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コロナ前(2019年)と最近(2024年5月)の第三次産業活動指数を比べると、情報サービスが躍進し、紙媒体などの従来型産業の退潮が著しかった。高齢化によって医療サービスは増えても、国内需要は総じて縮小していく。IT化は新しい需要を獲得するチャンスではあるが、それが従来型産業の衰退を加速させている面もある。変革に成功しないと生き残れないということだ。
サービス全体はまだ復元せず
もはや死語になった感があるのが「アフターコロナ」という言葉である。この言葉は、経済正常化によって、産業ごとに業績の明暗が分かれて、新しい局面移行が起こることをイメージしている。実際は、劇的な局面転換は起こらなかったが、調べてみると、「産業ごとの明暗」はかなりはっきりと差がついてきたことがわかった。2024年5月までの経済産業省「第三次産業活動指数」を調べ、コロナ前(2019年平均)に比べて、どんなサービス産業が変化したのかを明らかにしてみた。
まず、活動指数全体はまだ2019年平均(103.1)を2024年5月時点(季節調整値101.6)では回復していない(図表1)。経済再開は2023年5月以降に進んだが、物価上昇が個人消費の重石になって、回復ペースを鈍いものにしている。この第三次産業活動指数は、サービス産業の売上データ等をそれに対応する物価指数でデフレートした実質値である。だから、物価が高騰した分、活動指数が停滞する効果が表れる。その内訳はBtoCだけではなく、BtoBのサービス業種も含んでいるが、総体ではおおむね低調な個人消費統計と同じ動きになっている。ここには、内需型ビジネスが人口減少圧力によって、徐々に勢いを失っている事情もあると考えられる。時間が経てば元に戻るのではなく、人口が減る分だけ、元に戻ろうとしても水準割れしてしまうということだろう。

新しい動き
次に業種ごとの変化に注目してみたい。2019年平均に比べて、2024年5月はどんな業種が大きく伸びているのか(図表2)。

もっとも大きいのは、①金融保険の18.0%増である。その次が②医療福祉の7.8%増、さらに③情報通信の2.3%増と続く。金融保険は、株価上昇で証券会社(金融商品取引業・商品先物取引業)が85.9%と著増している。保険は5.1%と低調で、銀行業・協同組織金融業の方が17.8%と大きく伸びている。株価上昇や金利正常化が追い風になっているとみられる。
医療福祉は、コロナ後も感染拡大の波が残っていることや、そもそも高齢者の増加もあって、引き続き需要が大きいということだろう。情報通信は、伸び率は2.3%と一見低いが、通信を除いた情報サービスでは19.3%と高い伸びである。ソフトウェア開発、サイト運営、インターネットサービスは極めて高い伸び率になっていて、IT化の進展がコロナ禍では目立った変化になり、もう後戻りしそうにないことが窺われる。
筆者は、このIT化こそが、コロナ前とコロナ後を分けるものだと理解している。ビジネスの現場では、Zoomなどを使ってリモートで会議や打ち合わせをすることが一般的になった。おそらく出張や移動ニーズは著しく減り、出勤を前提にしないリモートワークも劇的に増えた。
細かくみると、そうしたIT化=ネット移行は、BtoCの分野で、紙媒体の情報需要を激減させていて、折り込み広告、月刊誌、新聞、書籍需要を大きく減少させている。紙媒体以外でも、音楽・映像ソフト、映画館、交通広告、写真、などの激減が起こっている。
こうした紙離れは、コロナ以前からあっただろうが、この約5年間で退潮が鮮明になっている。情報通信の中には、放送もあるが、テレビ・ラジオなども退潮が著しい。テレビ番組制作・配給は▲17.5%、ラジオ番組制作業は▲26.2%である。若者たちは、映像・音楽のコンテンツをネット経由で仕入れていて、以前よりもテレビ・ラジオを使わなくなっている。
これは、コロナと重なって、IT化の加速が進んで、メディアの優勝劣敗が一段と明確になったということだろう。そうした意味で、「アフターコロナ」とは従来の構造変化を加速させた、という理解ができる。
レジャーも変わる
個別のサービス内容では、やはりネットシフトが色濃く表れる。上位には、公営ギャンブルの競輪、オートレース、競艇、競馬といった娯楽が並ぶ。これは、賭事を競馬場に行かなくても、ネット投票でできるように変わってきたからだ。競輪、オートレース、競艇の活動指数は、2019年に比べて1.5~1.8倍という大きな伸び率になっている。娯楽こそが、ネットシフトによって巨大な潜在需要を掴んだと考えられる。逆に、ネット化できなかったパチンコは需要が大きく落ちてしまった。
では、ネット化しない娯楽はすべてダメかというと、そうでもない。ボクシング、相撲、サッカー、プロ野球の観戦は伸びている。ゴルフも人気が高い。ライブで観るプロスポーツは、コロナでそうした体験ができなかった分、観戦ニーズが見直されて人気が出てきている。音楽・芸術等興業も、コロナ前の1.3倍の伸びになっている。これも、本物志向の復活と言える。
円安メリット・デメリット
日本の消費産業は、国内居住者でみれば、GDP統計が4四半期連続して前期比マイナスを続けているように、極めて厳しい。実質賃金が2年以上のマイナスで、実質的な年金額の調整を受けている高齢者も多いせいである。しかし、消費産業でみると、インバウンド需要がそのマイナス分をいくらかカバーしている。
多くの人が知らないと思うが、GDP統計の個人消費にはインバウンド需要は含まれていない。「インバウンド需要=非居住者家計の国内での直接購入」は、そこに入っていない。つまり、サービス消費の事業者は、家計最終消費ではなく、このインバウンド需要拡大の恩恵を受けていて、最近まで景況感を全体として改善させてきた。
日本人の消費者は、円安・物価上昇で購買力を失っているが、訪日外国人の購買力は日本人よりも旺盛だから、サービス産業はそちらの恩恵によって潤っているのだ。2024年1-3月は年率7兆円台の需要規模に、インバウンド需要は膨らんでいる。ホテル、百貨店、運輸、娯楽、飲食サービスなどは多大なる恩恵を受けて、アフターコロナの世界で復活を遂げている。
しかし、第三次産業活動指数では、円安デメリットも確認できる。日本人の海外旅行は低調で、旅行代理店などは厳しい。国際旅客運送業も、2019年と比べて▲24.0%の活動指数の低下を余儀なくされている。
やはり二極化は進む
2020~2023年までのコロナ禍で隔てられた日本経済は、この期間に進んだIT化(例えばリモート化、オンライン化、キャッシュレス化、ペーパーレス化)によって世界観が変わったと喧伝されてきた。確かに、そうした点はあるが、達観して考えると、人口減少・高齢化などの構造要因で、需要基盤が変容してきている作用も大きいように思える。円安も、貿易構造の変化に起因する構造調整なのかもしれない。
そうした意味で、改めて「アフターコロナの日本経済」を考え直してみると、従来からゆっくりと進んでいた構造変化が約5年間の期間を隔てて、業種ごとに一層の優勝劣敗を生んだということなのだろう。それは、IT化を軸にして新しい需要を捕まえることに成功すれば、生き残ることができて、そうでなければじり貧を続けるしかない。この傾向は、以前からわかっていたことであるが、データに基づいて調べてみると、改めてそうだったと気付かされる。変革しないと生き残れないということだ。
熊野 英生
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