骨太方針2024論戦の注目点

~「規模ありきの財政健全化」から脱却できるか~

星野 卓也

要旨
  • 経済財政諮問会議より骨太方針の骨子案が公表。今年の骨太では財政再建目標の見直しを実施へ。目標見直しの内容はさることながら、実質的に毎年の予算編成ルールとなっている「歳出の目安」の扱いがどうなるかがより重要である。
  • 政府は過去敷かれてきた歳出目安が歳出効率化に貢献してきた旨を示している。しかし、同時に当初予算編成を制約、補正予算や基金の膨張を生み、「補正を緩めて当初を絞る」といったスタンスの財政運営をもたらしてきた原因にもなっている。現状の予算編成の課題に向き合い、「規模ありきの財政健全化」から脱却することが求められる。
目次

骨太骨子案が公表、財政目標を見直しへ

2024年の骨太方針策定に向けた議論が本格化している。4日に政府の経済財政諮問会議は今年の骨太方針の骨子案を示した。報道によれば、来週には原案が公表され、21日閣議決定のスケジュールとのこと。原案の内容についても既に報道が出ているが、閣議決定までに内容が変わることもあり、最終決定まで情勢は流動的である。

今年の最大の注目点は財政再建計画の内容だ。現状の計画が2024年度までの財政運営方針に関わるものとなっており、今回その内容がどう見直されるかが焦点だ。第一の焦点は財政再建の目標がどうなるか、という点だ。現在政府は「国・地方の基礎的財政収支を2025年度までに黒字化」「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」を目標として掲げている。報道などによれば2025年度PB黒字化目標はそのまま堅持する方針のようだ。政府は既に中長期財政試算を用いた分析などから「黒字化が視野に入っている」旨を示している(実際に黒字化するかは別。政府財政試算は追加の補正予算編成が前提になっていない)。

重要なのはその先だろう。岸田首相は今後6年間(2030年度まで)の経済財政計画を策定する方針を示しており、経済財政諮問会議の資料にも同様の趣旨の記載がある。25年度の先の財政指標に関する記載も盛り込まれる形となろう。黒字化が想定されている基礎的財政収支は「一定のPB黒字を維持」など、数値を明示しない形での黒字維持、といった趣旨の文言に落ち着く可能性が高いとみているが、この内容次第で財政運営の厳格度が変わってくる。利払い費などを含む財政収支の具体的な数値目標が盛り込まれるか否か、も焦点である。

魂は細部に宿る:財政再建目標よりも重要な「歳出の目安」

ただし、より重要なのは財政目標よりも、その具体的な予算編成に関わる「歳出の目安」がどうなるかだと考えている。「歳出の目安」は毎年の予算編成時における歳出増加分の上限を規定している。当初予算の編成において実効性があるのは、財政目標よりも実際の運営指針である「歳出の目安」だ。“目安”という遊びを認めるニュアンスの言葉になってはいるが、この歳出目安が取り入れられた2016年度の予算編成以降、政府はそれに沿った予算編成を続けており、実質的には予算編成の強力なルールになっている。

現状の「歳出の目安」において、当初予算の歳出額については、社会保障関係費の増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる、非社会保障費については実質横ばいに維持、することが求められている。政府は、この歳出目安が当初予算の歳出増加を抑え、PB赤字の縮小に貢献してきた、との立場を取っている。しかし一方で、これが却って補正予算や基金の濫立を招いた面は否定できないだろう。当初予算の増額を実質的に認めない形の規律が敷かれたことで、追加的な財政需要は補正予算で計上する予算編成スタイルが定着しつつある。

近年の政府の経済政策である“新しい資本主義”は産業政策の強化による「大きな政府」路線だ。岸田政権発足以降、世界の潮流変化もあって、脱炭素・経済安全保障・防衛・少子化などをテーマとした財政支出の拡大が行われてきた。これらの財政支出に度々用いられてきたのは補正予算や基金である。政府支出の多くには、政府投資を呼び水に民間投資を促す、という狙いがある。毎年の支出が不透明な補正予算や基金よりも、中期財政計画を策定し当初予算へ計画的に計上するほうが民間の予見可能性を高める点で優れているだろう。「歳出の目安」は柔軟な当初予算編成を困難にしており、そこで漏れた財政需要が補正予算や基金に回される構図になっている。近年の政府の大きな政府路線と2016年度から継続している予算編成手法がかみ合っていないことがこうした現状につながっているといえよう。

「規模ありきの財政健全化」から脱却を

財政支出の効果をより高める観点で、既存の歳出目安とそれに根差した「補正を緩めて当初を絞る」財政運営には見直しの余地が大きいだろう。政府は25年度PB黒字化が視野に入ったとのスタンスだ。であればこそ、財政指標の改善のみでなく、予算編成の在り方を始めとした予算の質の議論により踏み込む必要があるのではないか。中期計画などに基づいた当初予算中心の財政運営とすることで、将来の予算の目途もつきやすくなる。財政の予測に対する信頼性も高まろう。現在、政府の示している中長期試算は補正予算や基金からの支出を含んでおらず、実態と乖離した試算になっている。

歳出の目安は当初予算の歳出抑制に寄与する一方で、当初予算の歳出構造硬直化にもつながっている。しばしば“規模ありきの財政政策”という言葉が拡張的財政政策を指して用いられる。一方で、近年の予算編成が「規模ありきの財政健全化」に陥っている側面はないだろうか。ここからの脱却を図る観点で、歳出の目安をはじめとする財政運営方法が見直されるかどうかが、今回骨太の重要な論点だと考える。

(参考文献)

星野(2024)「ぶれてきた「財源の定義」~次期財政再建計画策定に向けたいくつかの課題~」

星野(2023)「「歳出削減額」はどうやって計算するのか?~細かすぎるけど伝えたい、大事な防衛・少子化対策財源の話~」

星野(2021)「骨太方針2021のポイント(財政再建目標編)~見直すべきは“当初を絞って補正を緩める”財政運営~」

梅澤(2024)「当初予算の「歳出の目安」と実績―転換点に立つ予算編成―」国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― No.1283(2024.5.28)

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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