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2024.06.07
アジア経済
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インド中銀、インフレの持続的低下を重視する考えをあらためて強調
~物価が総選挙を左右したなか、中銀は物価安定による持続的成長を支える姿勢を重視~
西濵 徹
- 要旨
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- インドの総選挙は4日に一斉開票が行われ、モディ政権を支える与党連合は半数上回る議席を確保して政権3期目入りの公算が高まる一方、議席を減らすなど事前予想に反する結果となった。雇用と物価が低所得者層や貧困層を中心に与党からの離反を招いたとみられるなか、足下のインフレは中銀目標域で推移するも、食料インフレが続くなど難しい状況に直面している。中銀は7日の定例会合で8会合連続の金利据え置きを決定したが、6人の政策委員のうち2人が利下げを主張するなど票割れした。しかし、会合後に公表した声明文ではインフレを目標(4%)に持続的に低下させる必要性を強調するなど物価安定を重視する考えをみせる。中銀は先行きも物価安定を重視して引き締め姿勢を維持する可能性が高まっている。
インドでは、4月半ばから1ヶ月半に亘る連邦議会下院(ローク・サバー)総選挙が行われ、4日に実施された一斉開票の結果、最大与党BJP(インド人民党)を中心とする与党連合(NDA(国民民主同盟))は半数を上回る議席を獲得してモディ政権は3期目入りする公算が高まる一方、BJPは大幅に議席を減らすとともに目標とした獲得議席数に遠く及ばないなど事前予想に反する結果となった(注1)。なお、足下の景気を巡っては、政府統計上は昨年度(2023-24年度)の経済成長率が+8.2%と前年度(+7.0%)から加速するとともに、モディ政権下での平均成長率はコロナ禍による下振れにも拘らず6%程度と好調に推移しており、統計に対する疑念がくすぶるなかでも経済成長を実現していることは間違いないと捉えられる(注2)。ただし、このところの経済成長はIT関連をはじめとするサービス業がけん引役となる一方、モディ政権が発足当初に掲げた製造業をけん引役にした経済成長にはほど遠い状況が続いている上、雇用創出力の低さも理由に若年層を中心に雇用環境は厳しい展開が続くなど経済成長の恩恵を受けられない層が多数生まれている。さらに、同国では国民の6割以上が依然として農村に居住するなか、ここ数年は異常気象の頻発を理由とする生育不良のほか、ウクライナ戦争を受けた農薬などの物価上昇、金利高も重なり農業従事者を取り巻く環境は一段と厳しさを増す状況が続いている。足下のインフレ率は商品高の一巡に加え、過去1年半近くに亘って当局が為替介入を実施してルピー相場の安定を図っていることも重なり(注3)、中銀目標(4±2%)の範囲内で推移するなど落ち着きを取り戻しているが、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心に物価上昇が続きており、低所得者層や貧困層などにとりわけ悪影響が出やすい状況が続いている。こうしたことが総選挙で与党連合が予想外の苦戦を強いられる一因になったとみられるなか、中銀は7日に開催した定例会合で政策金利(レポ金利)を8会合連続で6.50%に据え置き、政策の方向性も「景気に配慮しつつ、インフレ目標への収束を確実にすべく金融緩和の解除に注力する」との方針を維持した。会合後に公表した声明文では6人の政策委員のうち2人(ゴヤル委員(インディラ・ガンディー開発研究所教授)とヴァルマ委員(インド経営大学院アーメダバード校教授))が25bpの利下げと政策の方向性を「中立」に変更するよう主張したことを明らかにしている。なお、世界経済について「リバランスが進んで安定した成長が見込まれる」とした上で、同国経済についても「力強い景気回復が見込まれるほか、今年のモンスーン(雨季)の雨量は例年を上回ると見込まれるなど良好な条件が揃う」とした上で「今年度の経済成長率は+7.2%と見込まれ、リスクはバランスしている」との見通しを示している。物価動向についても「伸びは鈍化しているが食料インフレは根強い」としつつ、先行きは「食料インフレの動向には不確実性があるが、モンスーンの雨量が例年並みとなれば緩和が進み、今年度のインフレ率は+4.5%となり、リスクはバランスしている」との見方を示している。その上で、先行きの政策運営を巡って「インフレが目標(4%)に向けて低下、安定化するまで食料インフレがコアインフレやインフレ期待に与える影響を注視する必要があり、インフレが目標に向けて持続的に低下するまで景気を下支えしつつ、緩和の撤回に引き続き重心を置くことが適切」とするなど、現行のスタンスを維持する考えをあらためて強調している。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のダス総裁は「中銀の職務には冷静さと忍耐、粘り強さが必要である」とした上で、「足下のインフレを巡って我々は正しい方向に進んでいるが、まだやるべきことはあり、景気が堅調な推移をみせるなかで現状は引き続き物価安定に焦点を充ててインフレ期待を効果的に固定して持続可能な経済成長に資する環境を提供することが肝要」と述べるなど物価安定に重点を置く考えをみせている。上述のように総選挙を巡っては物価が『難敵』となったことが明らかになったなか(注4)、中銀は今後もインフレ率を目標に抑えるべく引き締め姿勢を維持する対応を続けることが予想される。



注1 6月5日付レポート「インド総選挙、与党連合過半維持もBJP議席減、モディ政権とインド経済は」
注2 6月3日付レポート「インド経済はいよいよ「日本超え」が射程に入りつつあるか」
注3 2023年12月20日付レポート「IMFがインドの為替制度に「注文」、インド当局はこうした見解に反論」
注4 4月8日付レポート「インド総選挙、モディ政権にとっての「ラスボス」は野党ではなく物価か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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