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2024.07.16
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資産運用のキホン~その14:海外資産への投資に必要な為替相場とは~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 為替相場は二国間の通貨の交換レートで、海外の資産で運用する際には、大きな影響を及ぼす可能性がある。一般的には、円安は外国資産の運用益にプラス、円高はマイナスとなる。
- 為替相場を動かす主な要因として、①二国間の金利差、②対外収支バランス、③物価、が挙げられる。
- 為替相場は株や債券以上に多くの要因に影響を受けるといわれている。
外国資産への投資に大きく影響する為替相場
為替相場とは、二国間の通貨の交換レートで、世界の為替市場において取引されており、24時間、1年中変化する可能性がある。海外旅行などで接する機会は多く、株や投資信託への投資をした経験がない人でも、為替相場の変動が意味するところは広く認知されていると言っていいだろう。
ちなみに、「ドル円」と表記されていれば1米ドルあたりの日本円の価格(1ドル=160円など)、「ユーロドル」と表記されていれば1ユーロあたりの米ドルの価格(1ユーロ=1.0821ドルなど)を指す(前に表記されている通貨に対する後に表記されている通貨の価格)。
「円高」や「円安」という言葉が勘違いを生むことも多い。たとえば、1ドル=100円から1ドル=110円に変化すると「円安」になったことになるが、100円から110円に変化したことを「安」と呼ぶことが混乱を招きやすいようだ。この場合、1ドルを買うのに以前は100円だったものが、110円に値上がりした、すなわちドルの価格が高くなった(ドル高)ので、相対的に円の価格が安くなった(円安)ということになる。ちなみに、為替市場では単に“ドル円が上昇”などと表記されることがあるが、これは“ドル高円安”になったということを指す(円高に振れた場合は“ドル円が下落”となる)。
運用環境を考えると、日本ではバブル崩壊後長期間にわたって株価は低迷し、金利もほぼゼロと超低水準での推移が常態化するなど、厳しい環境が続いた。このため、より良い資産運用パフォーマンスを求めると、海外市場に目を向けざるを得なかった。ここ数年は日本株も上昇基調を強め、ようやく日経平均株価指数は過去最高値を更新するなど好調に推移しているものの、金利については日銀が利上げを模索するような環境になったとはいいえ、海外金利と比べれば比較するまでもないほどの低さは続いている。このため、海外資産への投資は特に債券投資信託などで高い人気を誇る。
しかし、外国の株や債券に投資をするということは、外国のものを購入することと同じで、その時々の為替レートの影響を受ける。
たとえば、100ドルの米国株を購入する場合、ドル円相場が1ドル=100円であれば、日本円で
100ドル(株価)×100円(ドル円相場)=1万円
が必要になる。
この株を購入したとして、為替相場が1ドル=110円へと10%円安になると、円建てでの評価額は
100ドル(株価)×110円(ドル円相場)=1万1千円
と、株価が上昇しなくても円建てでの評価額は為替が円安に変動した分(10%)だけ上昇する。このように為替相場の変動による利益を為替差益(かわせさえき)という。
逆に、ドル円相場が1ドル=90円と10%円高になれば、日本円では
100ドル(株価)×90円(ドル円相場)=9000円
と、円建てでの評価額は為替が円高に変動した分(10%)だけ下落する。このように為替相場の変動による損失を為替差損(かわせさそん)という。
外国資産を保有している場合、為替相場が円安になればプラス要因(為替差益:為替が円安になった割合だけ、円建てでの外国資産の評価額が上昇)、円高になればマイナス要因(為替差損:為替が円高になった割合だけ、円建てでの外国資産の評価額が下落)となる。
為替相場の変動要因は何か
為替相場は、言い換えてみれば通貨の価格だ。たとえば、ドル円であれば1ドルあたりの日本円の価格と言い換えることができる。ところで、モノやサービスの値段(価格)は需要と供給のバランスで決まると考えられる。たとえば、キャベツが豊作で需給が緩和(需要に対し供給が多すぎる)するとキャベツの価格は下落し、同じく不作で需給が引き締まれば(需要に対し供給が少なすぎる)キャベツの価格は上昇する。これと同じで、為替相場も基本的には需給のバランスで決まる。では何の需給かというと、それは通貨(お金)の需給となる。つまり、お金が多く流入する(需要が強まる)国の通貨が上昇する。こうした観点を含めて、為替相場の主な変動要因を以下に挙げる。
為替の変動要因1:二国間の金利差
資産を増やすという観点で考えれば、金利は高い方が良い。したがって、二国間の金利水準が異なっていれば、お金は低い国から高い国へと流れやすくなる。このとき、金利が低い国の通貨を売って、金利が高い国の通貨を買うため、高金利通貨の価格が上昇し、低金利通貨の価格は下落する。
たとえば、米国の金利が4%、日本の金利が0%のとき、為替レートが1ドル=140円で推移していたとする。ここで、米国の金利が5%に上昇すれば、日米の金利差がそれまでの4%から5%に拡大する。これに応じて、日本から米国にお金が流れれば、その分だけ円が売られてドルが買われるため、為替レートは例えば1ドル=150円へと円安ドル高に動く。
二国間の金利差は、為替の変動要因とされるものの中で最も基本的な考え方で、為替相場の日々の変動も、金利観(金利の先行きの変動に対する見方)によるところが大きい。ただし、金利にも様々な種類があり、「どの金利の金利差か」については様々な見方もあり、また局面によって異なってくる。基本的には政策金利差が影響すると考えられるが、政策金利との連動性が高い短期金利や、将来の政策金利の変化などを織り込みながら変動する長期金利差(10年物国債の利回り差)などが注目される。また、それぞれの金利から物価上昇率を差し引いた実質長期金利差や実質短期金利差なども、為替相場の重要な変動要因の一つと考えられる。

為替の変動要因2:対外収支バランス(経常取引)
国内外の資金の移動が発生すれば、日本円や外貨の需要に繋がるため、為替相場の変動要因となる。たとえば、かつて日本は巨額の貿易黒字国であった。これは、輸出して稼いだ外貨を円に換える(円買い)金額の方が、輸入するために円を外貨に換える(円売り)金額よりも多いことを示す。したがって、円買い需要の方が円売り需要よりも大きいことから円高要因となった。しかし、今では海外現地生産が進んだことによる輸出の伸び悩みや、資源価格高騰の影響による輸入の増加などもあって、貿易赤字が定着し始めている。先ほどの例とは真逆になっており、これは円安要因となる。
海外との資金のやり取りは貿易取引にとどまらない。海外との資金のやり取りをより包括的に見たものが経常(けいじょう)収支で、貿易収支にサービス収支(旅行者の収支や輸送費、その他サービス収支など)、第一次所得収支(工場を作るなどの直接投資収支や株式の配当金などの証券投資収支、利子など)、第二次所得収支(寄付など)を合わせたものだ。今の日本では、経常収支は引き続き黒字のため、一見すると円の需要の方が大きいように見える。
しかし、経常収支の黒字を稼いでいる主因の第一次所得収支は、直接投資や証券投資など黒字を稼いでもそのまま海外で再投資されるケースが多く、円に転換する(円買い)需要をあまり伴わない。この第一次所得収支の黒字を差し引くと、経常収支は赤字になってしまい、結果的に円安要因になっていると考えられる。
このほか最近では、サービス収支に含まれるその他サービスも注目されている。その他サービスには、通信・コンピューター・情報サービス、著作権使用料、専門・経営コンサルティングサービスといったいわゆるデジタルサービスが含まれ、赤字額が拡大傾向を辿っている。たとえば、ChatGPTの利用料などもこれに含まれており、デジタル赤字は年々拡大していき、円安圧力が高まっていくのではないかと考えられている。

為替の変動要因3:物価
ある意味で、物価は為替変動の根本的な要因だ。たとえば、日本で100円、米国では1ドルで売っている商品があるとする。この場合、同じものを買うには日本では100円、米国では1ドルが必要なので、両者の価値が同じであるとするならば、ドル円相場は1ドル=100円ということになる。ここで、日本では物価が年0%、米国では年2%上昇していたとすると、先ほどの商品は1年後に日本では100円、米国では1.02ドルに上昇する。このときも両者の価値が同じであるとするならば、1.02ドル=100円となるので、ドル円相場は1ドル≒98.04円(100円÷1.02ドル)と、1年前に比べて円高ドル安になる。
このように、物価の上昇率が高い方の国の通貨には下落圧力がかかる。そもそも“物価が上昇する”とは、“モノやサービスの価格が上昇する=お金の価値が下落する”ということだ。お金の価値とはその国の通貨の価値ということなので、為替相場(二国間の通貨の交換レート)は物価の上昇率が高い国の通貨が下落し、上昇率が低い国の通貨が上昇することに結びつく。
以上挙げた要因に絡む様々な材料も為替相場を動かす。たとえば、経済指標や中央銀行の動き(金融政策のほか関係者の発言など)などだ。
経済指標であれば、景気が良いことを示す経済指標は、将来の物価上昇圧力を高め、金利の上昇要因に繋がる可能性がある。金利の上昇(先高感)はその国の為替レートの上昇要因となる。したがって、二国間の相対感はあるが、強い経済指標は通貨高要因となる。
また、中央銀行が利上げを実施する、あるいは近い将来の利上げを示唆する発言などがあれば、これもその国の通貨高要因となる。
このほか、政治動向や地政学的リスク(戦争など)、その国のリスクに関わる要素も為替相場に影響を及ぼすことがある。
一般的に、為替に限らず金融市場は政治の不安定化をリスクと評価する(先行きが読みにくくなるため)。これによって財政悪化懸念が高まれば債券市場では債券の売り、すなわち金利上昇要因となるが、為替市場では金利上昇に反応せず、その国の通貨の下落要因になる可能性もある。
地政学的リスクに関しては、戦争当事国はもとより、周辺国でも治安の悪化や政治の不安定化、戦争に巻き込まれるリスク、経済活動の低下懸念から、通貨安要因となる可能性がある。周辺国ではなくても、たとえば資源国で戦争などが起こった場合、その国の資源に依存している度合いが高い国の通貨が売られるリスクが高まる。
このように、為替市場は株式や債券市場以上に多くの要因に影響を受ける可能性がある。特に局面が変化するポイント(金融政策の転換など)では、為替相場の動きも急激なものとなる。「外国株の運用益が為替差損でゼロになった」ということもあり得るので、外国資産に投資をする際には為替の動きにも注意を払いたい。
「資産運用のキホン~その15」では、為替の変動リスクを抑える為替ヘッジについて解説する。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 嶌峰 義清
しまみね よしきよ
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経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学
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