- 要旨
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6月会合では、次回、長期国債買い入れの減額を予告した。しかし、マーケットの反応は、予告のみに終わった消極姿勢から円安加速となった。これで日銀には円安是正に動くことを要請される圧力がさらに強まるだろう。
予告に終わった買入減額
6月13・14日の日銀会合は、長期国債買入金額の減額方針を決めた。しかし、日銀はいかにも慎重だった。「市場参加者の意見も確認し、次回会合において、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」と発表文には書かれている。植田総裁の会見では、減額は「予見可能性のあるかたちで」という説明であった。具体的なことは次回に決める方針なのだという。
筆者は、正直、この6月会合で、はっきりといくら減額すると伝えてくるのかと思っていた。そこは次回に決めるとした。「次回に」というのは、従来、日銀が時間稼ぎをするときに使っていた手法だ。なぜ、今、時間を稼ぐのかがわからない。
次回会合で今後1~2年程度の減額計画を立てるというが、植田総裁は、「この1~2年で適切な水準までは到達できるとは思っていない」、「まずはやってみて考える」と付け加えている。5月13日に、5~10年の買入額を▲500億円ほど減額することを伝えてきたときから、もっと早急な量的調整が予想されていたが、実際の日銀は、予想外に慎重だった。この弱腰の姿勢は、マーケットでの過剰反応を恐れてのことだろう。しかし、その姿勢はあまりに過剰な弱腰なので、逆に緩和縮小がゆっくりになることを強く連想させている。
その結果、マーケットの反応は、またしても円安加速となった。ドル円レートの推移は、この決定が発表された直後は、一気に円安に振れた。日銀は強い姿勢で、緩和修正をしてこないという印象だったからだ。またしても日銀の誤算だったと思わせる。
減額の意味
以前は、日銀は6兆円程度の毎月の長期国債の買い入れは動かさない方針だった。少なくとも、3月19日のマイナス金利解除のときはそうだった。
しかし、日銀の想定以上に円安が進んだ。潜在的な物価上昇圧力が高まったということだ。5月7日には、岸田首相が植田総裁を官邸に呼んでいる。円安対策の意向を伝えたと考えられている。6月会合での国債買入減額は、その円安対策の一環だと考えられてきた。総裁会見でも、植田総裁は円安進行が物価上昇要因になる点を問題視した。
目下、長期金利の水準は、一時1.00%を超えるまでになっている(図表)。それに応じて、日米長期金利差の縮小がさらに促されるかと思われた。計算上は、日米長期金利差は、▲0.25%ポイントの縮小で▲4.1円/ドルの円高圧力、▲0.50%ポイントの縮小で▲8.2円/ドルの円高圧力になる。例えば、3月19日のマイナス金利解除のときは長期金利は0.74%だったから、それが1.00%になると、ドル円レートは▲4円程度の円高圧力になったと考えられる。まだ、この程度の修正では、十分に円安是正ができないということだろう。

もう少し長い意味では、債券市場の機能正常化を日銀は狙っている。まだ、本格的な政策金利の引き上げは実施していないが、もしも、追加利上げが何回も繰り返される予想が強まると、長期金利は先々を読んで上昇が進む。そのときに、国債売買の厚みが膨らんで、債券市場の流動性が高まっていると、長期金利は乱高下しにくくなる。日銀の買入額が縮小するほど、市中消化額は増えて、売買も活発化するだろう。黒田緩和の時代は、日銀が国債買い入れを膨らませて、市場取引を人為的にタイト化させた。YCCの下でも、金利をコントロールして、市場に金利形成を完全に任せることはしなかった。そうした時代が続いた結果、長期国債の市場は機能が低下してしまった。金利形成の正常化は、単に日銀が利上げをするだけではなく、債券市場での機能回復も重要になってくる。
周回遅れの意味
6月の金融政策は、ECBとFRBで動きがあった。ECBは利下げを決めた。政策金利を4.00%→3.75%へと下げた。FRBは、ドットチャートで、2024年末までの利下げの回数を3回(3月時点)から1回に減らした。事実上、利下げ開始を遅らせたことになる。
本来は、日銀にとって、各国が引き締めからの修正が始まる前に、何回か利上げをしておきたかったと考えられる。欧米の利下げに転じる時期に日銀が利上げをすると、円高になりやすいからだ。
しかし、この周回遅れリスクの解釈は、的外れだという見方もできる。現在の日銀にとっては、過剰な円安こそが問題だからだ。日銀の追加利上げが遅れるほどに、過剰な円安が進む。国内政治からは、日銀に緩和是正を求める声が出る。植田総裁が慎重であるほど、円安が進むから、その弊害を阻止するために日銀には、追加利上げを促す圧力が生じる。これは、少しうがった見方だと思うが、日銀が円安阻止をしくじると、政治の方から追加利上げを求める声が強まる。植田総裁がそれを意図的にやっているかどうかは不明であるが、ECBやFRBに比べて周回遅れだから日銀には不利だという紋切り型の理解は成り立たない。
次回は動くか?
筆者は、次回7月30・31日の会合で、追加利上げをする可能性があるとみている。これは、今後の日銀を取り巻く環境次第であるが、おそらく、円安が加速することが日銀への緩和修正の要請になるであろう。仮に、ドル円レートが1ドル160円を超えていく円安になると、為替介入の可能性が高まる。財務省の為替介入が何回もできない分、日銀にも円安阻止に動いてほしいという政府からの要請も強まるだろう。
熊野 英生
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