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日銀は7月利上げの見通し

~それでも円安が阻止できないリスク~

熊野 英生

要旨

日銀には、円安阻止のために政府に協力する圧力が働いている。植田総裁はそうしたなか、7月利上げに動く公算が高まっている。筆者は、ロジックに難はあるが、6月の定額減税の効果を後押しするという理屈付けで、円安阻止・物価安定に力を尽くすと説明するのではないかと考えている。

目次

首相に呼ばれた植田総裁

日銀の追加利上げがいつになるかが注目されている。5月7日に植田総裁が首相官邸に呼ばれて、13日に長期国債の買入額の減額を発表した。10年金利は上昇して、5月22日以降は1%を超えている(図表)。最近の長期金利上昇は少しばかりペースが速い。

(図表)長期金利の推移
(図表)長期金利の推移

日銀は、円安防止を重視して、今までよりも早めに動くのではないかとみられている。筆者も、従来は10月利上げだとみていたが、そのタイミングはもっと早く7月利上げだと見方を変更した。

日銀が追加利上げに動こうとする根拠は、財務省の為替介入には機動性が乏しいことにある。財務省は、4月29日と5月2日に9.8兆円ものドル売り介入を実施している。しかし、米国のイエレン財務長官は、為替介入は滅多にやるものではないと釘を刺している。財務省は、1ドル160円を超えて円安が進めば、そのラインを防衛するために動くだろうが、米国から監視されているため、実際のところ介入がやりにくいのが実情だ。無理にやれば、日本は再び為替操作国の烙印を押される。また、為替介入には一時的な効果しかなく、為替は内外金利差で決まる部分が大きい。

日銀には、4月末の決定会合で円安を加速させてしまった責任もある。4月会合とその後の記者会見をみて、政府関係者の中には、日銀の対応があまり円安阻止に熱心ではなかったことに、批判的な人も少なからずいるはずだ。5月7日に、岸田首相と植田総裁が何を話したかの詳細は不明だが、岸田首相から植田総裁に、円安阻止への協力をお願いされた可能性は濃厚だ。

7月利上げのロジック

日銀にとって頭が痛いのは、3月のマイナス金利解除のときと同じロジックでは、7月は動けない点にある。3月は、基調的なインフレ率が上向くことを基準にして動いた。当時、春闘の集中回答日の数字が極めて高いものになり、機が熟したという印象があった。

今後は、それほど決め手になるイベントがない。基調的インフレ率の加速という点で言えば、本来は中小企業の賃上げが追いついてきて、10月くらいに追加利上げというのが、理路整然としている。そうした決め手がないところが、7月利上げの苦しいところだ。

現在は、岸田首相の意向も無視できない。基調的なインフレ率が、7月時点で高まっている証拠はほとんど見当たらないと思う。敢えて言えば、6月からは定額減税が開始される。この減税効果は、今のところ、電気ガス代の値上げなどに食われて、実質消費を押し上げるインパクトはごく小さいものになると考えられている。もしも、日銀が7月利上げに動けば、それが円安阻止につながるので、定額減税の消費刺激効果を高める方向に作用すると説明することはできる。

しかし、そうなると、円安防止のために追加利上げをしたかたちになり、基調的なインフレ率の上昇に連動しているという理屈とは必ずしも関係なくなる。日銀の政策は、通貨防衛のために追加利上げを早めるという構図になる。

反対に、7月利上げで円高になれば、それが物価抑制に働く。9月末には岸田首相が、自民党総裁選を迎える。それまでに、物価安定の成果をもたらすことになるから、首相へのアピールにはなる。

焦点は「それで円安は止まるか?」だ

日銀にとって7月利上げは賭けでもある。それで円安が止まればよいが、そうならなかったときに、さらなる追加利上げが求められてしまう。次の7月利上げが0.10%→0.25%で、その次が0.25%→0.50%だ。ここまで利上げをすると、短期プライムレートも上がり、企業の支払利息の増加や個人の住宅ローン支払いの負担増などの不満が聞こえてきそうだ。つまり、円安防止を取るのか、国内での金利負担の軽減を取るのか、という二者択一を迫られる。前門の虎、後門の狼という図式が色濃くなる。

現在の円安が+0.15%程度の政策金利の修正で流れを変えるとは到底考えられない。日銀が7月利上げに動けば、その次、またその次の利上げまで覚悟してから動かざるを得ない。

6月12日は、米国でFOMCが開かれて、そこで2024年末の政策金利の見通しが発表される。もしも、利下げがゼロないし1回という展望になると、米長期金利は上がって、ドル高・円安が加速しかねない。それがなくても、毎月の雇用統計、消費者物価の結果を受けて、ドル高・円安が進む可能性も十分にある。仮に、日銀が7月利上げに動く意思を示さなくても、円安が1ドル160円を超えて進みそうになれば、日銀への無言のプレッシャーは強まるだろう。

6月会合の焦点は利上げ示唆

6月13・14日に日銀の決定会合が開催される。この会合の結果と記者会見では、その次の7月に動くかどうかが注目される。もしも、日銀が近々動くとなれば、その前の会合で何の示唆も行われない訳はないだろう。抜き打ちの追加利上げにならないように、例えば記者会見で植田総裁は、利上げのヒントを話すだろう。日銀からすれば、7月会合の追加利上げで何とか円安進行を足踏みさせたいはずだ。そのためには、アナウンスメント効果を最大限に発揮させるために、6月会合から利上げ観測を強めて、マーケットに織り込ませるはずだ。僅か+0.15%の利上げであっても、事前のアナウンスがあれば、円安阻止に対する効果は相対的に大きく見せられる。日銀は、追加利上げの効果が小さいからこそ、手前にある6月会合から、何らかのアナウンスメントを事前に行って、限られた金融政策の影響力をより大きくする工夫を加えると考えられる。

熊野 英生


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