デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

内外経済ウォッチ『欧州~資源・物価高、欧州の政策対応は?~』(2026年5月号)

田中 理

目次

資源価格高騰の影響が広がる

米国とイランは4月8日に2週間の即時停戦で合意した。両国の主張や思惑には隔たりもあり、今回の一時停戦が、恒久的な終戦やホルムズ海峡の全面的な開放につながるかどうかは引き続き予断を許さない。また、一連の攻撃で湾岸諸国のエネルギー関連施設の一部が損傷しており、このまま事態が沈静化に向かった場合も、供給能力が本格的に回復するには、数年単位の時間が掛かりそうだ。原油や天然ガス価格が空爆開始以前の水準に戻ることは当面見通せない。

日本や多くのアジア諸国と異なり、欧州は中東産の原油・石油製品・天然ガスへの依存度がそれほど高くない。資源輸送の停滞が続いた場合も、資源不足に陥る可能性は低いが、エネルギー資源の多くを輸入に依存しているため、資源価格の上昇による打撃は避けられない。価格上昇に伴う資源国への所得移転の増加は、企業収益の圧迫、家計の光熱費負担の増加、財政赤字の拡大という形で現れる。先行き不透明感の拡大による経済活動の手控え、金融市場の動揺による逆資産効果や金融環境の引き締まり、金利上昇による需要抑制などの経路でも、景気を下押しする。

攻撃開始前に前年比で2%を下回っていたユーロ圏の消費者物価の上昇率は、3月に+2.5%に加速した。1バレル=100ドルを超える原油高が続けば、一時的に4%を上回ることが予想される。

図表
図表

欧州各国はどう対応しているか?

欧州各国の政府は、資源価格の高騰にどう対応しているのだろうか。最も積極的な対応を行っているのはスペインで、6月末までの時限措置として、エネルギー関連の付加価値税率(VAT)の引き下げ(21%→10%)、運輸業者や農家への燃料・肥料購入での補助金支給、低所得世帯向けの光熱費助成制度の延長、ガス価格の上限設定、再エネ投資への税優遇など、総額50億ユーロ(約8200億円)の緊急対策をまとめた。

ドイツはガソリン価格の値上げを1日1回に制限する。イタリアやポルトガルは、燃料税負担を軽減し、燃料価格の高騰による追加のVAT収入を納税者に還元する。フランスは運輸業者や農家を対象に、英国は低所得者を対象に、燃料費補助金を支給する。ハンガリーやポーランドは、ガソリンやディーゼル燃料の上限価格を設定した。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻時には、資源価格高騰による家計や企業への打撃を緩和するため、欧州各国が巨額の財政支援を行った結果、政府債務の膨張を招いた。今回は財政余力が乏しいこともあり、欧州委員会は加盟国政府に対して、補助金支給、減税、価格上限などの政策支援の規模や期間を限定するように呼びかけている。財政支援を可能にするため、一部の加盟国は、価格高騰の恩恵を受けるエネルギー企業への課税強化や、財政規律の柔軟運営を求めている。

図表
図表

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ