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資産運用のキホン ~その5:物価上昇のもとでは預金金利が物価上昇率を上回り続けることは難しい~

嶌峰 義清

要旨
  • 普通預金金利の指針は無担保コールレート(翌日物)であり、日銀の政策金利となっている。一方、1年以上の定期預金金利は10年物国債利回りが指針となっている。

  • 過去の大半の期間で、預金金利は指針となる金利水準を下回っている。

  • 定期預金金利でも、物価上昇時には実質的な価値は目減りするため、資産減少に繋がる。

預金金利も中央銀行の金融政策が元となる

預金金利は市場で取引される金利をもとに決定される。金利には取引期間(満期までの期間、と考えて差し支えない)に応じて短期金利、長期金利などと分類される。普通預金や満期が1年未満の定期預金金利であれば短期金利、1年以上の定期預金の金利は長期金利が参照される。

短期金利の指針となるのは、日銀が政策金利として設定している無担保コールレート(翌日物)だ。無担保コールレート(翌日物)とは、金融機関が日々の短期的な資金の過不足を調整するための取引を行うコール市場で取引される資金貸借のうち、資金の受払の翌営業日を返済期日とする無担保での資金貸借を行う際にかかる金利のことだ。“翌日返済・担保なし”なので無担保(翌日物)ということだ。金利水準は本来金融機関同士の資金のやり取りの中で日々変化する。日銀はコール市場において資金の総量を変化させることで、無担保コールレート(翌日物)の水準を、日銀が望ましいとする誘導目標水準にコントロールしている。

無担保コールレート(翌日物)の推移
無担保コールレート(翌日物)の推移

無担保コールレート(翌日物)は、金融機関が資金調達を行う際の、最も基本的な金利となる(貸借期間が翌日と短く、担保を取らないため)。普通預金や満期が1年未満の定期預金金利が無担保コールレート(翌日物)を指針とするのは、貸借期間が短い資金のやりとりをする際の金利の基本となるのが無担保コールレート(翌日物)であるためだ。

ところで、無担保コールレート(翌日物)が変化すれば、より貸借期間の長い金利にも影響が及ぶ。お金を貸す際、返済(満期)までの期間が長くなればなるほど、様々なリスクに晒される。貸し出した相手が破綻して返済されないリスクや、物価が上昇することによってお金の価値が目減りしてしまうリスクなどがある。こうしたリスクは返済までの期間が長くなればなるほど大きくなる。このため、通常は短期金利よりも長期金利の方が金利水準は高く、また長期になればなるほど高くなる。

簡略化すれば、短期金利と長期金利との間には以下のような関係がある。

  長期金利=短期金利+期間に応じたリスク

上式で、短期金利は日銀が政策金利としてコントロールしている無担保コールレートが指針になると説明した。したがって、長期金利も日銀の金融政策の影響を受けているといえる。

長期金利は様々なリスクを含有する

長期金利の指針となるのは、10年物国債の利回りだ。10年物国債とは、国が発行する国債のうち、償還(満期)までの期間が10年で発行されるものだ。国債の発行は主に入札で行われ、店頭取引(証券会社など)と取引所取引(証券取引所)へと流通する。このうち、取引所取引においては日々売買され、株と同じように価格が変動し、これに合わせて利回り(金利)も変動する。

10年国債利回りの推移(月末値)
10年国債利回りの推移(月末値)

ここでの利回り(金利)は、前述したように先々の様々なリスクを織り込む形となる。その中でも将来の物価変動リスクと金融政策の変更リスク、国債の発行元である国の財政悪化リスクは、10年物国債の利回り(金利)にも大きな影響を及ぼす。例えば、将来物価上昇率が加速するとの予想が強まれば、10年物国債利回りも上昇する(市場参加者がより利回りの高い国債を求める)。同様に、将来日銀が政策金利(無担保コールレート(翌日物))の誘導目標水準を引き上げるとの予想が強まれば、10年物国債利回りも上昇する。また、財政状況が悪化する、すなわち財政赤字が拡大すれば、その分だけ国債の発行額も増え、国の国債償還(約束した金額で満期時に国債を買い戻してくれる)に対する信用度が揺らぐかもしれない。そのため、財政状況が悪化すればするほど、国債利回り(金利)には上昇圧力がかかる(借金を多く抱えている人は、借金が返せなくなるリスクが高いと判断され、より高い金利でないとお金を借りられない、と同じ)。

したがって、前述した短期金利と長期金利との関係を示す式、

  長期金利=短期金利+期間に応じたリスク

のうち、【期間に応じたリスク】の部分には、物価上昇リスクや将来の金融政策変更リスク、破綻リスクなどが入る。特に破綻リスクについては、国債であれば国、社債であればその社債の発行企業、貸出金であれば借入者に応じて変化する。特に債券の場合は、そうした発行者のリスクに応じて格付けが格付け機関より付与されており、利回り(金利)に大きな影響を与えている(詳細は別の機会に解説予定)。

定期預金金利でも、物価上昇時は実質的に価値が減少する

銀行の預金金利は普通預金であれば無担保コールレート、定期預金金利であれば10年物国債利回りを下回った水準にとどまるのが普通だ。

バブル崩壊以降の10年物国債利回りと定期預金金利(預入金額300万円未満、預入期間別平均)を比較すると、10年債利回りがマイナスを記録した時期を除き、大半の期間で定期預金金利は10年物国債利回りを下回っている。

10年国債利回りと定期預金金利の推移
10年国債利回りと定期預金金利の推移

さらに、消費者物価上昇率(前年同月比上昇率)と定期預金金利から物価上昇率を引いた実質定期預金金利の推移を見ると、消費者物価上昇率がプラスの局面、すなわち物価が上昇している局面では、大半の期間で実質定期預金金利はマイナスとなっている。実質定期預金金利がマイナスと言うことは、物価の上昇によって定期預金に預けているお金の購買力が落ちていく、すなわち預ける期間が長くなる分変える物が少なくなっていくことを示している。このように、物価が上昇していく世界では、預貯金で資産を増やすことは非常に難しいといえる。そこで、「資産運用のキホン~その6」以降では、いよいよ資産を増やす可能性のある有価証券について、まずは株式投資について基本的なことを解説する。

消費者物価と実質定期預金金利の推移
消費者物価と実質定期預金金利の推移

(補足)日銀の金利引き上げ余地は小さい(=預金金利の上昇余地も小さい)

日銀は、物価の安定を金融政策の主目標としている。具体的には、消費者物価上昇率が2%程度で安定して上昇すること、を物価の安定と定めている。そのため、物価上昇率が目標を下回り続けるリスクが高いと判断すれば、物価上昇率を押し上げるような金融政策を行い、逆に物価上昇率が目標を上回り続けるリスクが高いと判断すれば、物価上昇率を押し下げるような金融政策を行う。

ところで、物価は一般的に需要と供給のバランス(需給バナンス)で決まると考えられる。たとえば、豊漁でサンマが需要を大幅に上回るほど獲れれば、サンマの値段は下がる。これは、需要(食べる量)に対して供給(サンマが獲れた量)が増えすぎた結果需給が緩和し、価格(物価)が下がったと考えられる。逆に、不漁でサンマが需要を満たすほど獲れなければ、需給は引き締まって価格(物価)は上がる。

したがって、日銀が物価を上げようとするためには、国内の需給が引き締まるような政策を執れば良いし、逆に物価を下げようとすれば、需給を緩和させるような政策を執れば良い。ところで、国内の需給が引き締まった状態は、景気が良い状態だ。需要が強まり、供給が追いつかなくなるような状態だ。景気を良くするためには、できるだけ金利を低くして、人や企業がお金を借りて消費したり投資したりしやすい環境を作れば良い。逆に物価を下げるためには、金利を引き上げてお金を借りにくい環境を作り、需要を押し下げて需給を緩和させれば良い。

つまり、物価を上げるためには金利を下げて景気を刺激する、物価を下げるためには金利を上げて景気を抑制する、というのが日銀に限らず、中央銀行の金融政策の基本となる。

ではどの程度金利を動かせば効果が出るのか。金利は上昇すればするほど景気抑制効果が高まり、低下すればするほど景気刺激効果が高まる。そのどちらの効果も発生しないニュートラルな金利水準が存在すると考えられ、これを中立金利と呼んでいる。中立金利の水準は、その国の潜在成長率(実力の成長率とも言われ、人口の伸びと生産性の伸びを足したものと考えられる)で決まるとされ、国によってその水準は大きく異なるし、同じ国でも時代によって変化する。

日銀によれば、足元の日本の中立金利水準は、実質値(期待インフレ率=予想インフレ率を差し引いた水準)でみて▲1.0~+0.5%程度、としている。したがって、この水準に期待インフレ率を足せば、景気に対する影響がニュートラルな金利水準となる。ここで、期待インフレ率が“日銀が目指す2%を恒常的に維持できるとまでは期待できないものの、物価の上昇基調自体は続く”と考えれば、概ね1.0~1.5%程度と言えるだろう。これに前述した日銀が算出した実質値を足すと、中立金利水準は0.0~2.0%程度となる。そこで、その中間値となる1.0%を中立金利とすれば、これが景気の抑制と刺激の分水嶺の水準となる。つまり、インフレが2%を超えて加速していくリスクが高い、と日銀が判断すれば無担保コールレート(翌日物)の誘導目標水準を1.0%よりも高くするということになる。

ちなみに、長期的に見れば、中立金利水準は今後切り下がってくる可能性が高い。というのも、人口減少傾向が続く日本では、人口減少ペースを上回るような生産性の向上が無い限り、潜在成長率が鈍化傾向を辿るからだ。加えて、そのような日本で日銀が景気を抑制しなければならないと判断するほど、インフレが加速する状態が続くとは考えにくい(日本の国際的な信用力が落ちるなどして、円が暴落すれば話は別だが)。したがって、日銀の政策金利である無担保コールレートが1%を超える期間はそう多くはないだろう。今の水準(0.0%)から見れば、金利の引き上げ余地は最大でも1%程度と考えられる。

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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