インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

徹底解剖!アメリカ大統領選2024(9)

~中国への影響~

西濵 徹

目次

「徹底解剖!アメリカ大統領選2024」を含む米国大統領選挙に関するレポートの一覧は「テーマ別レポート一覧 | 米国大統領選」をご参照ください。

Q.アメリカ大統領選、中国経済にはどう影響する?

A.ここ数年の世界経済を巡っては、激化する米中対立の動きやそれに伴う世界貿易への影響に揺さぶられる展開が続いている。そうした影響は中国経済においても、米国が最大の財輸出の相手となっているほか、米国からの対内直接投資、中国企業による米国株式市場での上場など様々な経済活動を通じて影響を与えることは避けられない。対中姿勢については、バイデン氏(民主党)もトランプ氏(共和党)もともに「強硬な対応」を取ることが見込まれる一方、通商政策や環境政策、外交などの具体的な政策運営を巡っては両者の間に違いがみられる。バイデン現大統領が当選すれば現行のスタンスが継続する可能性が高いと見込まれる一方、トランプ氏に交代すれば大幅な政策変更が行われることも考えられる。ただし、いずれの候補が勝利した場合においても、中国に対する姿勢が大きく緩和する方向に動くことは見通しにくく、両国関係に悪影響が出ることは避けられないと予想される。

Q.通商政策による中国経済への直接的な影響は?

A.バイデン現政権は大統領選を前にした今年5月、不公正な貿易慣行の是正を目的に通商法301条に基づく対中追加関税の引き上げ対象品目のほか、適用除外対象品目を公表している。具体的には、鉄鋼やアルミニウムのほか、半導体、電気自動車(EV)、バッテリー・バッテリー部品、重要鉱物(天然黒鉛・永久磁石など)、太陽電池、船舶対陸上(STS)クレーン、医療製品に対する関税率を引き上げることを決定し、なかでも電気自動車に対しては8月1日に25%から100%に大幅に引き上げられる。鉄鋼やアルミニウムなどに対する関税率は25%とトランプ前政権が実施した関税引き上げ策に倣ったとみられる。なお、現状で中国から米国向けの電気自動車の輸出はごく少数に留まることを勘案すれば、今回の関税引き上げはメッセージ的な意味合いが強いと捉えられる。しかし、トランプ前政権による関税引き上げ策の中国経済への直接的な影響はGDP比で1%弱に達したことを勘案すれば、同様の影響が見込まれる。

一方、トランプ前政権は「アメリカ・ファースト」や「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」といったスローガンを旗印に、関税の引き上げをはじめとする保護主義的な貿易政策を推進したことは記憶に新しい。トランプ氏は今回の選挙戦を通じて一段と保護主義色の強い姿勢を掲げており、具体的には中国からの輸入品に対して一律で60%の課税を行う方針を示している。仮にこうした対応が採られれば、その直接的な影響はGDP比で1.7%に達すると試算されるほか、サプライチェーンの見直しなどを通じて二次的な影響が広がりをみせる可能性も考えられる。

Q.輸出以外に中国にはどういった影響が考えられるか?

A.トランプ前政権は相手国との「ディール(取引)」を重視する姿勢をみせるなか、中国との間では貿易不均衡の是正を目的に中国政府が米国産の農産品やサービス関連の輸入拡大を要求するなどの動きをみせてきた。さらに、米中間において懸案事項となってきた知的財産、技術移転、金融サービスなどを巡っても協議が行われ、表面的には合意に至るも、現実にはほぼ何も変わらない状況が続いてきた。また、バイデン現政権の下においても米中両国は断続的に協議が行われてきたものの、事態が大きく前進する動きはうかがえない展開が続いている。仮に次期政権がトランプ氏に交代した場合は前政権下と同様に協議が再開される可能性がある一方、中国の内需に不透明感が高まるなど輸入拡大に向けた余力が低下していること、ここ数年に亘って中国は米国に代わる輸入元の分散化を図ってきたことを勘案すれば、事態が大きく進展するとは見通しにくい。また、ここ数年は中国企業による米国市場への上場のハードルが高まっているが、トランプ氏は中国企業によるエネルギーやハイテク関連など戦略分野での不動産やインフラなどの所有を禁じる方針を掲げており、中国企業による活動が一段と制約されることも避けられない。よって、米中摩擦は程度の差こそあれ不可逆的に進行する展開が続く可能性は高まっていると判断できる。

Q.米中摩擦が激化するなかでいわゆる「台湾問題」はどうなる?

A.台湾を巡っては、米国は1979年に成立させた台湾関係法と、82年に当時のレーガン大統領が表明したいわゆる「六つの保証」に基づく形で、歴代政権はあいまいさを残しつつ現状維持を目指す姿勢をみせてきたとされる。一方、中国はいわゆる「一つの中国」という原則を掲げて台湾統一を目指す姿勢をみせてきたほか、習近平指導部の下においては2022年に開催された共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)において党規約に「台独(台湾独立)に断固として反対し抑え込む」との文言が盛り込まれるなど、そうした色合いが一段と強まる動きがみられる。よって、米中関係の行方は台湾問題と密接に関係するとともに、台湾が米中摩擦の代理戦争的な舞台となることが懸念される展開が続いている。こうしたなか、今年1月の台湾総統選では現状維持を志向するとともに、中国への強硬姿勢も辞さない民進党(民主進歩党)の頼清徳氏が勝利し、直接選挙制に移行して初めて同一政党による政権3期目入りを果たしている。ただし、同時に実施された立法委員総選挙では民進党は少数派に留まり、中国との対話を重視する国民党と民衆党が多数派を占めるなど、政権と議会の「ねじれ状態」に陥っている。中国は議会の多数派を占める国民党や民衆党との対話を強化する一方、頼政権の政策運営についてはねじれ状態も影響して円滑に進展しにくい状況が続いており、台湾から中国に対して統一を要求する環境の醸成に狙いを定めている可能性が考えられる。他方、米国の次期政権が台湾に対する関与を一段と強化する動きをみせれば、中国が対抗措置として台湾周辺における軍事訓練を活発化させるほか、偶発的な衝突に繋がるリスクが高まることに注意を払う必要性は高い。

Q.バイデン氏とトランプ氏、どちらの方が中国にとってプラスになる?

A.バイデン氏とトランプ氏を巡っては、その手法こそ異なるものの、米国内における対中姿勢は党派を問わず厳しさを増していることを勘案すれば、場合や手段によって強弱のみえ方に差は生じるも米中摩擦の構図に大きな差異は生じにくくなっていると捉えられる。バイデン現政権の下では、EU(欧州連合)が米国に歩調を併せる形で対中強硬姿勢を強めるなど「横の繋がり」が広がる様子もうかがえる。一方、トランプ氏は自国中心主義を前面に押し出す形でディールを展開してきたことを勘案すれば、そうした姿勢は中国にとって「米国がどう出るか?」を予見することを難しくすることも予想される。よって、一概にプラス、マイナスを判断することは難しくなっていると判断することができよう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ