インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国・3中全会、習近平氏が掲げる「中国式現代化」の加速を推進

~欧米などの対立激化は不可避、「多くの複雑な矛盾」を抱える国と如何に付き合うかも大きな課題に~

西濵 徹

要旨
  • 中国共産党は今月15~18日の日程で3中全会を開催した。3中全会では通常中期的な経済政策の運営方針が討議されるが、習近平体制下では統治機構に重点がシフトする動きがみられた。会議後に公表されたコミュニケでは、経済運営面で習近平指導部が主導する中国式現代化の推進が採択され、その実現には国家安全が重視される姿勢が示された。また、対外開放路線を堅持するとしつつ、高質量発展や新質生産力の実現に向けて供給網の強靭化や安全強化など国家安全を重視しており、欧米などとの対立の深刻化は不可避と見込まれる。他方、積極的な内需拡大を図るとしたが、税財政改革・金融改革、不動産・地方政府債務問題に関する認識を示す一方、具体的な方策の言及はないなど問題の難しさもうかがえる。一連の内容は多くの複雑な矛盾を孕むなか、先行きの中国経済は引き続き多くの課題に悩まされる展開が続く一方、中国経済との付き合い方にも様々な課題が突き付けられる展開となることは避けられそうにない。

中国共産党は今月15~18日の日程で3中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)を開催した。3中全会とは、共産党大会において選出された党指導部が開催する3回目の全体会議であり、通常は中長期的な経済政策の運営方針が討議される。過去には1978年の第11期3中全会では改革・開放路線が確認され、1993年の第14期3中全会では社会主義市場経済体制の確立に向けた決定が採択、2003年の第16期3中全会でも社会主義市場経済体制の整備に向けた決定が採択されるなど、経済政策の重要な方向性を決める重要な会議となってきた。習近平指導部の下でも、2013年の第18期3中全会では一人っ子政策の緩和に加え、資源配分において市場に決定的な役割を果たさせる方針が確認される一方、同時に国家安全委員会の創設が決定するとともに、2018年の第19期3中全会では党、及び国家機構の改革案が内定される動きがみられるなど、経済以上に統治機構に政策の重点がシフトする動きがみられた。さらに、3中全会は党大会の1年後に開催されることが通例となっているものの、今回の第20期3中全会は2022年に開催された党大会(第20回中国共産党全国代表大会)から2年後となるなどスケジュールが大きくずれ込んだ。こうした背景には、習近平指導部の下では「反腐敗・反汚職」を旗印に高級幹部の摘発を進めることで統制を強化するとともに、党中央を自身の腹心で固める動きをみせてきたことがある。一昨年の党大会を経て習近平指導部は3期目入りを果たすとともに、党内基盤も盤石になる一方、足下の同国経済は低迷が続くなど国民の不満が溜まりやすい環境にある上、人民解放軍を巡っても規律低下が懸念されるなど不透明感が高まっている。よって、習近平指導部は党大会後も反腐敗の動きを強化しており、昨年から今年前半にかけても多数の高級幹部が摘発され、その数は過去最多となっているほか、なかには現職閣僚が突如失脚するなど国民の間に高まる不満の「ガス抜き」を狙ったとみられる動きも顕在化してきた。こうした事情も3中全会のスケジュールが後ズレする一因になったと考えられる。他方、足下の中国経済を巡っては、不動産の過剰在庫が幅広く内需の足かせになるとともに、金融市場におけるリスク要因となることが懸念される状況が続いているほか、習近平指導部が主導する「新質生産力(新たな質の生産力)」を追い風にした過剰生産能力を巡って欧米などが対中姿勢を硬化させるなど、内・外需双方に不透明要因が山積する状況にある。今回の3中全会ではこうした問題に対して中長期的な観点から何らかの対応が示されるとの見方が出ていた。会議後に公表されたコミュニケでは、経済運営方針を巡って習近平指導部が主導する「中国式現代化(欧米などと異なる経済発展モデル)」の推進に向けた決定を採択するなど、中国が『異質の国』であることを前面に押し出した上で、国家の安全がその実現に向けた基礎になるとともに、党の指導レベルを引き上げるなど従来通り経済よりも国家安全を主軸とする方針が示されている。その上で、一昨年の党大会で確認された2035年を目途とする「社会主義現代化」の基本的な実現を図るとともに、その実現に向けて中華人民共和国の建国80周年に当たる2029年を目途に3中全会で打ち出した改革の任務の完遂を目指す方針を明らかにしている。その上で、経済政策面では過剰生産能力の削減に向けて供給側改革を深化するとして、欧米などの批判に対応する考えをみせるとともに、対外開放路線の堅持による対内直接投資の呼び込みを図りたいとの思惑が透ける。その一方で、経済運営を巡っては「高質量発展(高い質の発展)」を最重要任務とするほか、科学技術を通じた新質生産力の育成を重視するとしており、その実現に向けて供給網(サプライチェーン)の強靭さと安全レベルの引き上げなど国家の安全を念頭に置いた動きが活発化すると見込まれる。よって、戦略分野などを中心に欧米などとの対立が一段と激化することは避けられない上、11月の大統領選を前に米国の対中姿勢が一段と硬化する動きをみせていることを勘案すれば(注1)、先行きの両国関係は緊張の度合いが増していくことが予想される。なお、需要サイドを巡る問題には積極的な内需拡大を図るとして、税財政と金融の改革深化を図る方針のほか、不動産や地方政府債務を巡る問題についても重点リスクの抑制を図るとの方針が示されたものの、これらに関する具体的な方針の言及はなく、課題を認識する姿勢こそ示すも方針転換の難しさを浮き彫りにしたものと捉えられる。ここ数年の中国経済は、習近平指導部の下で民間企業に対する統制が強化される一方、あらゆる分野で国有企業が重視されるなどいわゆる「国進民退」色が強まっており、指導部による高質量発展や新質生産力といったスローガンの下で一部の企業や科学技術など世界的な競争力を有する分野が生まれるなどミクロ的な明るさがみられるものの、マクロ的な中国経済は課題が山積するなど厳しい状況に直面している。コミュニケで示された内容は『多くの複雑な矛盾』を孕むなど課題のクリアは平たんではないなか、先行きの中国経済は引き続き多くの課題に悩まされる展開が続く一方、中国経済との付き合い方にも様々な課題が突き付けられることになろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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