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2024.08.06
アジア経済
その他アジア経済
バングラデシュ・ハシナ前首相辞任、軍の介入で暫定政権樹立へ
~高成長も雇用不足が深刻化、強権政治の歪みが反政府デモへ、民政移管へ道筋を付けられるか~
西濵 徹
- 要旨
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- バングラデシュでは今年1月の総選挙でハシナ前政権が計5期目入りを果たした。しかし、総選挙は主要野党がボイコットするなど外形上は民主政治を維持しつつ強権姿勢を強める動きがみられた。こうしたなか、公務員採用を巡る優遇枠を巡って学生デモが活発化し、政府の鎮圧行動により多数の死傷者が発生したため、ハシナ前首相の退陣を求める動きに発展した。今月5日にデモは一段と激化して一部が首相府や公邸に突入する事態となり、ハシナ氏は首相を辞任した上で国外に逃亡した。今後は軍の介入で暫定政権が樹立され、野党や学生団体が協議して事態収拾を図るとしている。協議の行方は見通せない一方、周辺国を含む国際社会の協力を得つつ民政移管への道筋を描けるか否かが当面の試金石になるであろう。
バングラデシュでは、今年1月に実施された総選挙を経てハシナ前政権を支える与党アワミ連盟(AL)が絶対安定多数を確保し、4期連続、かつ計5期目となる政権を樹立した(注1)。ただし、今回の総選挙を巡っては、政治的に中立な選挙管理内閣を立てる措置を拒否したことを受けて主要野党であるバングラデシュ民族主義党(BNP)などがボイコットしたため、ALによる圧勝が既定路線となっていた。ここ数年のいわゆる「グローバルサウス」と称される新興国においては、外形上は選挙という民主主義的な制度を整えつつも、その内実としては野党を締め出すなど強権姿勢を採る国が増えており、バングラデシュにおいてもそうした体制が長期化することが予想された。他方、総選挙の前後からBNPなど野党はデモをはじめとする実力行使に訴える動きを活発化させるとともに、多数の火災や爆発が発生するなど政情悪化が懸念される動きもみられた。こうしたなか、今年6月から同国においては学生を中心にある出来事をきっかけに政府に対するデモが活発化する動きがみられた。その背景には、1971年のパキスタンからの独立戦争に関連して、同国ではこの戦争に加わった兵士を「解放戦士」として敬意の対象とした上で、その子息を対象に政府職員(公務員)の採用枠の3割を割り当てる優遇策が長年採られてきたことがある。しかし、当該措置を巡って近年は学生などを中心に批判が高まったことを受けて、同国政府は2018年に一旦廃止を決定したものの、今年6月に高等裁判所がこの決定を覆す判断を下したことで学生の間に反発が強まる動きがみられた。なお、政府は高裁の決定を受けて最高裁判所に上訴するとともに、最高裁は高裁の判決を差し止めた上で今月7日に審理を開始することを決定した。ただし、先月には学生デモが活発化して多数の死傷者が出る事態に発展したほか、政府はデモの鎮静化を目的にインターネットを遮断するとともに、全土で夜間外出禁止令を発令して軍隊を配備するなど強硬策に訴える動きをみせた。さらに、政府は公共の場での集会を禁止する措置に動いたものの、その後も学生を中心とするデモ活動は活発の度合いを増したことを受けて、最高裁判所は今月7日に審理開始を予定した判断を先月21日に前倒しした上で、公務員採用枠の優遇枠を『ほぼ全面的に』撤廃するとの判断を下した。最高裁の判断を受けて事態は鎮静化に向かうかが注目されたものの、その後も一部のデモは最高裁の判決内容が不透明であることを理由に抗議活動を継続する方針を堅持したほか、今月に入って以降はデモの要求が一連のデモへの対応を巡って多数の死傷者が発生したことを理由にハシナ前首相の辞任を要求する方向に変化した上で一段と激化の度合いを増した。今月5日には首都ダッカをはじめとする各地でハシナ前首相の辞任を求めるデモ隊と警察が衝突し、多数の死傷者が発生する事態に発展したため、政府は全土に無期限の外出禁止令を発令した上で、治安対策を目的に今月5日から7日まで休日とすることを決定した。とはいえ、その後もデモは一段と活発の度合いを増すとともに、一部が首相府や公邸に突入するなど混乱が広がったことを受けて、ハシナ前首相は辞任した上で国軍のヘリコプターで隣国インドに逃れたことが明らかにされた。これを受けてザマン陸軍参謀長が記者会見を開いた上で、軍による介入の下で暫定政権が樹立されることを明らかにしつつ、デモ隊との協議に応じるとともに事態の鎮静化を呼び掛ける動きをみせた。その後に開かれた暫定政権を巡る協議では、BNP党首のジア前首相やデモを率いた学生指導者らの釈放を決定した上で、与党ALを除く各政党と学生団体が協力して事態収拾を図ることを申し合わせたとされる。なお、学生によるデモがこれほどまでに活発化した一因には、近年の同国経済は縫製品関連を中心とする海外からの投資流入の動きを追い風に高い経済成長を実現しており、足下における1人当たりGDPは2,675ドル(2023-24年度)とインド(2,485ドル)を上回る一方、同国の人口は1.7億人を上回るとともに合計特殊出生率は2.0近くで推移するなど人口増が続くなかで雇用不足が深刻となっていることがある。若年層を中心とする雇用環境が厳しさを増すなかで解放戦士の子孫に対する優遇策が批判の対象となるとともに、ハシナ前政権下での強権姿勢に対する不満も批判を増幅させることに繋がったとみられる。今後は暫定政権の下で悪化した治安の鎮静化が図られるかに注目が集まる一方、野党や学生団体などの要求は必ずしも一致しておらず協議の過程で混乱が再燃する可能性は充分に考えられる。その意味では、周辺国や国際社会の協力を得つつ円滑な民政移管を実現することができるか否かが当面の試金石になると捉えられる。

注1 1月9日付レポート「バングラデシュ総選挙、「グローバルサウス」に広がる強権体制の行方」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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