げ要因になりそうだ。もっとも、トランプ氏が増産分の多くを戦略石油備蓄に充てれば、原油価格の押し下げは限定的となるほか、原油価格の下落を受けて、OPEC+が加盟国の供給を絞る等の価格調整に動く場合や、中東情勢のリスクの高まりから原油価格に上昇圧力がかかる場合(後述)には、資源価格を通じた世界経済の押し上げ効果は限定的となる可能性がある。

図表1、図表2
図表1、図表2

Q.外交政策による地政学リスクが世界経済に与える影響は?

A. 現状、世界経済はいくつもの地政学リスクに晒されているが、アメリカの外交スタンスが大きく影響すると思われるものに、米中対立、ウクライナ支援、中東情勢などがある。
米中対立については、いずれの候補が大統領となった場合も、対中強硬姿勢を継続するとみられるが、通商政策で見た通り、トランプ氏の方がより厳しい手段に出る可能性がある。ただ、米中対立に絡む、台湾の問題を巡っては、トランプ氏は「台湾はアメリカに防衛費を払うべき」と発言するなど、台湾への関与には一定の距離を置くかのようなスタンスも見せている。どこまでを意図した発言かはわからないが、トランプ氏が再選した場合は、半導体産業を中心として、台湾を取り巻く状況は現状より複雑なものとなりそうだ(中国、台湾への影響について詳しくは、「徹底解剖!アメリカ大統領選2024(9)」を参照されたい)。
ウクライナ支援については、ロシアのウクライナ侵攻以降、アメリカは単一国家としては最大の支援国となってきたが、トランプ氏はウクライナ支援の継続に懐疑的だ。仮に、トランプ氏が再選し、アメリカがウクライナ支援を縮小することになれば、欧州諸国が縮小分を補填する必要が生じ、財政悪化を通じて欧州経済を下押しする可能性も出てくる(詳しくは、「徹底解剖!アメリカ大統領選2024(11)」を参照されたい)。
中東情勢は、足もと緊迫が高まっているが、どちらが大統領になるかによって、今後の情勢や世界経済への影響が大きく変わる可能性がある。ハリス氏は、イスラエルのネタニヤフ首相との会談で、イスラエルのガザ地区への攻撃は人道危機に「深刻な懸念」があるとし、停戦を求める強い姿勢を打ち出したと報じられている。一方、トランプ氏は前政権時代に、親イスラエルの政策を取り、イランへの強硬姿勢を貫いてきた。11月の大統領戦までに停戦が合意に至らず、ガザ地区を中心とした戦闘が激化した状態で、トランプ氏が再選し、親イスラエルの姿勢を打ち出した場合、中東諸国の反発を強め、中東情勢が一層不安定化する可能性はある。中東情勢の不安定化は、原油の供給懸念を生み、原油価格の上昇を通じて世界経済を下押しすると考えられる。
ただ、いずれの地政学リスクも、情勢は非常に流動的であり、その時々の状況によって世界経済へのインパクトも異なる可能性には注意しなければならない。

以上

阿原 健一郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

阿原 健一郎

あはら けんいちろう

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジアパシフィック経済、世界経済、計量分析

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