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2024.08.07
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トルコリラは再びジリ安に、その背景にある材料を考える
~市場環境悪化と投資妙味の乏しさに加え、中東情勢を巡るエルドアン大統領の「動き」にも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコリラ相場は、昨年の大統領選後の内閣改造を経た正統的な政策運営を受けて調整が続いた流れに変化の兆しが出てきた。さらに、足下ではインフレの頭打ちが確認されるとともに、中銀も直近の定例会合で引き締め姿勢を堅持する考えを示し、主要格付機関も格上げに動くなど対外的な評価は着実に向上している。ただし、国際金融市場では米ドル高が一服しているにも拘らず、足下のリラ相場は再びジリ安の動きを強めて最安値を更新する展開をみせる。中銀の引き締め維持も実質金利は大幅マイナスで推移するなど投資妙味が乏しく、中東情勢を巡る不透明感が高まるなかでのエルドアン大統領の立ち位置がリラ相場の足かせとなっているほか、国際金融市場の混乱もリラ相場の足かせになっているとみられる。当面のリラ相場は市場環境に加えて中銀の忍耐、そして、エルドアン大統領が政策運営や中東情勢を巡ってさらなる「不規則な」発言や対応を抑えられるか否かに掛かっている状況は変わっていないと捉えられる。
トルコリラ相場を巡っては、昨年の大統領選後に行われた内閣改造において、経済政策を主導する財務相と中銀総裁を正統的な政策運営を志向する陣容で固めるとともに、中銀は累計4150bpもの大幅利上げに、政府も為替防衛を目的に導入した保護預金制度の解除や包括的な財政緊縮策に動くなど着実に正統的な政策運営に舵を切ったことも追い風に、調整の動きが続いた基調から底打ちに転じるなど変化が生まれる兆しがみられた(注1)。さらに、ここ数年の商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化の動きに加え、リラ安による輸入インフレも重なりインフレは上振れして中銀目標(5%)から乖離してきたものの、インフレが頭打ちに転じるとともに(注2)、7月のインフレ率も前年比+61.78%と9ヶ月ぶりの伸びに、コアインフレ率も同+60.23%と丸1年ぶりの伸びに鈍化するなど一段の頭打ちを強めていることが確認されている。なお、7月のインフレ率は前月比では+3.23%と前月(同+1.64%)から上昇ペースが加速しており、これはアルコールやたばこの値上げのほか、エネルギー価格の上昇、燃料に賦課される税金の調整などが影響している。しかし、前年には食料品をはじめとする生活必需品のほか、リラ安による輸入インフレが幅広く財価格を押し上げる動きがみられたため、その反動も影響して前年比ベースのインフレは頭打ちの動きを強めやすい環境にあると捉えられる。こうしたなか、中銀は先月末の定例会合において政策金利を4会合連続で50%に据え置くとともに、インフレ鈍化の動きを確実にすべく引き締め姿勢を堅持する考えをあらためて強調する考えを示している(注3)。その直前には、昨年来の政府、及び中銀による政策運営を評価する形で主要格付機関のムーディーズ社が外貨建信用格付を2ノッチ引き上げており(B3→B1)、これにより主要格付機関の3社がいずれも格上げを実施するなど国際金融市場における評価は着実に向上していると捉えられる。このようにトルコを取り巻く環境は着実に変化しているものの、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ているにも拘らず、リラ相場は再びジリ安の動きを強めるとともに最安値を更新する展開が続いている。こうした背景の一因には、足下のインフレ鈍化や中銀による断固とした姿勢にも拘らず、実質金利は依然として▲10%を上回る大幅マイナスが続いており、世界的にみても投資妙味が乏しいことがある。さらに、中東情勢を巡る不透明感が再び強まる動きがみられるなか、同国のエルドアン大統領は昨年来のパレスチナ自治区ガザでの戦闘に関連して親パレスチナ、親ハマスの姿勢を鮮明にする一方でイスラエル批判を繰り返しており、投稿を巡ってSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)へのアクセスを遮断するといった強硬手段に動いていることも影響していると考えられる。他方、今月初めにエルドアン大統領は米国とロシアの間で実施された囚人交換を巡って仲介役を担うなど、ウクライナ戦争以降に様々な場面でロシアと欧米諸国などとの間の交渉の中核を担う動きをみせてきたなかで存在感を示してきた。こうした状況ながら、地理的に近い中東情勢を巡る不透明感やエルドアン大統領の『立ち位置』がリラ相場の重石となっている可能性がある。そして、このところの国際金融市場は中国経済を巡る不透明感に加え、米国経済の減速懸念が意識されるなかで混乱の度合いを強めるなどリスクオフの様相を強めており、投資妙味が極めて低いトルコ資産が真っ先に手放される対象となっていることも影響しているとみられる。その意味では、リラ相場の反転には金融市場環境が好転するなど外部環境の変化に加え、中銀がインフレ鈍化に向けて忍耐力を維持することができるか、そして、エルドアン大統領が金融政策運営のみならず、中東情勢を巡ってさらなる『不規則な』発言や行動を抑えることができるか否かに掛かっている状況は変わっていないと捉えられる。


注1 6月4日付レポート「潮目が変わったトルコリラ、今後の行方も経済チームの腕に掛かる」
注2 7月4日付レポート「待ちに待ったインフレ鈍化を確認、トルコリラはどうなるか?」
注3 7月24日付レポート「トルコ中銀は「断固とした」姿勢を堅持、リラ相場は中銀の忍耐次第か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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