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バングラデシュ総選挙、「グローバルサウス」に広がる強権体制の行方

~強権体制が広がることにより、世界的な連帯の困難さが増す事態も懸念される~

西濵 徹

要旨
  • 7日のバングラデシュ総選挙ではハシナ政権を支える与党AL(アワミ連盟)が勝利し、ハシナ首相の4期続投と政権5期目入りが確実となった。同国では1990年の民主化以降、ALと主要野党のBNP(バングラデシュ民族主義党)の2大政党が政権を担ったが、2008年末の総選挙を経てハシナ政権が発足して以降は野党や政権への批判に圧力を強める強権体制が採られてきた。結果、今回の総選挙ではBNPがボイコットしたためALの圧勝は既定路線であった一方、投票率は大幅に低下して国民の分断が広がった格好である。BNPはデモなど実力行使を活発化させており、政情不安が深刻化する懸念もくすぶる。他方、同国は欧米のみならず中ロとも一定の友好関係を維持しており、世界的に注目を集める「中間派」のグローバルサウスと称される新興国で強権体制が維持されたことは、世界的な連帯が一段と困難になるリスクを孕んでいる。

7日にバングラデシュで実施された議会総選挙(一院制:定数350)を巡っては、ハシナ政権を支える与党アワミ連盟(AL)が絶対安定多数を獲得するとともに、ハシナ首相の4期続投と同政権の5期目入りが確実になった。同国においては1990年の民主化と翌91年の憲法改正により大統領制から議院内閣制に移行して以降、ALと主要野党であるバングラデシュ民族主義党(BNP)の2大政党による政権交代が行われてきた経緯がある。しかし、2008年末の総選挙を経てハシナ現政権が誕生して以降は、政権が主導する形で鉄道や橋梁、港湾といった大規模インフラ整備を進めることにより高い経済成長を実現する一方、野党や政権に対する批判に対して圧力を強めるなど強権的な姿勢をみせており、国内外から批判が強まっている。きっかけは2014年の総選挙に遡り、それまでは総選挙に際しては中立な選挙管理内閣を立てる措置が採られたものの、ハシナ政権がそうした対応を採らず、BNPが率いる野党18党が総選挙をボイコットする事態に発展し、結果的にALが圧勝してハシナ政権の継続が決定したことがある。他方、2018年の前回総選挙では一転してBNPなど野党も候補者を立てるも、結果的にALが約9割の議席を獲得することに成功したものの、その後に選挙を巡る不正行為が多数指摘されるなどその内容に強く疑念が生じる格好となった。今回の総選挙を巡っても、投票前に多数の野党関係者が拘束されるとともに、今月初めには首都ダッカの裁判所が過去に政界進出を巡ってハシナ氏と対立した経緯があるノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏に対して労働法違反を理由に禁錮6ヶ月の判決を下すなど『圧力』を強める動きをみせたため、その公正さに疑義が生じる動きがみられた。さらに、今回の総選挙においてもハシナ政権は選挙管理内閣の樹立を拒否したことを受けてBNPなどは総選挙をボイコットしており、ALの圧勝は既定路線となっていたと捉えられる。8日に選挙管理委員会が公表した選挙結果によれば、議員定数350のうち300議席を占める小選挙区選出議員についてはALが223議席獲得しており、比例配分の女性枠である50議席の一定割合をALが占めることを勘案すれば、ALが圧倒的多数を確保することが明らかになっている。ただし、野党によるボイコットを受けて国民の総選挙への関心は大幅に低下しており、投票率は41.80%と前回総選挙(80.20%)から大幅に低下して2014年総選挙(39.58%)並みに留まるなど、国民の間の分断が再燃した格好である。なお、今回の総選挙ではいずれの党にも所属しない無所属議員が62議席を確保しており、ハシナ政権に対する批判票の受け皿になったものと捉えられる。他方、BNPなど野党は総選挙を前にデモをはじめとする実力行使に訴える動きを活発化させたほか、投票に際しても多数の火災や爆発が発生するなど政情悪化に歯止めが掛からない事態も懸念される。こうした状況ながら、同国は地理的にインドとASEAN(東南アジア諸国連合)を結ぶ要衝である上、一昨年のウクライナ戦争をきっかけに世界的に欧米などと中ロとの間で分断の動きが広がるなか、同国はロシアによるウクライナ侵攻を巡って国連総会決議を棄権する一方、その後はロシアを批判する動きをみせるなど『どっちつかず』の対応をみせている。この背景には、足下の同国は1人当たりGDPが2500ドル強に留まるなかで海外からの支援を必要としており、欧米や日本などによるODA(政府開発援助)を受け入れる一方、中国による一帯一路に伴うインフラ投資を受け入れるとともに、ロシアの支援により原子力発電所の建設が進められるなど中ロとも友好関係を維持していることがある。よって、米国も今回の総選挙を前に強権的な動きが広がりをみせていることを理由に、選挙妨害を行った人物を対象にビザの発給制限に動いたものの、中ロへの接近を回避すべくそれ以上の措置を採ることが出来なかった事情もうかがえる。昨年にインドが主催した「グローバルサウス(南半球を中心とする途上国)の声サミット」をきっかけにグローバルサウスという言葉ににわかに注目が集まったが、バングラデシュもその一員であるとともに、上述したように欧米にも中ロにも属さない『中間派』の立場を取っていると捉えられる。こうした国において強権体制が維持される結果となったことは、他の新興国においても強権体制が広がりをみせる可能性を少なからず示している上、世界を巡る連帯が一段と困難になることも懸念される。

図表1
図表1

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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