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ECBは6月に利上げ開始へ

~今後の6週間は利上げを検証するのに適切な時間~

田中 理

要旨
  • ECBは4月の理事会で政策金利を全会一致で据え置いたが、利上げの可能性について議論したことを明かした。今後の6週間で、中東情勢の展開、物価見通しへの影響、金融政策の反応を再評価するとしており、6月の利上げ開始を強く示唆した。その後の利上げ継続の有無とタイミングは、イラン情勢や資源価格の動向、二次的効果の兆しが広がるどうかに左右される。

欧州中央銀行(ECB)は4月30日に終わった金融政策を決定する理事会で、政策金利を据え置くことを決定した。ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、金利据え置きの決定が全会一致によるものだったが、理事会では利上げの可能性について真剣に議論したことを明かした。そのうえで、利上げを見送った背景として、①最近の経済指標が3月時点のスタッフ見通しから大きく乖離していないこと(=資源価格高騰の影響がまだ十分にデータで確認されていない)、②イラン情勢が緊迫化する以前の金融政策が適切な状況下にあったこと(=中立的な水準からの政策対応で、利上げを待つだけの余裕がある)、③金融環境や貸出態度などが引き締まり始めていること(=実際の利上げをしなくても、利上げに等しい効果が得られている)―を挙げた。総裁は次の理事会が開かれる6月11日までの6週間が、中東情勢の展開、物価見通しへの影響、それに適した金融政策の反応を再評価するうえで、適切な時間(right time)であると指摘した。

イラン情勢緊迫化の経済活動への影響は、企業の業況判断などソフトデータで確認できるが、同日発表された1~3月期のユーロ圏の実質GDP成長率が底堅く推移するなど、ハードデータではまだ十分に確認できない(図表1)。同時に、同日発表された4月のユーロ圏の消費者物価が前年比+3%に加速するなど、資源価格高騰の影響が物価の上振れにつながるリスクが高まりつつある(図表2)。イラン空爆開始後も安定した中期的な期待インフレ率も、ここにきて僅かに上振れしつつある(図表3)。理事会の声明文や記者会見でも、インフレの上振れリスクと景気の下振れリスクが高まっており、3月時点のベースラインシナリオから乖離し始めていることが示された(図表4)。

図表
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理事会内での利上げ討議の開始、6週間後の決断を示唆するラガルド総裁の発言、声明文のリスク判断を考えると、イラン情勢が急展開し、資源価格が大幅に下落しない限り、6月の理事会で利上げを開始する可能性が高いことが示唆される。その後の利上げ継続の有無とタイミングは、イラン情勢の緊迫化と資源価格の高止まりが継続しているかどうか、エネルギー価格の上昇が他の物価や賃金に波及する二次的効果の兆しが広がるかどうかに左右される。今回の資源価格の高騰局面では、ロシアによるウクライナ侵攻時と比べてガス価格の上昇が限定的だ(図表4)。欧州の電力価格はガス価格との連動性が高く、今回の資源価格高騰による物価の押し上げは、前回に比べて小幅にとどまる可能性が高い。物価の持続的な上振れリスクが高まれば、理事会毎の追加利上げで対応し、インフレ期待の自己増幅などが始まらない場合、四半期に1回のスタッフ見通しが発表されるタイミングで追加利上げを検討することになるだろう。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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